ドラマ『弱虫ペダル』の撮影中、自転車事故で脊髄を損傷し、首から下の自由を失った俳優・滝川英治さん。「死なせて」と医師に乞うた彼が、再び生きることを決めたのは、病室ですすり泣く母の姿でした。とはいえ、身体が思うようにいかない現実が立ちふさがります。「リハビリですか?最初は身体を起こすところから」と滝川さんは言いながら、今を生きている実感を言葉にのせます。

【写真】事故直後の滝川さん…痛々しい姿もありのままに発信してきた(7枚目/全17枚)

事故直後に馳せたのは「親に感謝と愛犬にエサを」

── 人気ドラマに出演していた滝川さんは収録時に起きた自転車事故により、首の部分の脊髄を損傷。事故当時のことは覚えていますか?

滝川さん:はっきりと覚えています。事故直後、体がまったく動かなくて、「自分はもう死ぬんだ」と覚悟しました。とっさに頭に浮かんだのは両親のことです。駆け寄ってきた共演者やスタッフに「両親にありがとうと伝えてください」とお願いした記憶があります。愛犬パールのことも気がかりでした。ひとり暮らしなので、僕に何かあればパールがお腹を空かせてしまう。意識がもうろうとするなか、「誰かパールにエサをあげてください!」と、何度も口にしていました。

次に気がついたときには、ドクターヘリの中にいました。応急処置のため、着ていた衣装のサイクルジャージをハサミで切られているところでした。強豪チームのエースという役どころを象徴する衣装が切り刻まれたことで、「大事な衣装に何をしてんだよ!」と、パニック状態に。もう自分はダメだという絶望のあまり、手術前には医師に「もうこのまま死なせてください」と、お願いしてしまうほどでした。

『弱虫ペダル Season2』(BSスカパー!)にて、強豪校である箱根学園の主将・福富寿一役を熱演した

── どのような状況で事故が起きたのでしょうか。

滝川さん:ロードバイク(レース用自転車)で坂道を下り、原付を抜くシーンの撮影でした。猛スピードでカーブにさしかかったところでハンドルから手がすっぽ抜け、宙に投げ出されてしまって。地面が目の前に迫り「やばい」と思った瞬間、頭から地面にたたきつけられ、気がついたら青空を見上げている状態でした。

ロードバイクの撮影は危険を伴うので、半年以上トレーニングを重ねていました。ただ、事故が起きたシーンのリハーサルは数回。撮影を重ねクランクアップ直前となるなかで、自分にどこか慣れというか、おごりのようなものがあり、何度かのリハーサルで「大丈夫です」と言ってしまったのかもしれません。あのとき、「もっと何度もリハーサルをしたい」と言っていれば、違う結果だったのかもしれない…と考えることはあります。

母のすすり泣きに「自分がしっかりしよう」と

── ご家族も心配されたことでしょう。

滝川さん:手術を受けたあとのことです。母がすすり泣く声で目が覚めました。その姿を見た瞬間に、「あ、自分がしっかりしないといけないな」と、気持ちが切り替わりました。大切なわが子がこういう姿になってしまったら、自分が代わってあげたかったと思うだろうし、その親心、つらい気持ちを客観的に考えたときに、心のスイッチが切り替わって、「俺が下を向いたままではダメだな。生きなきゃ」と、思い直しました。

── 家族の嘆きでかえってポジティブな気持ちになるのが不思議ですね。

滝川さん:両親は心配性なんです。いちばん近い存在で、体のことを考えてくれるからこそ、僕が何かしようとすると「ずっと寝ていればいい、ムリしなくていい」とストップをかけてくるんです。その優しさがありがたい一方で、つらくもありました。

退院後はそんな家族への甘えを断ち切り、自分の人生を自分の手で動かしたかったので、あえてひとり暮らしをすることにしました。案の定、母は「大阪の実家に帰ってきたら?」と、反対しました。ただ、父だけは「やりたいようにやれ。ただし二度と帰ってくるな」と。父なりの強い愛情と、僕の決意を見守る覚悟の裏返しだったのでしょうね。

毎朝7時からリハビリに励む女性を見て

── 脊髄損傷で首から下が動かない状態で、リハビリはどのような形で進められたのでしょうか。

滝川さん:身体が動かせないだけでなく、血圧のコントロールもうまくいかず、身体を少し起こすだけで起立性低血圧によるめまいや吐き気、頭痛が起きていました。ベッドを30度起こすだけで「ムリ、ムリ」という感じです。そのため、まずはベッドの角度を10度、20度と少しずつ上げる練習からスタートしました。

── リハビリというと、足を動かす練習などをイメージしますが、そうではないんですね。

滝川さん:最初は身体を起こすリハビリや、人工呼吸器を外して自力で呼吸するリハビリが中心で、続いて、感覚の残っていた手のリハビリが始まりました。今残っている機能を維持することを優先するんです。

リハビリにより、少しずつ手も動かせるように

── 無意識で当たり前にできたことを訓練する…。つらく大変だったかと思いますが、何を支えにがんばったのでしょうか。

滝川さん:リハビリ病院に入院しているときは、ほかの患者さんたちの障がいと戦う姿にずいぶん励まされました。病院でスタッフの方と一緒にやるリハビリって、24時間の中で、せいぜい2時間くらい。大事なのは、それ以外の自分ひとりのときに何をやるかです。あるおばあちゃんは毎朝7時頃から、義足を履いて廊下で黙々と歩行練習をしていました。自主トレ仲間として仲よくなって、その方が退院するときには励ましのお手紙もいただきました。

入院患者はみんな心や体に傷を負っていて、戦友のような存在です。その戦友たちとコミュニケーションを取ってリハビリにプラスにつなげることができました。

取材・文:鷺島鈴香 写真:滝川英治、えりオフィス