「家族全員でいじめと戦うということ」より/画像提供:さやけん( @saya_ken2)

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学校生活を楽しく過ごしていると思っていた娘が、実はいじめにあっていた。そのとき親は、どうしたらいいのか...。育児やエッセイ漫画をSNSに投稿しているさやけん(@saya_ken2)さんの連載漫画「家族全員でいじめと戦うということ」が、大きな反響を呼んでいる。今回は漫画の冒頭部分を紹介するとともに、さやけんさんに作品を描いたきっかけや、伝えたいことを聞いた。

【漫画】「家族全員でいじめと戦うということ」1-0

■いじめは本当に複雑で難しい問題。漫画を通して疑似体験し、知ってほしい

「お姉ちゃん、学校でいじめられてるんだって」。小学5年生のハルコちゃんと1年生のフユタくんの母親であるナツミさんは、フユタくんからの突然の言葉に驚く。心配したナツミさんは、下校後に公園へ遊びに出かけたハルコちゃんを見に行くが、公園に姿はない。しかし帰ったハルコちゃんは、「ずっと公園で遊んでいた」と言う。その言葉にナツミさんは不安を募らせていく...。

その後、ハルコちゃんは家族に見せる笑顔の陰で、実は4年間もいじめを受けていたことが明らかになる。ナツミさん家族は最終的に転校のため引っ越すことを決めるが、漫画ではそれまでの家族の行動と、いじめの実態について迫っていく。さやけんさんの友人の体験を元に、フィクションを交えて描かれた今回の作品。描こうと思ったきっかけは何だったのだろうか。

「いじめは『この人が加害者でこの人が被害者』という簡単なものではなく、本当に複雑で難しい問題なのだと強く感じています。誰しも一度は見たこと、聞いたこと、体験したことがあるような、ささいなことが発端だったりもします。ナツミさんと同じように、私自身も我が子を思うあまり判断を間違えることもあるでしょうし、怒りや悲しみの感情に身を任せ、物事の本質を見失い、結局は大切な我が子を追い込んでいくことさえあり得ます。疑似体験として、小さな子供たちのそんな実態を誰かに知ってほしい、自分自身もこの話を感情移入しながら描くうえで学ぶことができれば、と思い描き始めました」

■「真実」は語り手の視点により変わる。複数の立場からいじめを描く

主人公は母親であるナツミさんだが、漫画では、いじめを傍観者、被害者、加害者の視点から少しずつ、丁寧に紐解いていく。さやけんさんは「語り手のイメージや想像に過ぎないことであっても、その視点のみに焦点を当てて描く」ことを心掛けているという。

「『真実』は語り手の立場と視点によって大きく変わります。その人が嫌いだからとか、話し方が気に入らないからとか、派手だから、目立つから、暗いから、よそ者だからと、その印象に惑わされることも多いと思います。それらの言葉が全て真実とは限りませんし、その裏側ではもっと複雑な事柄が含まれているはずです」

複数の視点で描かれる漫画は、私たちに「もし自分の立場だったら」と問いかけてくる。さやけんさんは漫画を通してどんなことを伝えたいと思っているのだろうか。

「いじめの加害者が悪いのは当然ですが、誰が加害者になるかはわかりません。心に傷を負った被害者にとっては、傍観者も、助けてくれなかった先生や大人も、加害者と何ら変わりはありません。大切に育て、人を敬う気持ちを教え続けていた我が子が結果的に加担していた、ということも決して少なくないと思います。勇気を出して声を上げれば自分も被害に遭うかも、というのは、子供たちにとっては恐怖でしかありません。どうすれば被害にあった子が相談しやすくなるのか、先生はどう動くべきなのか、傍観者になってしまった子はどうすればいいのか。我が子がいじめに加担していた場合、親はどうするべきなのか。それを考えるきっかけになればと感じています」

■「家族全員でいじめと戦う」タイトルに込めた意味とは

漫画には、「私もいじめられていて、親にも言えなかった」「どうするのが正解なんだろう」など、たくさんのコメントが寄せられている。連載中の漫画だが、さやけんさんは寄せられた声にあえて結末について触れて返信しているそうだ。

「このお話を描き始めてから、多くの体験談をいただくことが増えました。先生や親が助けてくれたという方がいる一方で、誰も助けてくれず、今も心に傷を抱えている方も多く、本当に胸が締め付けられます。返信の際に必ずお伝えしているのは、『このお話はハッピーエンドです』ということです。ハルコちゃんのモデルになった女の子は、4年間のいじめを乗り越え、現在はとても幸せに暮らしています。最終話のハルコちゃんの幸せそうな笑顔を見て、その笑顔に安堵し、少しでも幸せな気持ちになってもらえたらと思います」

最後に、漫画の今後についてと、読者へのメッセージを貰った。

「現在、漫画のなかでは勇気を出して真実を語る決心をしたハルコちゃん本人の回想が描かれています。主犯格とされた子、傍観者となり傷ついた元クラスメイト、それぞれの親も巻き込み、お話も終盤へと差し掛かっていきます。『家族全員でいじめと戦う』というタイトルには、被害者家族だけでなく、加害者家族という意味も込めています。ハルコちゃんの両親、そして加害児童やその親たちの行動が、一般的に見て正しかったかどうかはわかりませんが、結果的にハルコちゃんは現在とても幸せに暮らしています。うまく伝えられるよう何度も修正しながら心を込めて描いていますので、最後まで読んでいただけるととてもうれしいです」

被害者に一生消えない心の傷を残すいじめ。我が子がいじめにあっていたら、関わっていたら、どうしたらいいのか。漫画を通して、目をそらさず考えていきたい。

取材・文=松原明子