【なぜ?】MT車が最近増えた理由 電動車増加で「ダイレクトな感覚」恋しく
6速MT車が増えたtext:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)editor:Taro Ueno(上野太朗)
最近はクルマ関連のニュースで、燃費規制や電動化が取り上げられる。
2030年度燃費基準では、燃費基準推定値が25.4km/Lまで高められた。燃費基準の達成度合いは、2020年度燃費基準と同じくCAFE(企業別平均燃費方式)で判断するが、2030年度燃費基準をクリアするにはすべての新車をハイブリッドや電気自動車にすることが必要だ。
マツダ2東京都などは「2030年度までに、新車として売られる車両のすべてを電動車(ハイブリッド/プラグインハイブリッド/電気自動車/燃料電池車)に切り替える」としているが、それ以前の話として、2030年度燃費基準に適合させるために電動化が進む。
このようにモーター駆動を併用する車種が増える一方で、古典的な5速あるいは6速のMT(マニュアルトランスミッション)を搭載する新型車も増えてきた。
6速MTに最も力を入れるのはマツダだ。
コンパクトカーのマツダ2(旧デミオ)、SUVのCX-5などにも6速MTが用意される。選べない車種は、LサイズSUVのCX-8、マイルドハイブリッドと電気自動車のみで構成されるMX-30だけだ。
トヨタも最近は6速MT車を充実させる。2016年に登場したC-HRを皮切りに、カローラ・セダン、カローラ・ツーリング、ヤリスなど、スポーツモデル以外にも6速MTを用意するようになった。
ホンダのシビックは、2LターボのタイプRに加えて、1.5Lターボのハッチバックでも6速MTを選べる。2020年11月に発売された軽自動車のNワンにも、6速MTを新たに設定した。
スズキではスイフトスポーツの6速MTに加えて、ベーシックなスイフトのRSなどにも5速MTがある。軽自動車ではアルトワークスにも5速MTを採用した。
メーカー戦略や生産台数確保は?
マツダはMT搭載車を戦略的に普及させている。運転の楽しいクルマづくりをブランド全体の特徴に位置づけ、その一環として6速MTを設定した。
シフトレバーの操作が老化の防止に役立つという趣旨の研究もおこなうほどだ。6速MTがマツダ車の価値を高める側面もあるため、大半の車種で選択できる。
ホンダNワン(RSにMTを用意する)それ以外のメーカーは、個々の車種ごとに判断している。
Nワンについては、開発者によると「以前からユーザーの希望として6速MTのニーズがあり、スポーツカーのS660と商用車のNバンが採用したため、Nワンにも搭載できるようになった」とのことだ。
軽自動車は機能や装備の割に価格が安く、6速MTも大量に生産できないと採用するのは難しい。先代Nワンを発売した時点では、6速MTを用意するのは無理だった。
しかし価格の高いS660が採用して(スポーツカーだから装着率も高い)、Nバンも同様の6速MTを設定したことにより、Nワンに搭載することも可能になった。
トヨタはコストを考慮しての車種選定
トヨタの場合、カローラ・セダンとツーリングでは、売れ筋のCVT(無段変速AT)車に低コストの1.8Lノーマルエンジンを組み合わせる。
そしてスポーティな6速MTは、1.2Lターボエンジンとした。開発者は「1.2Lターボは低回転域の駆動力は少し細いが、実用回転域ではパワフルになる。そこで6速MTとターボを組み合わせた」と説明する。
トヨタGRヤリスC-HRは欧州指向の強いSUVで、プリウスから採用を開始した新しいプラットフォームに改善を加えた。なおかつ発売当初はザックス製のショックアブソーバーを使うなど、走行安定性のチューニングも巧みにおこなっている。走りに重点を置いた新感覚のSUVとあって、1.2Lターボエンジン搭載車に6速MTを用意した。
ヤリスも1.5Lノーマルエンジンの全グレードに6速MTを設定した。
以上のようにトヨタは、比較的コンパクトな走りに重点を置いた車種で、6速MTを増やしている。この理由として、6速MTのコスト低減もある。登録台数の多い車種であれば、6速MTも設定しやすい。
AT限定運転免許によりMT車が貴重に
6速MTが増えた背景には、複数の事情がある。
まずは近年になって、MT車の選択肢が減りすぎたことだ。運転免許統計によると、2019年に第一種普通運転免許を取得したドライバーのうち、67%がAT限定であった。近年はMTを運転できないドライバーが増えて、MT車の売れ行きも下がった。
マツダCX-5(海外仕様)この影響もあってか、MT車のバリエーションが激減してしまった。日本には国産車だけでも160車種前後が用意されているのに、MTを選べる車種は、一部のスポーツカーを除くとほとんどなくなった。
MT車の販売比率も5%以下だ。そうなると逆にMT車が貴重な存在になり、反動でニーズが高まり、ラインナップも増え始めた。
開発者からは「もともとは海外向けに開発したMTの完成度が高かったので、日本のユーザーにも提案する意味で設定した」という話も聞かれる。MTを設定する理由はさまざまだ。
販売店に尋ねると「MT車の売れ行きは少ないが、クルマ好きのお客さまには人気が根強い。コンパクトで手頃な価格のMT車を希望するお客さまもいる。MTがあるんだね、と関心を持たれることもある。最終的には奥さまの意見を聞いてATを選んでも、MTはイメージリーダーになり得る」とのこと。
電動車増加でMT恋しく
最近は冒頭で触れたとおり、モーター駆動を併用するハイブリッドなどのニーズが高い。
2020年に新車として販売された小型/普通乗用車については、約40%がモーター駆動システムを搭載している。これらのトランスミッションはいずれもATだ。
ホンダNワン無限二酸化炭素の排出量や化石燃料の消費量を抑えるために、電動システムを使った車種が増えるのは当然の成り行きだ。しかし電動車が膨大に増えると、シンプルに運転できるMT車が、妙に魅力的に感じられることもある。
コンパクトSUVのロッキー&ライズの開発者は「今のところロッキー&ライズにMTの設定はないが、2019年の東京モーターショーに出展した時など、MTはないのかと頻繁に尋ねられた」という。
コンパクトなボディに、適度な動力性能を組み合わせたクルマをMTで運転する。現在の中高年齢層が若い頃は、これが当たり前だった。
ところが今は状況が変わり、クルマの機能が進化してモーター駆動も採用されたことで、ドライバーの操作と車両の動きに微妙なズレが生じてきた。この違和感が積み重なると、クルマをダイレクトに操作できるMTが恋しくなる。
MTにはスポーティなイメージも強いが、最近搭載車が増えているのは、前述のヤリス、C-HR、Nワンのようなコンパクトな車種だ。
運転するユーザーの思いは、クルマとの距離感を縮めて、安心して普通に走りたいというものだろう。MTは本来、身近な存在なのかも知れない。

