「京大マガジン」創刊 ノーベル賞受賞者インタビューも林業家エッセーも 気をつかわず発言できる場に

「京大マガジン」の藤原辰史編集長
京都大発の雑誌「京大マガジン」が3月に創刊された。ノーベル賞受賞者のインタビューから、林業を営む卒業生のエッセーまで収める刺激的な雑誌だ。編集長を務める同大教授の歴史学者、藤原辰史さんは「『異種交流の実験室』にしたい」と話している。
――ノーベル化学賞受賞の北川進さんに中国哲学の研究者・宇佐美文理さんが聞くインタビューは、異色です。
雑誌を一緒に企画してくれた出版社・ミシマ社代表の三島邦弘さんの発案です。北川さんが座右の銘にしている「無用の用」という荘子の思想について、その専門家が聞いたら面白いんじゃないか、と。今の日本は「用」ばかりを求めますが、そのプレッシャーから私たちを解き放ってくれる言葉ですよね。北川さんも楽しそうに応じてくれました。
――「文理融合」ですね。
深みのある議論のためには、1人の中で文理が融合していないとだめなんです。文系と理系の人が「すごいですね」と交わすだけで終わるのではなく、科学者の中にある歴史、歴史学者の中にある科学という異物をお互いに引き出しあう場に、京大マガジンがなったらいいなと思います。
小学校では国語・算数・理科・社会を習いますよね。算数の授業で「速さ」の定義を習った直後、国語の授業でその意味を考えるような、そういった経験はとても大事です。
文系理系問わず受講できる一般教養の講義も担当していますが、理系にも鋭い歴史的感覚を持っている学生がいます。近代の学問は各分野に細分化され、悪い意味での「砦(とりで)」を作ってきました。その壁を越えることができる小学校的なわくわく感を、大学は絶対に失ってはいけません。
――誌面に登場する京都大の研究者や出身者は、北川さんや文芸評論家の三宅香帆さん、鳥取県の林業家やスペイン出身で日本料理史を研究する大学院生など多彩な顔ぶれです。
各界の著名人の成功譚(たん)が並ぶような、ありがちな同窓雑誌にはしたくなかった。京大入学はしばしば「ゴール」とみなされますが、ゴールではなくプロセスにすぎません。京大では日々、試行と失敗が繰り広げられている。研究でも人生でも、うまくいかないことの方が多いのではないでしょうか。
だらりと力を抜きながら、思うがままにいろんな連想を仲間たちと話し合う、心の副交感神経を働かせることのできるわちゃわちゃとした場が、全世界の大学から失われてきています。そうなると、学問の中から生活が遊離していく。
せめてこの雑誌が、気を使わず自由に発言できる場所であってほしい。知を個人の所有物にとどめず、シェアして実験していく場にこそ、学問の創造があるはずです。(聞き手・平賀拓史)
年1回発行予定
<ミシマ社提供>
「京大マガジン」は京都大総合研究推進本部(KURA)が発行。テーマを「失敗」と銘打った3月刊行の創刊号「0号」は、注文が相次いだため当初想定の2千部から増やして3千部を用意したが、版元のミシマ社ではすでに在庫切れ。今後は年1回の発行を目指すという。=朝日新聞2026年4月15日掲載
