紅白で唄った「赤とんぼ」、審査員だった“浪速のロッキー”の目には光るものが…由紀さおり・安田祥子「童謡コンサート40周年」唯一無二の魅力
姉妹で日本の童謡を歌い続けて40年――由紀さおり・安田祥子による童謡コンサートが40周年を迎えたのを記念して、ベストアルバム「〜日本の四季〜」が4月15日に発売された。40周年にちなみ、これまで発売された「あの時・この歌」シリーズ11作の中から、近年の配信で人気のあった40曲をセレクトした。日本語を大切に、歌に思いを込めて40年……6月にはコンサートも開く二人に、童謡の魅力や奥深さなど、話を聞いた。(全2回の第1回)
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40年で変わったもの
「どこかで春が」「鯉のぼり」「十五夜お月さん」「われは海の子」「ちいさい秋みつけた」「たきび」「雪の降る街を」……誰もが一度は口ずさんだ童謡が並ぶ今回のアルバム。四季に合わせた選曲にもなっている。姉妹で童謡を歌い続けてきた40年間を振り返ってもらった。

「童謡の歌詞には日本語の美しさがあり、アクセントに合った旋律があります。春夏秋冬の季節の豊かさ、日本語のたおやかさも表現されています。令和の今は“二季”になってしまったなんて言いますけど、この40年間で、日本語の美しさや、四季の移ろいが失われてしまったな、という思いを強くしています」(祥子さん)
加えて「人の気持ち」も失われたと、姉の祥子さんはいう。この4月から導入された、自転車の各種反則制度にもそれが表れている。
「113項目もあるんですよ。それを全部、言葉にしないと分からなくなってしまっている。普通に生活していたら当たり前だと思うこともでも、言葉(ルール)にしないといけない。世代によって“当たり前”のレベルが違うんだな、ということも感じます」(同)
さおりさんも同様で、日本語の使い方、使われ方の変化が気になっているという。
「話のプロであるはずの、アナウンサーの言葉遣いが気になることがあります。この前も天気予報で、“雨量”という言葉を、“今夜もうりょうが多いので”と、同じアクセントで発音するアナウンサーがいました。ものすごく違和感がありました。雨量は“う”にアクセントを置いて発音するものなのに……。あと、台風中継で海岸を映す映像を見ながら“波が込み上げています”って(笑)。波は“打ちつける”か“打ち寄せる”ではないの? あるいは“防波堤を大きく越えています”ならわかるけど、“込み上げる”は変ですよね」
美しい日本語とは、そのまま「正しい日本語」でもあるのだろうか。さおりさんが、童謡の「富士山」の歌詞(巌谷小波・作詞)で説明してくれた。
あたまを雲の 上に出し 四方の山を 見おろして
かみなりさまを 下に聞く 富士は 日本一の山
誰もが一度は口ずさんだであろう、有名な歌だが、さおりさんが特に素晴らしいというのが、2番の歌詞。
青空高く そびえ立ち からだに雪の 着物着て
かすみのすそを 遠く引く 富士は日本一の山
「“遠く引く”という詞が、本当に素晴らしいと思うんです。“長く引く”ではないんです。“遠く”と書くと距離をあまり感じないし、延々と遠くまで霞がかかっているイメージがわいてきますよね。見事な情景描写だと思うんです。これが日本語なんじゃないかしら。想像力を豊かにしてくれる先人たちの表現力は本当に見事だと思います」(さおりさん)
100人の観客がいたら…
記者には忘れられない思い出がある。1994(平成6)年おおみそかの、第45回NHK紅白歌合戦。出場したさおりさんと祥子さんが「赤とんぼ」を歌っている途中、審査員席の俳優・赤井英和(66)の目から、涙がツーっと頬に落ちるのをカメラがとらえた場面――。
「私は歌謡曲、お姉ちゃんはクラシックと、大人になってから進んだ道は違います。でも、ひばり児童合唱団(*1943年に設立された日本を代表する児童合唱団)で皆川和子先生の指導を受けていますので、童謡は理屈抜きで一緒に歌えるジャンルです。でも、気を付けていることは、私なら“由紀さおり風に歌わない”。お姉ちゃんは自分にとって一番歌いやすいキーではなく、お客様が聴いていて違和感なく、自分も一緒に口ずさめるようなキーで歌うこと。(由紀さんの本名でもある)安田シスターズとして、二人で一つの作品を作ってきました」(さおりさん)
だからね――とさおりさんは続ける。
「私たちが歌う『赤とんぼ』を、100人のお客様が聴いてくださったら、それぞれの頭の中に色々なイメージや情景が浮かぶように……どの曲でもその思いは変わりません。『赤とんぼ』なら、ストレートに赤とんぼを連想する人もいれば、故郷の景色、両親の姿、子供のころに過ごした学校や遠足でいった野山、先生や友だち……そうした情景や思いに浸れるように、歌い続けてきたんです」
赤井さんが思わず流した涙の理由はこの辺りにあるのだろう。歌唱以外にもこだわりはあるのだろうか。
「衣装のチョイスですね。ステージで着る衣装も含めて、大体、私です(笑)。お姉ちゃんの好みは分かっているから、素材や色目とか、いくつか選んだ中から、最終的に“これ、どう?”と相談して決めています」(さおりさん)
ただ、一見すると同じように見える衣装でも、細部にこだわりがあるという。
「もし、二人の衣装が違い過ぎてしまうと、お客様の目があちこちに行って、落ち着かなくなる。でも、同じ衣装を着ていれば、お客様もイメージが固まりやすいし、シンプルなものでもより華やかに見える。でも、私のスカートが短めならお姉ちゃんはロングにするとか、二人で全く同じものを着ているのではなくて、少しだけ違うようにしています」(さおりさん)
こうした細部にまで徹底的に気を配るのは、姉妹を育て上げた偉大な“プロデューサー”の存在がある。
【第2回は「「向こうへ行って遊んでらっしゃい」…由紀さおり・安田祥子の“厳しい母”が病床で発した“最期の言葉”」】
姉・安田祥子
声楽家。妹の章子(由紀さおり)と共に「ひばり児童合唱団に所属」。東京芸術大学卒業後、オペラ「フィガロの結婚」のスザンナ役で声楽家としてデビュー。ソプラノ歌手としてモーツアルトからワーグナーまで、数々のオペラに出演する傍ら、東京芸大講師として18年間、後進の指導にもあたる。日本歌曲、童謡、唱歌からクラシックまで幅広いジャンルを歌い、講演活動も行っている。
妹・由紀さおり
本名・安田章子。幼少期から童謡歌手として活動し、姉の祥子と共に小学〜高校生まで「ひばり児童合唱団」に所属。1969年「夜明けのスキャット」でデビューする一方、女優として映画やドラマ、またバラエティ番組への出演や司会など、多方面で活躍する。1970年、「手紙」で日本レコード大賞歌唱賞、83年、映画「家族ゲーム」で、毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。姉の祥子と共に、美しい日本の歌を次世代に歌い継ぐ活動を続けている。
デイリー新潮編集部
