『リンダ リンダ リンダ 4K』©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

写真拡大

 公開から20年が経った『リンダ リンダ リンダ』が4Kに修復されスクリーンに帰ってきたが、彼女たちのきらめきは微塵も色褪せていない。むしろ2025年に改めて観直すことによって、この映画がどれだけ多くの作品に影響を与えてきたのかを知ることができるし、あるいは当時にはなかった新たな発見があるかもしれない。

参考:ペ・ドゥナ×前田亜季×香椎由宇×関根史織、『リンダ リンダ リンダ』驚きの秘話と4人の絆

 本作にはわかりやすい起承転結がない。あるメンバーの怪我をきっかけに分裂してしまったガールズバンドが、文化祭前日に韓国からの留学生ソン(ぺ・ドゥナ)を迎え入れ、ブルーハーツを演奏すべく練習をするというだけの話である。映画の大半を構成するのは女子高校生たちの他愛もない会話と日常だ。

 2001年生まれの著者は当然ながら2005年の封切り時の鑑賞は叶わず、軽音楽部に所属していた高校生のころ、配信で『リンダ リンダ リンダ』に出会った。今回のリマスターが初めての劇場鑑賞となる。

 しかし本作の影響下にある作品を多く摂取してきたことを今回あらためて実感した。たとえば4年後に放送開始した『けいおん!』はリアルタイムではなかったものの鑑賞してきたし、ちょうどバンドをやっていた高校のころは『BanG Dream!(バンドリ!)』シリーズが流行していて、部活の同期たちには『バンドリ!』のピックを使っている人も多かった。高校を卒業ししばらく音楽から離れていたわたしであったが、2022年に放送開始した『ぼっち・ざ・ろっく!』(以下『ぼざろ』)でふたたびバンド作品に心を奪われた。『リンダ リンダ リンダ』はこれらわたしが通ってきたすべてのバンドものの源泉としていまも息づいているように思われる。

 『リンダ リンダ リンダ』から10年以上の時を経て生みだされた『ぼざろ』は、この映画の空気感を保存する一例である。『まんがタイムきららMAX』にて連載中の本作は2022年にアニメ化されたのち、2024年には劇場版総集編が公開され、TVアニメ第2期の制作も決まっている。『ぼざろ』は「陰キャならロックをやれ!」というキャッチコピーの通り、陰キャでぼっちな主人公・後藤ひとりがひょんなことからバンドに加入する物語である。ひとりはソロにおいては動画投稿サイトで名の知られるほどの実力をもっているが、バンドでの演奏となるとうまくできない。そんなひとりとメンバーたちが協力しながら「結束バンド」としての成功をめざすのが『ぼざろ』という物語である。

 『ぼざろ』は『リンダ リンダ リンダ』とは違い、もともとの活動の場がライブハウスなのだが、アニメの終盤は文化祭での演奏ということもあり、彼女たちの姿はつい重なってみえてしまう。『ぼざろ』も『リンダ』も、いわゆる「空気系」や「脱力系」の部類に属し、どうでもいい会話が物語の大半を占める。わかりやすく感動を誘う絆や成長の演出よりも、ただただ彼女たちのありふれた日常に重きが置かれている。

 そんななかで明確に彼女たちの成長を表現するのが、“音”である。冒頭の拙い演奏から音同士が連結した耳障りの良い演奏へと変容してゆく、その成長を語るのは“音”以外の何者でもない。これはたとえば『ぼざろ』の原作である漫画という媒体ではなしえない表現だ。脚本がゆるい分、演奏シーンの“音”そのものに成長の語りを託したその手法は、『ぼざろ』と『リンダ リンダ リンダ』に共通する、というより『リンダ リンダ リンダ』の流れの先に『ぼざろ』が位置している。

 登場人物の成長描写の薄さという点では、今泉力哉の映画を思いだす。今泉は『リンダ リンダ リンダ』の監督・山下敦弘に中野駅のトイレで初めて出会い、『リンダ リンダ リンダ』のエキストラ募集に誘われたという。その後ワークショップの手伝いをしたり、短編映画の編集をしたりと2人の親交は深く、今泉は山下について「ほんとに出会ってなかったら今の自分はいないくらい作品からも人物からも影響を受けた監督」と公言しているほどだ。

 今泉の監督する作品の登場人物たちは成長しない。たとえば『街の上で』の主人公・青(若葉竜也)は、彼女との別れや自主映画への参加というイベントを経るが、映画のはじまりとおわりで大きく性質が変化することはなく、なにか啓示的な学びを得るわけでもない。それはリアリズムであるともいえるし、変わらない現実を生きる変わらないわたしたちへのエールであるともいえる。変わらなくてもよいのだと説いてくれるフィクションの存在は、たしかにわたしたちの日常を祝福してくれる。

 『リンダ リンダ リンダ』もまた、女子高生の華やかな成長譚ではない。彼女たちが文化祭後どうなったのかは本編では描かれず、観客の想像に任されている。彼女たちはあのメンバーでバンド活動を続けたのだろうか、ソンはいつ韓国に帰るのだろうか--答えはすべてわたしたちに開かれている。願わくば彼女たちのゆるくたのしい日常と雰囲気が保存され、「別に意味なんかないよ」と無意味なことに真剣になれる大人になっていますように、そして時には集まって駄弁る仲でありますように。

 『リンダ リンダ リンダ』を初めて観た高校生のころ、毎週部室で駄弁っていたバンドメンバーたちとはすっかり疎遠になってしまった。当時は知りもしなかったけれども、こういうゆるい空気を存続させることは大人になればなるほど難しい。だからこそ『リンダ リンダ リンダ』がスクリーンに映しだしたユートピア的なゆるさに癒され、そして励まされた。変わらないゆるい日常にこそ、人生が立ち現れるのだ。(文=丹渡実夢)