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EVシフトは壮大なエネルギー政策

日本がまだバブル景気に湧いていた1990年、ノルウェー政府は、EVに対する輸入税を適用外とした。その後も通行料や駐車料金の無料化、付加価値税(25%)の免除など、次々と優遇政策を打ち出していく。その結果、EVを所有することでかかる費用は内燃機関自動車(ICEV)より低く抑えられている。

ノルウェーは急峻な山が多く、雪解け水が豊富だ。水力発電は88%、さらには風力と太陽光を合わせた再生可能エネルギーの割合が実に99%にも上る。


雪景色の中のテスラ・モデルY。一見、EVには過酷すぎる環境だが……。
    テスラ

国の人口560万人の生活を支えるのに十分な電力生産があり、これにより、クリーンで環境に優しいのはもちろん、電気料金を低く設定できている。一方で、ガソリンは、課税により高額になっている。

1兆7000億ドル規模の政府系ファンドが管理する北海油田から取れた原油と天然ガスは輸出に回し、外貨を獲得する余裕がある点にも注目したい。石油資源枯渇の未来に備えるべく、この潤沢な資金をEVインフラ投資に充てているのだ。

フォータム、サークルK、テスラなどの企業が自治体と連携し、官民が一体となって、高速道路や主要道路、遠隔地などに充電施設を設置。それによりノルウェーは、人口あたりの公共急速充電器の数が世界一多い国となっている。

ノルウェー政府が30数年以上前の早期にEV化に舵を切ったのには、エネルギー事情が影響しているのだろう。

EVに適した環境

スカンジナビア半島西岸に細長く延びるノルウェーの国土は約38万5000平方kmで、日本(37万8000平方km)とほぼ同じ。

山岳地帯が連なり、長距離の移動には飛行機が用いられるため、自動車での移動は短距離になる傾向がある。EVの航続距離は今のところICEVにはかなわないが、ノルウェーで日頃乗る分にはほとんど困らないところまで来ている。


ノルウェーの隣国、スウェーデンのボルボは、EV比率を順調に高めている。    ボルボ

首都オスロの人口は約70万人で、都市圏には約100万人が暮らす。2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を2009年から95%削減するという目標を掲げており、都心部への非居住者のクルマの乗り入れは原則禁止されている徹底ぶりだ。

北欧は環境意識の高い地域で、各国が脱炭素社会を目指しているが、それにしてもノルウェーのEV率は突出している。

これには実は、気候も関連している。オスロでは、冬季に氷点下26℃を記録したことがある。国土全体が北極に近く極寒の地なのだ。

極端な低温になるとバッテリーの性能が低下し、もちろんEVには好ましくない。だがその前に、ICEでもあまりに低温だとエンジンオイルは凝固してしまう。始動させるためにまずヒーターでクルマを温める必要があるのだ。ノルウェーではそのための電源が、以前から各世帯に普及している。つまり、EV化する前からすでに、一般的な家庭に重要なEVインフラが整っていたのだ。

したがって、新たに家の車庫に充電設備を設置する必要がない。これには地味ながらもEVの敷居を下げ、裾野を広げる効果があったと推察できる。

合理的な戦略と実行力

EVは電力で駆動し排気ガスが出ないため、環境に良いとされている。しかし、充電する際の発電にグリーンエネルギーが用いられていない場合、結局、二酸化炭素などが大気中に大量に排出されることになる。また、バッテリーのリサイクルなど、EV全体として考えた時に、必ずしも環境に優しいとは限らないという意見も聞かれる。

欧州連合(EU)は、2035年までにICEVの新車販売を全面的に禁止するとしていたが、条件をやや緩和し、環境に優しい合成燃料を使う車は認める意向。つまり、少なくとも近い将来は、必ずしもEVだけが最良の選択肢ではないという認識に改めた形だ。


EUは必ずしもEVだけが最良の選択肢ではないという認識に改めている(写真はイメージ)。
    フォルクスワーゲン

しかしノルウェーの事情に限ってみると、潤沢なエネルギーや財源、環境、インフラ等々、知れば知るほどEV路線に突き進むことに合点がいくのだ。

ノルウェーは、合理的な戦略に基づき、政府主導で公金を大胆に投入してきた。そして動き出しも非常に早く、長期的に実行に移してきた。1990年に大きく政策が動き出したということは、それよりも前に綿密な計画を練っていたということになる。

一方で日本は、国土や自然環境についてはノルウェーとの共通点もありながら、エネルギー事情や人口規模はかなり異なる。また、日本の自動車メーカーの強みは、内燃機関(ICE)だ。伝統的にエンジンの性能が、日本車の国際的な競争力の源泉になってきたと言える。そういった点を鑑みると、ノルウェーのようなEV優遇政策や、大胆にEVに傾斜させた公金投入をすることは難しかったのだろう。

ノルウェーの事例を参考にはできても、そのまま日本で実行するのは現実的ではない。しかし、この実に合理的な戦略と実行力から学べることも、多いのではないだろうか。