エーザイCEO・内藤晴夫のエンパシー経営論「患者さんとの共感関係ができてこそ」
社長就任前の1980年代、父・祐次氏がつくった筑波研究所に責任者として赴任。
当時、同研究所には、後に認知症治療薬の『アリセプト』を生み出す杉本八郎氏ら気鋭の研究者が集まっていた。
「とにかく次の薬をつくらなきゃいけないというので、もう夜通し飲みながら語り合っていましたね。本当に研究所にずっと泊っていましたから」と30代の研究所時代を振り返る。
その頃、同研究所では、脳の関連ともう1つ、胃酸の分泌を抑制する新薬の2つを開発中。この2つのグループが壮絶な開発競争を繰り広げていた。
「彼らは、失敗に絶対にめげないというタイプ。研究のことだけしか考えていなかった」
そうした命懸けで研究をしているスタッフが日々壮絶な争いをしている。
「何を争っているのかというと、リソース、研究資源の奪い合いですね。例えば、毒性をイヌで確認するというチャンネルは当時、エーザイは3本しかなかった。これの奪い合いというわけです。自分のプロジェクトを何としても成功させたいと。また、そういう雰囲気でないと、薬は出てこない。すごい熱意を持った者がいて、それに狂信的なグループがくっついて、とにかく闘争心旺盛に行っているという時しか薬はできないですね」
今回の『レカネマブ』も同じで、失敗にめげず、闘争心旺盛な研究者がいたから、ここまで来られたという内藤氏の思いである。
「患者さんの喜怒哀楽」を共有して、知の創造を!
「患者さんの喜怒哀楽を感じ取ってこそ」という企業理念をつくり上げる元は何だったのか?
内藤氏は、『知識創造企業』など、経営戦略論で有名な野中郁次郎氏(一橋大名誉教授)との出会いを挙げる。
「野中郁次郎さんの知の創造、Knowledge CreationというSECI(セキ)モデルというのがあります。このSECIモデルに出会って、啓発されました。これは患者さんが持っている本当の気持ちですね。これは野中理論によれば、『暗黙知』ということになって、表現されない。ですから、言葉でも表さないし、文字にもなっていないので、一緒にいたり、時間を共に過ごすことによってしか伝わらない。そういう非常にレベルの高いKnowledge、知なんですね」
SECIモデルは、知識変換モードを4つのフェーズ(共同化=Socialization、表出化=Externalization、連結化=Combination、内面化=Internalization)に分ける。それをスパイラル(循環)させ、組織として戦略的に知の創造を行うという考え。
例えば、共同化は経験を共有することで、精神的暗黙知や身体的暗黙知を創造するというもの。経験を何らかの形で共有しないと、他人の思考プロセスに入り込むのは難しい。
こうした知のスパイラルの実践は、「患者さんと喜怒哀楽を共にする」というエーザイの定款の実行とも重なる。
今後、大事なのはいかにソリューション(解決策)を社会に提供していけるかどうかだ。「認知症の後は睡眠のエコシステムの提供ですね」と内藤氏。
『知の創造』への努力が続く。
三井住友銀行頭取・福留朗裕の「現場主義」経営 「用心しながらも楽観を忘れない」
