「今度こそ、幸せになりたい」

“離婚”という苦い経験を経て、また恋をして結婚がしたいと願う人たちがいる。

そんな彼らの再婚の条件は、実に明確だ。

「一度目よりも、幸せな結婚!」

それ以上でも、それ以下でもない。

幸せになることを、諦めないバツイチたちの物語。

▶前回:完璧な夫婦にも、闇がある!?美男美女の医者カップルが、結婚7年目に離婚したワケ




Case3:「再婚する気はない」と言う女の真実


名前:サリナ(33歳)
職業:IT企業秘書
離婚した時期:4年前

「間宮社長、今日はオンライン会議を8本セッティングしてあります。ランチは12時半ごろお届けします」

サリナはIT企業の秘書室に勤務している。何人かの同僚とともに、社長を含め5人の役員たちのスケジュール管理や業務サポートをするのが仕事だ。

「ランチは軽めでいいよ。食い過ぎると頭が冴えないから」

ランチや夕食の手配も秘書の大事な仕事だ。秘書たちの間で月ごとに食事当番を決めているが、今月はサリナの担当なのだ。

社長の要望に「承知いたしました」と一礼する。

サリナがこのIT企業に入社したのは、2年前のこと。

もともとこの会社に勤めていた青山学院大学時代の同級生が寿退社する際に、「後任として入らない?」と声をかけてくれたのがきっかけだった。

サリナは二つ返事で面接を受けることを承諾した。

大学卒業以来、大手コンサルティング会社で秘書を続けてきたサリナは、秘書という仕事がとても好きだ。

裏方のイメージがある職業だが、実際は社外の方とのやりとりも多いし、会社の中枢にいる経営陣を間近でサポートできる仕事は大変やりがいがある。

しかし、一方で不純な動機があったことも否めない。

声をかけてもらった頃は、ちょうどサリナが離婚して2年ほど経っており、そろそろ再婚活を始めてもよいかなと思っていた時期だった。

この会社は社内結婚の割合が高いことで有名で、再婚活の場所としてもちょうどよいと考えたのだ。かくいう紹介してくれた友人も、社内で夫となる人を見つけ、今では悠々自適な専業主婦ライフを送っている。

だからライバルは多いが、社内の人たちにはバレないように、サリナは水面下で再婚活に励んでいる。


水面下で再婚活しているサリナが、社内で心がけていることとは…?


「サリナさん、来週社長の京都出張があるんですけど、宿泊先はどこがいいですか?」

尋ねてきたのは、入社3年目の亜里沙・25歳。慶應大学卒業後、新卒で入社してきた彼女はテレビでよく見るアイドルなど比にならないほどキレイな顔立ちをしている。

亜里沙だけではない。この会社の女性の顔面偏差値の高いことに入社したときは驚いた。

キャンパスのミスコン入賞者や、SNSのマイクロインフルエンサーといった華やかな女性社員も多い。

だがサリナが彼女たちと比べ大きく引けをとるわけではない。逆にスレンダーで長身、色白で端正な顔立ちはこの社内でも目立つくらいだ。

「社長の出張なら、そうね、翌日の動きを考えたらフォーシーズンズが便利かも。リッツは少し不便だわ。心配なら私に勧められたって社長に言って大丈夫よ」

「ありがとうございます」

亜里沙に礼を言われたが、実はすべて計算の上だった。

社内でうまく立ち回り、人から頼りにされたいと常々思っている。なぜなら、サリナが狙うのは結婚退職。誰かから嫌われたりお局扱いされ悪い噂がたっても困る。

だが、結婚退職できれば誰でもいいというわけではない。もう中途半端な男性はこりごりだ。

サリナは職業柄、世のエグゼクティブと呼ばれる人たちをたくさん見てきた。彼らの魅力は決して財力だけではない。彼らが放つ自信に満ちたエネルギーや、財力を持つものだけが纏うことのできるオーラに惹かれる。

― 狙うは、トップエグゼクティブよ。

つまり、この企業の創業者である間宮(40歳・バツイチ)だ。





―昼休みー

「もう誰かと結婚するなんて、ほんとこりごりなのよ」

サリナは、同じ秘書室の同僚とランチをとりながら、自らの失敗談とともに再婚願望がないことをアピールしていた。

「よかった。サリナさんがライバルじゃなくて。私、密かに間宮社長のこと素敵だなと思ってたんですよね」

世間は不思議だ。バツイチの女が「再婚願望がない」と口にすると、婚活戦線から完全に離脱していると思われる。そして、独身女子たちは安心して自分の身の上話を明け透けに話してくるのだ。

でも、決してそんなことない。

女である限り、恋はするし、いつかは再婚したいと思っているのが本音だ。

「結婚願望がない」と公言するのは、色々詮索されるのが面倒なのと、再婚活を水面下ですすめるためのカモフラージュにすぎない。

「うちの会社、間宮社長を筆頭に役員たちも若くて稼ぐ男性ばかりじゃないですか。そこに興味ないなんて、やっぱりバツイチは慎重ですね」

バツイチが慎重なのはそのとおりだ。もう同じ失敗は許されないのだから。

4年前に離婚を経験し、「人には2つのタイプがいる」ということを身をもって学んだ。人生に夢や目標があり、それに向かって突き進むことを生きがいとする人と、人生今が楽しければいいと考え、リスクを犯さずほどほどで手を打つ人。

元夫は、後者だった。リスクを冒すことを嫌い、安パイを取りたがる人だった。

女子学院出身のサリナは、意識の高い集団の中で育った。医者や弁護士になりたいと東大や京大に入っていく同級生たちを尻目に、立地とイメージだけで青山学院大学に進学した。

元夫は、大学時代のゴルフサークルの先輩で、サリナが大学2年の時に付き合い始め、4年間交際し24歳のときに結婚した。

学生の時には気づかなかったが、メーカー勤務の夫は、組織の中でうまく立ち回ることが苦手だった。その上、打たれ弱くいつも家では愚痴ばかり。

秘書という仕事柄、無意識に人に尽くしてしまうサリナは、そんなへたれな夫の話を真剣に聞き、彼が少しでも家でリラックスできるよう気を使った。

だが、一旦家を出ると、サリナの会社には「仕事が命」と言わんばかりのエネルギッシュな男性たちがいて一緒に仕事をすることになる。

仕事とプライベートで見ている男のモチベーションの落差に気づいた時、サリナは夫を男として見れなくなりこのまま一生添い遂げることに不安を抱くようになった。

「会社を辞めて少し休みたい」

ある日、彼にそう告げられたとき、労いの言葉の断片すら思い浮かばなかった自分にショックを受けた。そして29歳のとき、離婚を決意するに至ったのだ。

一方、この会社は社長の間宮が29歳の時に創業し、今年で設立12年を迎えるベンチャー企業だ。数年前に一部上場を果たし、若く優秀な人材が集まっている。

勢いのある会社と、高みを目指す社員たち。意識の高い集団に所属していると居心地が良いのは、女子学院出身だからかもしれないと最近サリナは感じている。

それに秘書という仕事も極めてしまうと、サポートしている上司と同じ夢を見たいと思うようになるのかもしれない。


社長と結婚したい女のしたたかな企みとは…?




「間宮社長、午後は13時半から夕方17時半まで1時間おきにミーティングが3件入ってます」

いつものように、サリナがその日の予定を伝え、会議の資料などを整える。そして、付け加えた。

「今日のランチは、最近私が飲んでみてとても美味しかったコールドプレスジュースを何種類かご用意しようと思いますがいかがでしょう?」

その言葉に反応し、パソコンに向かっていた間宮が顔をあげ、嬉しそうにサリナの方を見る。




「どこのジュースなの?」

間宮の問いに、サリナは社長室の扉が閉じられていることを一瞥した。

「私の家の近くにあるオーガニックのジュース屋さんのものです。自分用にストックしようと買ってきたのですが、美味しいし体にもよいのでもしよかったらと思いまして」

「この間、君が作ってくれたジュースのほうがおいしいだろうけどね」

小声で呟いた後、間宮は穏やかに笑った。サリナも秘書らしく一礼し、微笑み返す。

そう。実は二人は2ヶ月前から恋人同士となっていたのだ。

サリナが中国語の通訳として社長の商談に付き添った際、間宮にプライベートでもサポートをお願いできないかと打ち明けられた。

社長が秘書と恋人同士になるなんて、一部上場企業ではあり得ない話である。社長が仕事もしないで何をやってるんだ、と投資家や役員たちに槍玉にあげられる可能性だってある。

そんなリスクがあるにも関わらずサリナを選んでくれたのは、きっとそれなりの覚悟があってのことだ。

― まぁ、私もそれなりに努力したからだけどね。

入社してすぐから、間宮と仕事を共にすることが多かったサリナ。その人柄や手腕を知るにつれ、「この人と結婚したら私は…」という妄想がむくむくと膨らんでいった。

同僚たちのように、美しさや性格の良さをアピールしているだけでは社長は落とせない。

サリナは考えた。何をすれば彼と付き合えるのか。

そこで思いついた作戦は、知識や教養を身につけ、まずはビジネス上で徹底的に彼をサポートするというものだった。

実は大学生の時、母親に勧められてスイスのフィニッシングスクールに短期留学したことがあったのだが、その時の経験が大いに役に立った。

その学校では、語学や食事の作法、ダンスやウォーキングといった女性としての立ち振る舞いのほかに、ビジネスマナー、経営学を学ぶことの大切さを教わった。

海外では社交はビジネスの延長線上にあるとされ、とても重要視されているからだ。

間宮を伴侶とするために、英語と中国語の能力をブラッシュアップし、ビジネスで使えるレベルにまでなった。また、オンライン講座などを利用して経営学も学んだ。

社長と同じ世界で同等に話をし、自分の持てる能力をすべて使ってサポートをする。そうすれば仮に間宮が自分に振り向いてくれなかったとしても、秘書としてのキャリアになるはずだと考え、この2年必死だった。

その結果、公私ともに間宮の右腕となることができたのだ。最近は、食事を通じて彼の健康面もサポートしている。

付き合ってまだ日も浅いのに、先日間宮の口から「結婚」の2文字が飛び出した。

ただ入籍するまでは、友達や同僚には絶対に気づかれないよう細心の注意を払うつもりだ。

匂わせもは断じてNG。間宮のプライベートを守るためにも、自らの身から埃が出ないようSNSのアカウントはすべて削除した。

だが、サリナはまもなく手に入れることのできる“再婚生活”を想像しながら、心踊る毎日を過ごしている。

サリナの再婚の条件:野心を持ち合わせているステータスが高い男性

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