別に、結婚だけが女の幸せではない。

自ら望んで独身を貫くのなら、何も問題はない。

しかし実際には「結婚したいのに、結婚できない」と嘆く女たちが数多く存在し、彼女たちは今日も、東京の熾烈な婚活市場で戦っているのである。

これまで、自分にも相手にも厳しい“ストイックな36歳独身女”や、アイドルに恋する女、3人の男をキープする女、場末感漂う35歳、家が好きすぎる女、独身貴族の女社長、胸キュン希望の38歳、ペットを飼う女、不倫で7年無駄にした女などを紹介した。

さて、今週は…?




【今週の結婚できない女】

名前:杏
年齢:36歳
職業:外資系化粧品会社勤務
住居:芝浦


日本の男って…


「杏、見てよ。これ…俺が最近仲良くしてる女。可愛いだろ〜」

久々に飲もうと誘われ待ち合わせた『炭火シュラスコ Gostoso』で、大学時代の同級生・健太が「右の子ね」と言い添え無邪気にカメラロールを見せてきた。

「…若っ!!」

覗き込んだスマホ画面を一目見て、私は思わず叫ぶ。

女友達とともにホテルでアフタヌーンティーをしている写真なのだが、その肌ツヤと透明感は20代前半にしか見えない。

「この子、一体いくつ?」
「ん?そんな言うほど若くないよ。26歳」

健太はしれっと答えてきたが、私は心の中で「十分若いわ!」と突っ込む。そして写真に写る若い女の容姿を、「はいはい」と冷めた目で眺めた。

眉下で切った前髪を横に流し、上目遣いで笑う童顔の女…。私は、健太に聞こえぬよう小さくため息をついた。

どうしてこう日本の男というのは、揃いもそろって幼い女が好きなのだろう。

グラビアを見てもそうだ。

海外ではグラマラスな美女が挑発的な視線を送っているものが多いのに、日本のグラビアは胸だけが不自然に大きく、その他はまるで子どものような体型の女が媚びた目をカメラに向けている。

自分を立ててくれる、自分が上位でいられる女を好む。

そういうザ・日本男子的な価値観が、私は気持ち悪くて仕方ない。


これだから日本の男は嫌だ。杏は外国人を狙っていくことに決めるが…


-やっぱ、外国人男性を狙っていこう。

健太との一件があって以来、私はそんな風に決意を改めていた。

実は…アラサーの頃にもそんなことを思い、『R2 SUPPER CLUB』や『TWO ROOMS GRILL BAR』に頻繁に顔を出しては出会いを求めていた時期があった。

よく言えばグラマラス、悪く言えば少々大きめの私は、華奢な女を好む日本男子からのウケは微妙でも、外国人男性からは割とモテる。

「君ほど美しい女性には出会ったことがない」
「アンは最高の女性だ」

そんな風に、日本人の男の口からは聞いたことのないようなセリフで大絶賛されるものだから、正直かなり気持ちがいい。

ついさっき出会ったばかりなのに「愛してる」「これは運命の出会いだ」などと言い出す調子の良さも、日本の男だとチャラ男か詐欺師かという目でしか見られないのに、外国人だとなぜかすんなり受け入れられる。

そんなわけで、当時も何人かの外国人男性と男女の関係になったが…しかし残念ながら、そういうお酒の場で出会う男性とは長続きしないことを学んで終わっていた。

だが今、是が非でももう一度、イケてる外国人と出会いたい。日本人の男とは、もはや需要と供給がマッチしないことをひしひしと痛感している。

さらに言えば、私の心の中にはある打算があった。

ハーフの赤ちゃんというのは、日本人とはまた違う可愛さがあると私は思っている。

もし…私がハーフの子ども(しかも、女の子)を産むことができたなら。

早々に結婚し、ママとなった同級生の女友達に向けて抱いている劣等感も、一気に挽回できるのでは…。今は“結婚できない女”ポジションに甘んじている私も、正々堂々胸を張ることができるのではないか。

そんなことを考えていた私はある日、目から鱗の名案を思いついた。


イケてる外国人と出会うための秘策とは


すでに36歳という年齢に達している私は、もはやただイケメン外国人をゲットできればいいというわけではない。結婚相手としてもふさわしい男である必要がある。

つまりビジネスで日本を訪れている高給取りの外国人と、酒の席ではなく日常生活の中で自然に知り合いたい。

そんな夢のようなことが起こりうる場所…それは、スポーツジムだ。




それまで私は芝浦にある自宅近くの庶民的なスポーツジムに通っていたが、六本木一丁目の高級スポーツジムに入会し直すことを決めた。

入会金3万円&月会費2万円がかかるが、良縁を手に入れるためと考えれば決して高くない投資だ。

場所柄、意識の高い外国人ビジネスマンが数多く通っているジムなら、私が目当てとするような男にも出会えるかもしれない。

…いや、出会ってみせる。

そうして私は週末の朝になるとわざわざ六本木一丁目まで出向き、トレーニングに励むかたわら出会いを探し続けた。

そして努力の甲斐があり3ヶ月が経とうという頃、しばしばトレッドミルで隣になるイギリス人男性David(30歳)とデートするようになったのだ。


望んでいた外国人男性との恋愛。しかし、どうしてもあることが気になる。


男女対等でいたい。だけど…


「杏、おはよう!」

ぐっと冷え込んだ朝、出社途中に後ろから声をかけられた。声の主は、真美。入社当時から仲良くしている、同期の一人だ。

「…どうなの?新婚生活のほうは」

寒いねー、などと他愛ない会話をした後で、私は彼女にそう問いかけた。

真美は私と同じでずっと“結婚できない女”だったのだが、なんと今年の夏に電撃婚を決めたのだ。年始に「結婚相談所に登録する」という決意表明を聞いてから、あっという間の出来事だった。

相手は大手通信インフラに勤める40歳で、真美との結婚が初婚だという。

そんなお固い職業の男性がなぜ40歳まで独身だったのか。その理由を、私は真美から写真を見せてもらった瞬間に理解した。

しかし大のイケメン好きを公言していた真美は、そのせいで随分痛い目にも遭っていたから、この歳になり色々諦めてしまったのかもしれない。

「まあ、それなりに幸せよ。私もこの歳でようやくの結婚だから、そんなに夢も見てないしね」

そんな風に答える真美は新婚の割に冷静で、やはりどこか達観した様子だ。そして自分の話は早々に切り上げ、「そんなことより」と杏に話題を振ってきた。

「それより杏、聞いたよ。イギリス人の彼氏ができたんでしょ。どんな人なの?」

以前から私が外国人狙いであることを知っている真美は、嬉しそうにテンションを上げて問いかけてくる。

しかし私はというと、実は早々にDavidに対しある“引っかかり”を感じているのだった。

「仲良くやってるよ。けど…ちょっと微妙なんだよね」

そう答えながら、私は先週末のデートを思い出していた。

クリスマス休暇の間にロンドンに遊びに来ないかと誘われたのだが、そのニュアンスに、フライト代を負担してくれそうな気配はなかったのだ。

別に、出せないわけじゃない。しかしなんとなく釈然としない。

「彼、投資ファンドに勤めててけっこう稼いでるはずなの。いいマンションにも住んでるし。なんだけど…意外ときっちり割り勘されるのよ。他にも発言の端々から、女性にもがっつり稼いで欲しい的な考えが滲み出てて、ちょっと引いちゃうんだよねー」

言葉にしてみると、これまで気づかぬフリをしていた小さな引っかかりが、みるみる存在感を増していくように感じた。

-やっぱDavidも、理想とは違うな…。

そんな風に心の中で結論づけようとした私は、しかし真美が続けた一言でハッと我に返された。

「でもさぁ、杏は女を下に見てくる日本の男がダメで、男女対等に扱ってくれる外国人を選んだわけでしょ?」

…そうなのだ。

その通りなのだが、男女対等を希望してはいるものの、男性に守られたい・男性の庇護にあやかりたいという願望を捨てきれない自分がいる。

日本の男に辟易し、いくら海外志向を主張したところで…結局他ならぬ私自身が“日本の女”なのだろう。

「う…うん、まぁ」と小さく呟きながら私は自分で矛盾に気づき、喉に広がる苦い汁を飲み込むのだった。

▶NEXT:12月25日 火曜更新予定
“運”のせいにしがちな、Over35歳独身女のある傾向