「トランプは『敗北の大統領』なのです」トッドがピーター・ティールに語った、アメリカがイラン攻撃に突き進んだ“政治的必然”
ソ連崩壊、リーマンショック、トランプ大統領誕生などを次々に予言し、“現代最高の知識人”と称されるフランスの歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏(74)。一方、PayPalやPalantirの共同創業者にして“シリコンバレーのドン”の異名をもち、いち早くトランプ支持を表明してJ・D・ヴァンス副大統領就任にも深く関与し、“影の米大統領”とも評されるピーター・ティール氏(58)。
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会田 今日の対談は「世界は終末を迎えているのか」という、とてつもなく大きなテーマですが、ほんの2日前に、まさに「混迷する世界」を示すかのように、米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まりました。今後の展開はまったく読めませんが、とりあえず現時点でお二人はどう感じましたか。
イラン攻撃は「目くらまし(陽動作戦)」
トッド まず全体像を見る必要があります。意外に思われるかもしれませんが、この戦争はそれほど「大きな戦争」ではない。むしろ、より重大な問題から注意を逸らす一種の「目くらまし(陽動作戦)」だということです。
この2、3年、私が研究してきたのは、米国のシステムが徐々に崩壊していく過程です。米国は最近、「二つの大きな敗北」を喫しました。

エマニュエル・トッド氏 Ⓒ文藝春秋
第一の敗北は、ウクライナ戦争での軍事上および兵器生産力におけるロシアに対する敗北です。米国は、ウクライナが必要とする武器を十分に供給できなかった。
第二の敗北は、それ以上に重要で、貿易・グローバル経済における中国に対する敗北です。トランプ大統領は関税で中国に圧力をかけようとするも、2025年10月末の韓国・釜山での米中首脳会談で大幅に譲歩しました。中国が「レアアースの禁輸」を示唆したからです。精密誘導ミサイル(トマホークやパトリオット)や迎撃ミサイル(THAAD)といった米国の最新兵器に不可欠な資源であるサマリウムの禁輸は今も続いています。
これが「イラン攻撃」の背後にある「全体の状況」です。トランプは「敗北の大統領」なのです。ウクライナ戦争で米国がロシアに敗北したからこそ、トランプは再選されました。彼の任期中の課題は、「米国の敗北」を何とか政治的に処理することです。その方法の一つが「目くらまし(陽動作戦)」。だからこそ、国際社会でより小さな相手に矛先を向けるわけです。グリーンランド問題で欧州を侮辱したり、ベネズエラのマドゥロ大統領を標的にしたりする。そして今度はイラン――地域大国ですが、中露のような世界大国ではない――への攻撃です。
「目くらまし(陽動作戦)」は、今のところ、一定の成功は収めたと言えるでしょう。イランへの攻撃を目にして、「米国はやはり圧倒的に強い!」と多くの人が感じているようだからです。すると、人々の関心はウクライナ戦争から離れていきます。
合理的ではない「もう一つの攻撃の理由」
これが私の最初の受けとめ方で、この状況にはある程度、「合理的に説明できる要素」があります。
ただしもう一つ、合理的には説明できない「非合理的要素」があり、これは米国社会の内部崩壊と関係しています。一言で言えば、「暴力への衝動」です。これが現在の米国の外交政策を特徴づけている。
言い換えれば、『西洋の敗北』で私が「ニヒリズム」と呼んだ「破壊衝動」です。米国のエリート層には、「暴力への衝動」「自己目的化した暴力」が確実に存在している。この「非合理的要素」を考慮せずには、現在の米国の振る舞いは理解できないのです。
もしかするとイランの体制が崩壊する可能性もありますが、トランプや米国のそもそもの狙いは、「体制転換」などにはないでしょう。どんな政権になっても、イランはナショナリズムの強い国家として、湾岸地域において米国や同盟国の脅威であり続けるからです。
米国にとっての「合理的目的」を敢えて考えれば、「イランの分裂・内戦」を引き起こすことでしょう。そうなれば、イランは地域大国としての力を失い、国際政治の舞台からしばらく脇に置かれることになるからです。
しかし、もしイランの現体制が崩壊しなければ――現時点では、その可能性の方が高い――さらに中国がイランに武器を供給して長期の消耗戦を支援すれば、「米国史上最大の戦略的大敗北」になる可能性があります。
ティール 私はイランの問題について、現段階であまり断定的なことを言うのはためらっています。「まだ事態は進行中だ」という感じが強いからです。
トッド教授の見方に同意する部分もあります。私自身の直感としては、こうした介入にはあまり賛成ではありません。そもそも米国がウクライナでの大きな戦争に関わるべきだったのかについても、やや懐疑的です。
※本記事の全文(約11500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年5月号に掲載されています(エマニュエル・トッド×ピーター・ティール「世界は終末を迎えているのか〈東京極秘対談〉」)。全文では、以下の内容について詳しく語られています。
・“統計学的例外”としてのティール氏
・「終末論的な歴史観」の起源
・『ワンピース』が描く“怖さ”とニヒリズム
(エマニュエル・トッド,ピーター・ティール/文藝春秋 2026年5月号)
