かつてあった「暴力団の絶対ルール」が形骸化…裏社会の人手不足で生じる「異常事態」

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1月29日21時頃、東京都台東区の路上で、現金計約4億2300万円が入ったスーツケースが奪われた事件で、警視庁暴力団対策課は14日、事後強盗の疑いで、特定抗争指定暴力団山口組系組幹部狩野仁琉(21)、職業不詳小池恒児(47)両容疑者ら7人を逮捕した。

逮捕された7人のうち3人は、山口組、住吉会、極東会と異なる暴力団の傘下組織に所属している。警視庁は、山口組系幹部の狩野容疑者が中心になって知人らを集めたとみている(時事通信 3月14日)。 

最近、他家名、すなわち、異なる暴力団組織の構成員が協働して、犯罪を敢行する例がみられる。こうした傾向の背後には、どのような事情があるのだろうか。

【前編を読む】滅びゆく「ヤクザ」の奥の手…組織の壁を超えた「奇妙な連携」の裏事情

ない袖は振れない昨今の暴力団

暴力団はトクリュウ化しなくてはシノギができない状況だ。つまりカネがない。シノギができず、カネがないと組織は維持できない。

既に暴力団の拝金主義は、昭和53年の頃から見て取れる。科学警察研究所の調査によれば、組員の多くは理想的な親分像の要件として「カネがあり、カネを作る能力があること」を最重視しているという(昭和53年 警察白書)。

暴力団の組員は、いわば所属する組織を、仕事の拠点として、その代紋の下、そこでの兄貴分の指示や自分の才覚による働きによってシノギたいと考えているものの、無い袖は振れないのである。

そうすると、新たなシノギを模索するし、過去の暴力団のルール(詐欺はしない、盗みはしない、他の組織と協働することの禁止)などに拘泥してはいられないのだ。

上野4億円強盗事件の背景

このような社会的背景から、昨今、暴力団のトクリュウ化に加えて、組織の垣根を超えた協働犯罪が散見されるようになったと考えられる。

詐欺事件では、神戸山口組系組員と、住吉会系組員が一緒に現金受け取り役の「受け子」を統括していたケースがあった(読売新聞2026年3月15日)。

他家名の異なる組織が協働して犯罪を行うメリットはどこにあるのか。今回の上野4億円強盗事件に関しては、おそらく「上納金逃れ」と「リスクヘッジ」ではないかと、筆者は考える。

大きな仕事をしたら報道される。裏社会では、誰がその大仕事に関与したか直ぐに噂になるから、実行犯は所属組織に申告しなくてはならない。

今回、強奪した4.2億円を、仮に7人で単純分配すると、ひとり6千万円となる。これを組織に申告したら、上納金50%と言われたら3千万円上納しないといけない。そこを、「自分は見張り役だったから2千万しか受け取っていない」と言えば、上納金は50%と言われても1千万円で済む。

同じ組織の人間と協働して犯行に及んでいたら、こうした嘘は、いずれメクれる(露見する)が、他組織の人間と行った場合、その恐れはない。住吉会の組織が、山口組に電話して、「あの事件で、うちの人間になんぼ渡したんや」などとは確認できないからだ。

リスクヘッジ

リスクヘッジとは、警察の捜査を難しくすることに加えて、たとえ逮捕されても、組織トップの使用者責任が問いにくくなることにある。

同じ組織で犯行を行った場合、実行犯が検挙されれば、組事務所にガサも入るため、組織に迷惑を掛ける。最悪の場合、使用者責任が問われ、組長が賠償責任を負う可能性が否めない。

その理由は、「混成チームになるとどの組織の誰がリードしているかハッキリわからず、公判での立証はより難しくなる。少なくとも使用者責任という観点からは追及の手が上には及びづらく」なるからだ(週プレニュース 2026年3月17日)。

裏社会の人材不足が生んだもの

今回の上野の実行犯世代は、「他の組織の気が合う人間や、独自のリソースを持っている人間との結びつきを強くして、自分たちの力を蓄えたほうが得だと考えている……もはや「敵か味方か」を言っていられる状況ではない。裏社会の人材不足は、皮肉にも組織間の「融和」を強制的に進めてしまった」(同上)。

上野、羽田空港、香港の点は線でつながるのか

上野強奪事件の約2時間半後の30日未明には、大田区の羽田空港の駐車場で、別の男性4人が襲われる強盗未遂事件が発生。4人のうち2人が現金約1億9000万円を持って香港に渡った後、路上で現金の一部を奪われる事件が起きた。

香港警察は同日、2人から現金約5100万円を奪ったとして、日本人3人を含む男女6人を強盗容疑で逮捕。うち1人の男は羽田で狙われた現金の運搬役で、内通者の疑いがある。

上野と羽田の事件の被害者の1人はともに両替商で、羽田の被害者は警視庁に「金の売却で得た現金を香港に運び、香港ドルに替えていた」と説明している(読売新聞2026年3月15日)。

これら一連の事件で、香港で逮捕された男女6人が同じ実行犯のグループであったとしたら、香港マフィア(例えば14K)などが、山口組、住吉会、極東会と連携している可能性もある。

昨年6月、住吉会幹部は、14Kの幹部と盃を交わし、組織間の同盟を約束する会合していることから、犯罪のボーダレス化を含めて考えるべきかもしれない。東南アジア地区における詐欺拠点設立、人身売買等、国内外の犯罪組織のメルトは、数年前から静かに始まっているのだ。

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