「私も地面師に騙された」【積水ハウス事件】主犯格として逮捕された受刑者の手紙で判明した衝撃の事実

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55億円はどこに消えたのか?

〈前略 森功殿

私はセキスイ地面師事件で主犯格にされたカミンスカスです。森さんはこの事件に関してかなり詳しい人だと思います。事件になって直(すぐ)に″地面師″を出版されました〉

そんな書き出しの手紙がノンフィクション作家の森功氏宛てに届いたのは、’24年4月のことだった。

送り主は日本屈指のハウスメーカーから55億円を騙し取り、大ヒットドラマのモデルにもなったあの″地面師たち″の一人――東京・五反田の旅館「海喜館(うみきかん)」を舞台にした「積水ハウス事件」の主犯格として’19年1月に詐欺などの罪で逮捕され、懲役11年の刑に処されたカミンスカス操(みさお)受刑者(66)だったのである(以下、「受刑者」表記は略)。

カミンスカスは、’24年7月にネットフリックスで配信されたドラマ『地面師たち』のベースにもなった『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(https://amzn.to/4tXrOXS)の著者である森氏に手紙でこう問いかけた。

〈森さんは私をどう思っていますか?ハッキリ言います。私は無罪です〉

カミンスカスは、ドラマで綾野剛が演じた「辻本拓海」のモデルとされる重要人物だ。そんな男からの手紙を、森氏はどう読んだのか。

「カミンスカスは積水ハウスとの取引を主導し、海喜館の内覧にも立ち会っている。そんな彼が無罪なんてありえない。単なる恨み節だろうと思いました」

しかし、手紙を読み進めるうち、森氏の抱いた印象が変わり始める。

「実際に詐欺を企画したのは、内田マイクや土井淑雄(よしお)、北田文明といった面々です。私はこの3人が主犯格と見ていました。数々の地上げで暗躍した彼らは、地面師界の大物と言える。それに比べると、カミンスカスは脇役にすぎないという印象でした。

しかし、いつしかカミンスカスが事件の″主犯″として報道されてしまっていた。彼の手紙は、複雑怪奇な地面師グループと積水ハウス事件の全貌を理解するカギになると思ったのです」

そんな森氏の思いに応えるかのように、カミンスカスは手紙の中でこう述べた。

〈私は地面師グループに騙され踊らされたのです。元々エマイユ(ホールディングス)の横澤(仮名、手紙では実名)に騙された物件だったのですが、エマイユの横澤は逮捕されて無いし、調書も出てきません〉(以下、カッコ内は編集部注)

「エマイユの横澤」とは、カミンスカスを詐欺グループに引き込んだとされる男だ。カミンスカスは手紙の中で、海喜館の元付(もとつけ)(地主から直接依頼を受けて物件の買い手を探す業者)だった横澤から取引を持ち掛けられたと主張。

横澤から紹介された地主が″なりすましとは知らなかった″とも綴(つづ)っている。つまり、「自分は横澤に騙され、事件に巻き込まれただけ」だというのだ。

カミンスカスの主張の真偽はともかく、横澤が事件解明のキーパーソンであるのは間違いない。しかし、横澤が逮捕されることはなかった。事件の捜査を担当した警察幹部が言う。

「横澤の名前は捜査の最初の頃に出てきたと記憶していますが、積水ハウス事件は捜査対象者が多く、横澤は途中で消えてしまった印象です。しかし、捜査に抜け落ちがなかったか、と問われると微妙なところがある。横澤が事件に深く関与していた可能性は否定できません」

横澤は別の事件でも世間を騒がせている。М&A詐欺グループの親玉として、’24年に相次いでその名が報道されているのである。経営が傾いた中小企業にМ&Aを仕掛け、その会社の残った資産を根こそぎ奪って行方をくらます――という悪質な詐欺を次々と仕掛け、被害者の会まで結成されていた。

「横澤が仕掛けたМ&Aは30件以上に上ります。被害者の中には、警察に告訴状を出している企業もある。横澤は拠点にしていた茨城県水戸市のキャバクラなどで、年間数千万単位のカネを使っていたようです」(森氏)

積水ハウス事件で得たカネが豪遊の原資となっていたのか。事件のキーパーソンは今なお姿を消したままだ。

誰が真実を語っているのか…「詐取された55億円」の行く先

事件に残された大きな謎の一つが、詐取された55億円の行方だ。カミンスカスは手紙で何度もこう訴えている。

〈私が受け取った金員は(仮)契約時の紹介料の1億円だけです〉

森氏の見方は否定的だ。

「詐欺の実行役のカミンスカスが、2%にも満たない額しか受け取っていないとは考えづらい。これは嘘でしょう」

積水ハウスが″なりすましの地主″と売買の仮契約を結ぶ頃、カミンスカスはタワーマンションを二部屋購入している。

森氏の新著『地面師vs.地面師』では、それらの部屋をカミンスカスから買ったという人物が取材に答えている。

「小山(カミンスカスの旧姓)は当時、すごく羽振りがよかった。1億円だけであんな生活はできません。夜は浅草の街で豪遊し、若い取り巻きに3000万や5000万円単位のカネを貸していた。愛人も6人いました。あの頃、小山は7億〜8億円くらい持っていたんじゃないか」

別の主犯格の言い分も、カミンスカスと真っ向から食い違う。森氏が続ける。

「’25年8月、ライターの河合桃子さんが『週刊ポスト』で公開した北田文明の手紙には〈小山10億 土井、北田10億 マイク3億くらい〉と記載されていた。それをカミンスカスに伝えると、

〈北田が言ってる金の分配は間違っています。多分土井が北田に(省略)嘘を言ったのだと思います。分配は土井20億円、北田10億円、内田3億円、その他だと思います〉と返事が来ました」

ドラマさながらの詐欺師たちの騙し合い。積水ハウス事件は多くの謎を抱えたまま、発生から10年のときを迎えようとしている。

『FRIDAY』2024年5月24日号より