「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「入る」、「入れる」、「入門」の「入」。彼岸の入りを過ぎ、秋分の日を境にして、いよいよ秋の夜長の入り口です。



「入」という漢字の成り立ちには諸説あります。

象形文字として見る場合、大きな木を二本交差して作った、室や部屋への入り口の形を描いたのがこの漢字。

そこから「入」という字は、入り口から「はいる、いれる」という意味をもつようになりました。

また、草木の根が地中に入っている様子とする説もあるようです。

ちなみに、この二本の木に屋根の形を加えたのが、「内側」の「内(ウチ)」、「室内」の「内(ナイ)」という漢字。

こちらは入り口から中へと入った内部、「うち、なか」の意味になります。

一方、形のない物事を線や点で表す指示文字として読み解く場合、「入」という文字の形を、上から下に下がって、地下へと入ってゆく様子を表していると解釈します。

朝一番の水に触れて感じるかすかな冷たさ。

陽射しのやわらいだ空に広がるうろこ雲。

梨狩りのおすそわけ、こうばしい秋刀魚の塩焼き。

気づけばすとん、といきなり日が暮れて、澄みきった風が虫の音色を運んできます。

ある日突然開く秋の入り口に立ち止まり、私たちは少しずつ、五感を取り戻していきます。

ではここで、もう一度「入」という字を感じてみてください。

松尾芭蕉がしるしたはじめての俳諧紀行文『野ざらし紀行』。

貞享(じょうきょう)元年、一六八四年の秋・八月、四十歳になる芭蕉は、江戸から出身地の伊賀上野を目指します。

「野ざらしを 心に風の しむ身かな」

行き倒れ、白骨を野辺にさらしても、と心に決めて旅立つ我が身には、秋の風がひとしおしみることよ。

これは、万全の用意もなく、からだひとつで旅に出る心持ちを表した冒頭の一句です。

「身にしむ(身に入む)」とは秋の季語。

この「しむ」の「し」にあてた漢字が「入」という字です。

不安や孤独を抱えながら決死の覚悟で旅出つ芭蕉の心身には、爽やかな秋風も、哀愁をおびた冷たい風となって入りこんできたのでしょう。

ふとした瞬間に、もの悲しさや寂しさが心へするりと入りこみ、何とはなしにふさぎこんでしまう秋。

そんな日もまた、味わい深い人生のひとこまかも知れません。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『新選漢和辞典 第八版』(小林信明/編・著 小学館)

『新編 日本古典文学全集71・松尾芭蕉集(2)』(井本農一、久富哲雄、村松友次、堀切実/校注・訳 小学館)

9月29日(土)の放送では「賢」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。



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聴取期限 2018年9月30日(日) AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:感じて、漢字の世界

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/