2018年5月30日、党首討論を終え、握手を交わす安倍晋三首相(右)と国民民主党の玉木雄一郎共同代表(左から2人目)(写真=時事通信フォト)

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■党首討論は「時間の無駄」なのか

5月30日、およそ1年半ぶりに国会で「党首討論」が行われた。安倍晋三首相に対し、野党4党首が交代で議論を展開し、その多くは、森友学園の国有地売却問題と加計学園の獣医学部新設問題を取り上げた。

そんな野党に対し、「これまでに国会で何度も取り上げられており、その繰り返しでは党首討論を行う意味がない。時間の無駄だ」という批判の声があがっている。こうした批判は妥当なのだろうか。

党首討論で安倍首相は「同じことを聞かれれば、同じことを答える」と開き直り、野党の追及にこれまでと同じ説明を繰り返した。さらには「私や妻の問題に持っていこうとするから本質からそれていく」とまで言い放った。

野党がいわゆる「もりかけ疑惑」について繰り返し質問するのは、安倍首相の答弁があいまいだからだ。むしろ「はぐらかし」の答弁により、疑惑を深めてきたという経緯がある。

■改竄、隠蔽、廃棄、虚偽答弁

45分間の党首討論でトップバッターに立ったのは、立憲民主党の枝野幸男代表だった。

森友学園の問題で枝野氏が「首相は昨年2月の衆院予算委員会で『私や妻が関係したなら首相も国会議員も辞める』といった。ところが5月28日には『贈収賄にあたらないから問題がない』とも受け取れる答弁をした。急に限定するのはひきょうだ」とただすと、安倍首相は「急に新しい定義を定めたわけではない」と答弁した。

さらに加計学園の問題で枝野氏が「加計学園は、加計孝太郎理事長が首相と面会した愛媛県の内部文書を『虚偽だ』と発表した。首相の名を勝手に使ったことになる」と指摘すると、安倍首相は「政府としてコメントする立場にない」とかわした。

共産党の志位和夫委員長も「1年以上たっても国民の疑惑が解消されるどころか、ますます深まっている。改竄、隠蔽、廃棄、虚偽答弁。あなたの政権の下でなぜこのような行為が引き起こされるのか」と詰め寄った。

これに対し、安倍首相は「森友学園問題では、私の妻が名誉校長を引き受けていた。加計学園問題は友人が獣医学部を新設しようとしていた。国民から疑念の目が向けられても当然だ」と反省の色も見せたが、それもここまでだった。

■読売は「もりかけ疑惑」の幕引きを主張したいのか

こうした党首討論について、各紙の社説はどう書いているのか。

安倍政権を擁護する姿勢が強い読売新聞の社説(5月31日付)は、野党の追及するもりかけ疑惑に「いずれも何度も国会で取り上げられた論点である」と言い切り、「首相は『同じことを聞かれれば同じことを答える』と応じ、自らと夫人の関わりを否定した」と書く。

そのうえで「党首討論がこれまでの委員会審議の繰り返しでは意味がない。両氏(枝野氏と安倍首相)のやり取りは物足りなかったと言わざるを得ない」と指摘する。

もりかけ問題を取り上げる野党を「幕引きにすべき問題だ」と批判したいのだろう。

毎日新聞の社説(5月31日付)は読売社説とは違う。

「本質そらしは首相の方だ」との強い見出しを付けてこう主張していく。

「相変わらず首相は聞かれたことにまともに答えず、時間を空費する場面が目立った」
「森友・加計問題に対する国民の疑念が晴れないのはなぜか。首相はなお、分からないのかもしれない」
「首相の姿勢を端的に表していたのが、枝野氏に対して語った『同じことを聞かれれば、同じことを答える(しかない)』との答弁だ」
「財務省の文書改ざんなど一連の重大問題は、すべて首相を守るためではなかったか。共産党の志位和夫委員長が指摘したように、多くの国民がそれが本質と見ているはずだ」
「にもかかわらず首相は文書改ざんは『最終的には私の責任』と言う一方で、文書保存のシステムに問題があったと強調した。問題をすり替えているのはやはり首相である」

社説を読み比べると、新聞社の主義・主張の違いがよくわかる。今回の読売社説と毎日社説は、そのいい例だろう。

■党首討論終了後に「笑顔で握手」した野党の党首

再び読売社説に戻る。

読売社説はその中盤で「国民民主党の玉木(雄一郎)共同代表は、米政権が検討する輸入車への新たな関税措置を問題視し、『言うべきことは言い、やるべきことをやらないと、自由で開かれた貿易体制が壊れる』と指摘した」と書き、「首相は『同盟国の日本に課すのは理解し難い』と語った。国益を確保する観点から『戦略を持って対応している』とも強調した」と指摘する。

自国第1主義を唱えるトランプ米大統領の対米通商問題だ。これに安倍首相がどう対応していくのか。外交問題に強いといわれる安倍首相の腕の見せどころだが、日本の重要課題であることに間違いない。

さらに読売社説は日露の北方領土交渉を取り上げた玉木氏の質問も取り上げる。

「日露の北方領土交渉に関して玉木氏は、4島返還時には米軍を島に駐留させないと、トランプ米大統領から確約をとるよう求めた。首相は、交渉の詳細は明らかにできないと答えた」
「停滞気味の領土問題を打開する展望や決意を首相が示さなかったのは残念である」

こう書いた後で読売社説は「発足から間もない党の代表として、玉木氏が意欲的に論戦を挑んだのは評価できる」と玉木氏を褒める。

なるほど読売社説が主張する通りかもしれない。日本の政策課題を論議するのが党首討論の目的だからだ。

しかしながら玉木氏と安倍首相の間で最初からある程度話が出来上がっていたのかもしれない。玉木氏がもりかけ疑惑に触れなかったり、党首討論終了後に2人が笑顔で握手していたりする場面を見ると、そう考えてしまう。

■朝日と安倍首相は交わることのない平行線だ

最後に5月31日付の朝日新聞の社説を読む。

「質問に正面から答えず、一方的に自説を述べる。論点をすり替え、時間を空費させる――。1年半ぶりにようやく開かれた党首討論は、そんな『安倍論法』のおかげで、議論の体を成さない空しい45分となった」

毎日社説と同じく、安倍首相を批判する。朝日は安倍首相が大嫌いなのだ。朝日と安倍首相は、どこまでも決して交わることがない平行線のようだ。

さらに朝日社説は「野党党首の多くが取り上げたのは、やはり森友・加計問題だった。首相は骨太な政策論議を期待すると語ったが、政治や行政に対する信頼を揺るがす問題は避けて通れない」と指摘する。

朝日社説が指摘するように、もりかけ疑惑は解明すべき大きな課題なのである。解明が中途半端なままでは、国民の信頼は得られない。そこを安倍首相に自覚してもらいたい。

■公務員倫理や政治倫理の問題は消えない

党首討論の翌日の5月31日、今度は大阪地検が森友学園をめぐる一連の問題で、前財務省理財局長の佐川宣寿氏ら38人全員を不起訴処分にすると発表した。

文書の改竄や廃棄、国有地の大幅値引き売却など、そのどれもが刑事罰には当たらないという内容で、国民は釈然としないだろう。なぜなら1強の安倍政権が法務省を通じて検察に圧力をかけることもあり得る、と考えられるからだ。

財務省は「待ってました」とばかり6月4日に調査結果を公表した。安倍政権は一連の問題に区切りを付けて幕引きにしたいのだ。

不起訴とはいえ、公務員倫理や政治倫理の面で問題がないとはいえない。早くも4日、検察審査会に対して申し立てがあった。検察審査会は不起訴事件について審査し、起訴を求める議決が2度続けば強制的に起訴されることになる。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)