NHKONEスタート半年余り、いまだ受信契約総数の10%未満…新規登録の起爆剤はW杯中継?
昨年秋、鳴り物入りで始まったNHKのインターネットサービス「NHK ONE」。
放送法改正によりネット業務が放送と同等の必須業務と位置付けられたことから、幅広く普及させる必要があるが、半年余りが過ぎた今、登録アカウント数は400万件弱と、受信契約総数の10分の1にも満たない状況だ。担当する山名啓雄副会長は「丁寧に周知していきたい」と利用拡大を目指しているが、スポーツ中継や秀作ドキュメンタリーが並ぶBS番組の配信のめどが立たないなど、課題は尽きない。(文化部 旗本浩二)

登録の多くは旧プラスからの移行者
放送法改正で、テレビ・ラジオ番組の同時配信、見逃し・聴き逃し配信と、ニュース記事など番組関連情報が、放送と同じNHKの必須業務となったことを受け、昨年10月からONEがスタート。受信契約者向けの動画配信サービスだった旧NHKプラスのほか、ニュースサイトなども統合し、全体を通して利用時には受信契約が求められるようになった。テレビでは現在、地上波の総合とEテレの番組を配信しており、料金は地上契約と同額(月1100円)。契約済みのテレビ所有者なら新たな契約は不要だし、テレビを持たない人でも独自に契約すれば利用できる。また、「らじる★らじる」などラジオ関連サービスはそもそも契約の対象外なので、無料で利用できる。
ONE開始に合わせ、NHKは放送はもちろん、様々なイベントなどで周知活動を実施。昨年10月から12月までの3か月間、全国の放送局などで職員総出で行った登録サポートには、延べ14万7000人が参加した。その後も放送での告知のほか、3月の大相撲大阪場所など大きなイベントが行われる会場に登録手続きを手助けする場を設けるなど、利用拡大に向けた活動に余念がない。
4月27日現在、ONEの契約確認済みのアカウント登録数は391万件。多くが旧プラスからの移行者だ。旧プラス時代の登録アカウント数は668万件だったため、現状、過半数に到達しており、一見すると堅調なようにも思われる。しかし、「必須業務化」とは、放送と同等のサービスとして普及させなければならないという意味。受信契約総数4033万件(2025年度末)と比べると、10%にも満たない。
手続きわかりにくく、中断する人も
この点について、5月20日の定例記者会見で山名副会長は「登録手続きがわかりにくいとか、負担に感じるという声があることも承知している。サポートの改善を継続し、旧サービスからの移行対象の方々には、引き続きご案内メールを送付していく」と述べた。
利用者アンケートによると、利用者は50代後半から60、70代が多く、男性のほうがやや多いという。番組配信では、大河ドラマや連続テレビ小説などのNHKの大看板であるドラマがよく見られている。また、ミラノ・コルティナ冬季五輪、センバツ高校野球などの大型スポーツ大会もよく視聴されていた。一方、ニュース記事では、事件・事故、災害、国際情勢など速報性が高い情報のときにアクセスが多くなるようだ。
見逃し配信や番組放送中でも冒頭から視聴できる機能、コンテンツの充実ぶりを評価する声がある一方、やはり登録手続きや使い方で戸惑った人が多い。中には、登録の冒頭で受信契約の説明があるため、既に契約しているのに手続きを中断してしまう人もいるという。これらの早急な改善は登録者を増やすための前提だろう。
時期・料金、BS番組の配信めど立たず
一方、職員の中からは「登録が増えないのは、テレビ放送だけで十分だと考えている視聴者が意外と多いからではないか」との声も上がる。その意味では、テレビとは異なるONEの利便性をPRし続けるほかない。ただ、放送と同等と言いながら、提供コンテンツ面では実は大きな宿題がある。衛星放送番組の配信だ。
NHKは、ハイビジョン画質(2K)のNHKBSのほか、BSプレミアム4K、BS8Kまで衛星放送を実施しており、必須業務である以上、ONEでもこれらを配信する必要がある。BSでは、再放送や番組の再利用も目立つが、例えばドキュメンタリー枠の「BSスペシャル」では、ペルーの金鉱山で繰り広げられる赤裸々な人間模様を描いた「灰色の黄金郷」や、縦型ショートドラマが人気の中国でその制作に身を削る監督に密着した「縦の支配」など秀作が相次いでいる。これらがONEでも見られるようになることは、視聴者利益にかなっている。
ところが、権利処理費用など財政面で解決すべき課題があり、衛星番組の配信は、NHK側の要望で実施を視聴者に猶予してもらっているのが実情だ。確かに放送権料が膨大な米大リーグ(MLB)中継などをすべて配信するのは、なかなか容易ではないだろう。ならば権利処理が容易な番組から段階的にアップしてみるのはどうか。これなら「BSスペシャル」も広く視聴者の目に触れる機会が増える。
この点を山名副会長に尋ねたところ、明確に否定された。「権利処理できるものから段階的にやるとの意見だが、必須業務化における配信業務とは、放送と同一の価値を届けることが前提となっている。BSの同時・見逃し配信を実施する場合も、できるものからという個別の番組単位でなくて、全体として放送と同じ内容で配信実施することが必要なので、段階的実施は考えていない」
BS番組をいつから配信できるかは、現在策定中の2027〜29年度経営計画の中で明確になってくるとみられるが、そこでは当然、料金をどうするかも課題となる。テレビでBS番組を見るには、地上契約よりも高額の衛星契約(月額1950円)が必要で、放送と同様に配信でも2段階料金制になるのが常識的に思えるが、NHKはまだ何も言及していない。今後、どう判断するのかも興味深い。
地上波で再放送後なら配信可能
とはいえ、現状でもBS番組の力作をONEで見る方法はある。会見では、井上樹彦(たつひこ)会長が補足してくれた。「BSのドキュメンタリーやドラマを配信で見たいという声は多い。じっくり見られる番組が多いので、むしろ配信と親和性がある。同時配信は現時点ではできないが、過去のBSコンテンツをより広く見てもらうために地上波で放送することがあり、その場合はONEで同時・見逃し配信できる。また、要望が強ければ、NHKオンデマンド(NOD)に置くことも可能。できるだけ今の制約、枠の中でBSのコンテンツ配信という形で見てもらう努力をしていきたい」
NODは受信契約者であっても別料金(まるごと見放題パックなら月額税込み990円)がかかるが、地上波で一度流すことでONEにBS番組をアップする手法は、変則的であるが視聴者に歓迎されるだろうし、ONEの登録促進にもつながるはずだ。
スタートから半年余り、これまでは旧プラス登録者にどうスムーズに移行してもらうかに腐心してきたNHKだが、今後は旧プラスに未登録だった契約者や、テレビを持たない未契約者にどう登録してもらうかが課題だ。6月にはサッカー・ワールドカップ(W杯)北中米大会が開幕する。NHKは、日本の初戦と3戦目を含む1次リーグの計19試合と、決勝トーナメントの15試合を地上波で生中継する予定だ。これらはONEで同時・見逃し配信できる。担当者は「未契約者も含め、新規の方をW杯を機に取り込みたい」と意気込んでいる。W杯がONEの起爆剤となるか、注目される。
