「私には友達がいない」名門に生まれた88歳の元首相が考える「人生の締めくくり方」

写真拡大 (全4枚)

【前編を読む】人生の締めくくりに「友だち」はいらない…超ベストセラー作家がそう考える理由

「孤独感」に悩まされないために

『嫌われる勇気』の著者で、哲学者の岸見一郎さん(70歳)はこれまで、損得勘定や上下関係で人間関係を考えたことがない。友だちは片手で数えられるほどというが、「友だちがいないと寂しいという考えも間違いだ」と、こう述べる。

「私が研究しているオーストリアの心理学者、A・アドラーの著書に『共同体感覚』という言葉があります。これは『人と人とがつながっていること』という意味です。

人間同士は基本的につながっており、孤立することはあるけれど、孤独には決してならない。どんなに孤立しても、自分の考えを支持してくれる人がこの世界にひとりはいるはず―そう考えられる共同体感覚を持っているなら、寂しさを感じることはありません」

米・ハーバード大学が85年以上にわたって続けている大規模調査「成人発達研究」によると、「慢性的な孤独感」は健康状態を悪化させ、1年当たりの死亡率を26%も上昇させるという。岸見さんの語る「共同体感覚」は、孤独感に悩まされないためのキーワードとなるだろう。

「人生の意味」を考えること

心理学者の諸富祥彦さん(62歳)は、楽しくない友人関係は、「そろそろ、あなたとの関係をやめたいと思う」などと正直に言って断ち切るべきだと考えている。面倒な旧友は思い切って整理し、趣味の合う友だちなどと新しい人間関係をつくったほうが幸せにつながるというのだ。

そのうえで、「人生の意味」を考えることが、その後半戦を幸せにすると語る。

「私が専門とするのは、アウシュビッツ強制収容所などでの経験を描いた『夜と霧』の著者、V・フランクルですが、彼は、『自分が生まれてきたことの意味や使命を見つけなさい』と説いています。どんな苦難があろうとも、人生の使命を発見し、それを想うことほど、精神を気高く保つことはないと述べたのです。

『これをするために、私は生まれてきたのだ』と実感できることを見つけておけば、余計な友だち付き合いをしている暇や時間などなくなるでしょう。たとえば巨人ファンだったら、東京ドームに通い続けて、『90年を超えて続くチームの一コマを私は支えていたんだ』と思うだけで、人生の意味につながります。

人類もいつかは跡形もなく消え去ってしまう。けれど、そんな人類の歴史の一部として活動したという実感を持つことが孤独から解放し、人生を肯定してくれるんです」

「人生の先輩」たちとだけ交流する

これまで友だちをつくることなく、一匹狼として人生を謳歌し続ける人もいる。第79代内閣総理大臣を務めた政治家で、陶芸家でもある細川護熙さん(88歳)だ。

「私には、いわゆる友だちはいないですね。子供のころから群れることは嫌いだし、何の助けにもならないと思っていて……孤独感に悩まされることなんてなかったです。

'92年に日本新党を結成したときには、周りの人には随分と声をかけました。ですが、いざ旗揚げするときはひとりで記者会見。何かを決めるときに、誰かに相談することもしません。

そもそも、私は人前に出るのが好きではない。国会で答弁するのは本当にイヤでした。ただし、戦後初めて政権交代が実現しそうなときは、天下を獲りにいきました。

細川家は800年前から続いていますが、忠興はじめ誰ひとり天下を獲れなかった。子供の頃からそんな「歴史感覚」があった私には、55年体制を壊す歴史の一瞬をつかみ取ろうという明白な意識がありました。

とはいえ、何かにしがみつくのは美学に反するので、政権交代という実績を残した後は、さっさと辞めることをひとりで決めました。総理大臣を何年続けたかなどまったく意味がありません。今は首相在職日数がどうのとか、くだらない話をする人が多いですよね。

かつて脱原発でつながりを深めた小泉純一郎元総理も、私と同じく群れない人です。ただ、彼には多くはないが、友だちがいると思います。私も3ヵ月に1回くらいは会って食事をしていますが……彼は友だちという関係とはちょっと違いますね」

友だち付き合いはせず、近寄ってくる人にはフィルターをかけて意識的に避けていたという細川さん。これまで交流してきた人は、実業家の土光敏夫や井深大のような、独創的な発想と深い教養を持った「人生の先輩」たちだが、恐れ多くて彼らを友だちとは呼べないと語る。

「私にとって付き合いたい人の基準は、『語るに言葉少なく、よく人に下り、喜怒を色に現さず』という人。劉備玄徳の人物像を形容する言葉として『三国志』に書かれています。初めからベラベラと喋ってくる人は怪しげだから相手にしない。

もう88歳になったので、好きなように生きながら、人生をどうまとめていくかを決めないといけません。友だち付き合いにエネルギーを費やすことは、残りの人生の浪費でしかないんです。最古の仏教経典の一つ『スッタニパータ』の中に、『犀の角のようにただ独り歩め』という一節があります。私の好きな言葉ですが、群れることなく一本角で歩くサイのように、ひとりで歩むことの大切さを釈尊は強調しています」

悩める友人関係を捨て、ひとりで生きる勇気を持つことが穏やかな晩年を築くのだ。

「週刊現代」2026年5月11日号より

「週刊現代」の特集をもっと読む:「老人ホームで幸せに暮らす人」「孤独の中で老いていく人」の決定的な差

【前編を読む】人生の締めくくりに「友だち」はいらない…超ベストセラー作家がそう考える理由