真面目な地方公務員だった健斗さんが大金を手にしてのめり込んでいった「夜の推し活」

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「まさか自分が」と思う人ほど、実は危ない。公務員として安定した生活を送っていた30代の男性が、父親の急逝によって遺産2,000万円を手にした。それからわずか半年後、遺産は半減――。遺産や宝くじの当せん金など大金が突然手に入り、自制心を失って短期間で使い切ってしまうのは、決して珍しい話ではない。「自分は大丈夫」「わが子に限って」と思っているあなたにも、起こりうることかもしれない。大金を手に入れ、収入と支出のバランスが狂ったときはどうしたらいいのか。この男性から相談を受けたファイナンシャル・プランナー(FP)の岩切健一郎さんが提示した立て直し策は、シンプルかつ大胆なものだった。

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突然転がり込んだ2,000万円で金銭感覚が崩壊

 30代前半の独身男性、健斗さん(仮名)。地方公務員として働く彼は、それまで金銭トラブルを起こすこともなく、堅実な毎日を送っていた。そんな彼の人生が一変したのは2022年のこと。父親の急逝により、保険金と遺産を合わせて2,000万円という大金を手にしたのだ。

真面目な地方公務員だった健斗さんが大金を手にしてのめり込んでいった「夜の推し活」

「これまでずっと地道に生きてきたんだし、少しくらいぜいたくをしてもいいのではないか」

 まず、1人暮らしを始めるときにホームセンターで買いそろえた安物の家具を、すべて買い替えた。「たまにはいいだろう」と外食の回数が増えた。最初は、そんな程度だった。

 しかし、口座に2,000万円がある安心感は、健斗さんの金銭感覚を少しずつ狂わせていく。やがて健斗さんの足は夜の街へと向かうようになった。ストレスフルな仕事に疲れきっていた健斗さんに女性のもてなしは心地よく、出費は1回で3万円から5万円。女性への「推し活」的な意味合いの出費も増えていった。

 そんな生活を半年間続けたある日、ふと気になって遺産を入れていた口座を確認した健斗さんはショックを受ける。口座残高が1,000万円まで減っていたのだ。

「こんなに早くなくなるなんて」。根は真面目な健斗さんは自分が父親の遺産を短期間で半減させてしまった事態にうろたえ、FPの岩切さんのもとを訪れたのだった。

「まずい」と思ってすぐにFPに相談できたことは不幸中の幸いだった。大きな金銭トラブルに際しては、一人では解決が難しいからだ。

「2年後は借金地獄ですよ」というショック療法

 相談を受けた岩切さんは、まず男性に対して数字を示しながら収支の現状をこんこんと説明した。

「この半年、単純計算であなたは月150万円も使っていたわけです。今の生活レベルを続けたら、あと半年で残りの遺産がなくなり、その後はこれまでの貯金も食いつぶすことになります。このまま消費が変わらなければ、借金してまで消費してしまう可能性がります。実際にそういう方もいます」

 実は、高学歴で堅実な仕事に就いていても、自分の月々の支出をきちんと把握していない人はけっこういる。健斗さんも、相続前はたまたま収入の範囲内でおさまる生活レベルで、なんとなく貯蓄ができていただけだった。

「節約しろ」という精神論ではなく、数字で自分の収支について説明を受けた健斗さんは、「怖い。このままではだめだ」と改めて気を引き締め、収支改善に取り組む決意を固めた。

 そんな彼に岩切さんが授けた処方箋は、極めて「物理的」なものだった。遺産を簡単に引き出せないよう策を講じたのだ。

 まず、遺産のうち300万円を貯蓄型の保険に回した。。

 残りの700万円についても、大胆な一手を打った。

「遺産が入った口座のキャッシュカードを、自分で管理できないようにしてもらいました。健斗さんは自分でカードにハサミを入れました。手間をかけないと下ろせないようにしたんです」

 この契約には、家族登録制度で親を設定し、親が保険商品の照会をかけられる状態にすることで、「抑止力」を持たせた。

 ATMで手軽に現金を引き出せる環境こそが、浪費を助長する。窓口に行き、ハンコと身分証を提示しなければ出金できない不自由さを、あえて作り出したのだ。

「健斗さんはお金の管理がまだ苦手ですから、遺産は投資にはまわさず、緊急用の資金として普通口座に温存しつつ、物理的なブロックをかけたのです。投資については、月々の収入の中からNISAで月2万円を株式投信に積み立てていくことにしました」

 もちろん、支出も見直した。浪費の内容について口を濁していた健斗さんだが、岩切さんの「僕も浪費経験がありますし、男心もわかります」といった言葉に後押しされてあらためて浪費の内訳を直視し、夜の遊びは控えることに。岩切さんは、カード明細をこまめに確認して自分の出費を把握することもアドバイスした。

「最終目標は一人で管理できるようになることです。あまり細かく厳しく管理するとどこかでボロボロと崩れてしまいますから、“先取り貯蓄・投資して、あとは赤字にしない”とシンプルに考えることが重要です」

 相談から3年。健斗さんは着実に資産を回復させている。そして、大きな出費が予想される場合は、岩切さんに相談し、自分を律し続けているという。

「なんでもかんでもがまんする生活は長続きしません。生活に必要なもの、自己投資などは大きい出費でも許容していいでしょう。楽しみのための出費も、ボーナスの半分までなどの歯止めがあればいいと思いますよ」

残す側へのアドバイス「年金型という選択肢も」

 岩切さんは、この事例を通じて財産を残す側である親世代にも警鐘を鳴らす。

「大金が一気に入ってくると、誰でもおかしくなる可能性があります。せっかく残した資産を正しく使ってほしいのであれば、年金形式(分割)で受け取れるように設定しておくのも一つの手です」

 例えば、信託。家族信託や、障害がある子供であれば、特定贈与信託という制度もある。

 また、生命保険の死亡保険金を年金で受け取ってもらうように、事前に受取人との間で話しておくのも手だ。ただし、保険は受取人が一括受け取りを選べてしまうので、どうしても心配な人は生命保険信託という方法もある。

 もちろん、保険商品に頼るよりも、現金で一括で受け取って自分で運用するほうが実質的な利回りがよくなる可能性は高い。

「少しでも有利にお金を増やしてほしいのか、お金を正しく使ってほしいのか。目的を明確にし、わが子の性格に合わせた残し方を考える。それもまた、親ができる『資産防衛術』ではないでしょうか」

※プライバシー保護のため、事例にはアレンジを加えている。

岩切健一郎(いわきり・けんいちろう)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)。1986年生まれ。29歳で適応障害とADHD(注意欠陥多動性障害)の診断を受ける。コンサルティング会社や外資系保険会社の営業職を経て、現在は保険代理店に在籍。合同会社ひなた代表として、発達障害当事者やその家族に特化したFPとして活動中。著書に『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(ダイヤモンド社)がある。

取材・文/鷺島鈴香

デイリー新潮編集部