【小池 伸介】「人は食べ物」と学習したクマはこんなに危険…専門家が警告「食害の連鎖」を止めるのは簡単ではない

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昨年より、クマによる死傷者が全国各地で相次いでいる。著書に『クマは都心に現れるのか?』がある動物学者の小池伸介氏によれば、クマは本来、人間を食べ物として認識していないが、「人を食べたことがあるクマ」は危険な存在になると警告する。そのメカニズムについて、くわしく教えてもらった。

多くのクマは人間を食べ物と思っていない

2025年のようにクマによる人身被害が大きく報道され、社会的な問題になると、クマがあたかも人間を食べ物としてつけ狙っているのではないかと考える人が増えてくる。

専門家の立場から言えば、多くのクマが人間を食べ物として認識している可能性は極めて低い。これまでクマによる意図的な人への攻撃とそれによる捕食行動をした、という記録はほとんどない。

岩手県北上市の温泉で起きた被害のようにクマが人を引きずっていく行動は、野外でシカの死体を発見した後のクマの行動と非常によく似ているので、おそらくそれに類似した行動だと思う。あくまで人間を食べ物として認識し、捕食してやろうと思って襲うような行動は、あったとしても非常にまれなケースと思われる。

クマにとって、その対象が食べ物かどうかを認識するためには、それなりの学習や経験をしなければならない。もしも、人間を獲物として認識するようになるクマがいるとしても、いきなり街を歩いている人間をクマが襲って食べるような行動を取るわけではない。

そこまでの行動を取るためには、最初は例えば事故などで亡くなった方のご遺体を見つけるなどし、それを食べてみて人間が食べ物であることを認識するとか、ばったり遭遇した際に驚いて叩いたら相手が倒れて亡くなってしまい、ただの肉の塊になったような状況になって少しかじってみたら食べることができたとか、こうしたことが重なる必要があるだろう。

人を食べた経験のあるクマの放置は危険

前述の北上市の温泉の被害の前には、近隣で人のご遺体がバラバラの状態で発見されたという事例があった。その現場から発見されたクマのDNAと、北上市の温泉の事例で得られたDNAの照合ができていないため、同じクマかどうかわからない。

だが、考えられるストーリーとしては、前述のようなことが重なることで、「人と食べ物」がつながり、次の段階に進んでしまうのではないだろうか。全く何も条件のない状況から、いきなり人間を食べ物として襲うようになるわけではない。それなりの前段階がなければ、人間を獲物や食べ物として認識するクマは現れないだろう。

逆に言えば、人間を食べることを経験した個体をそのまま放置しているとかなり危険ということである。食害をしたクマは、その経験を記憶し、放置すると再び人間を襲って食害をする危険性がある。

また、それがメスの場合、子に対して人間が食べられる存在であることを教える可能性もある。こうした子孫へ伝えられる行動は、絶対に阻止しなければいけない。

そのため、食害をしたクマは絶対駆除しなければならないが、食害か否かを見分けるのは非常に難しく、現行犯でないとはっきりとはわからない。クマを捕獲して胃の中にご遺体があれば、それは食害になるのだが、ご遺体がバラバラになっていただけだと、それがクマによるものか、他の動物によるものかはもうわからない。

亡くなった後に荒らされていた可能性もあり、死因がクマによるものか、別の原因なのかもわからない。

私たちもシカの死体を山に設置し、死体がどのように分解されるのかと実験することがあるが、シカの死体にはクマも来るしタヌキもイノシシも来る。いろいろな生物が寄ってきて食べてしまう。

人間のご遺体であっても、おそらく同じようなことが起きている。本当にクマの食害かどうかを判別すること、また食害をしたクマを特定することは非常に難しい。

「イヌを食べるクマ」も学習で生まれる

2025年にはクマがイヌをさらっていく、「イヌを食べるクマ」という事象が大きく報じられた。クマはイヌをどんな存在と認識しているのだろうか。食べ物として意図的に襲っているのだろうか。被害に遭ったイヌの状態も様々だ。放し飼いだったのか、リードがついていたのか、犬種が何なのか、いろいろな条件がある。

これも人間に対するクマの食害と同じで、何らかのきっかけで食べられる存在と学習すれば、クマはイヌを食べるであろうし、キャンキャン吠える面倒な存在と思えば避けるだろう。

警戒心が下がったクマが、それまでは行くと危険と思っていた人間の集落へ近付いてみたら案外簡単に近付け、そして侵入できたことを経験する。さらに、いつもキャンキャン鳴いてうるさい犬の近くに行ってみるとドッグフードがあって、それは美味しいと記憶する。

これらをつないでみる。集落には簡単に行ける、ドッグフードは美味しいと経験する。

そして、美味しいドッグフードの周りにいつもキャンキャン鳴いてうるさいイヌがいるが、なぜかイヌは逃げないし、向かってこない。鎖につながれているからだが、クマがイヌを叩いてみたら血を流して肉の塊になった。食べてみた。なるほど、イヌは食べ物なのだとだんだん学習していく。

おそらく、このクマは最初からイヌを狙っていたわけではない。その前に別の家で学習したのかもしれない。こうしたことは、クマの学習能力の高さを考えれば起こって然るべき事象である。

「学習をさせない」システムづくりを

秋田県ではネコも食べられていたという話を耳にした。リードでつながれているわけでもない敏捷なネコが、容易にクマに捕らえられるとは考えられず半信半疑だが、食べ物と認識し、捕らえることができると学習すれば、それがクマのメニューに加えられる。

つまり、人間にせよイヌにせよ、クマに食べ物と認識されないようにし、学習させないことが重要ということだ。

アリやハチと同じで、クマは動物性タンパク質を食べられるのであれば、それを積極的に食べようとする。これまでも奥多摩で放牧されているヒツジが被害に遭ったり、秋田県の農家の庭先で飼われているニワトリが食べられてしまうことは普通に起きていた。特に2025年が特別だったわけではない。

ただし、このように意図的な攻撃事例が増えていくとすれば、それに対応したシステムを作っていかなくてはいけない。家畜やペットや人間を食べ物だと認識するクマが増えてきてしまえば、社会が危惧しているようなクマが積極的に人を襲う状況になってしまう。その前に対策をしっかりと講じるべきだ。

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