ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。

それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。

あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―?

◆これまでのあらすじ

サチ子の説得を受けてカウンセリングに通い始めた将暉。レス改善に向けて動きはじめたことを春乃は喜んでいたが…。

▶前回:「あなたの息子とはご無沙汰です!」孫の催促をしてくる姑に、驚愕の真実を伝えたら…




Vol.13 夫の衝撃の言葉


1月中旬の土曜日。

私は一人、自宅のリビングで将暉の帰りを待っている。

サチ子から説得されると、彼は、あっさりカウンセリングを受けることを決めて、私が事前に調べておいたカウンセラーに予約を入れた。

今日は、初回の予約日。

カウンセリングは11時に終わっているはずだが、13時を過ぎても将暉から連絡がないし、送ったLINEも既読にならない。

スマホを手に取り電話をかけようかと迷っていると、将暉が帰宅した。

「ただいま。遅くなってごめんね、はい、これプレゼント」

赤いチューリップのブーケを差し出された。

「キレイだね。でも、突然どうしたの?」

「赤いチューリップの花言葉って知ってる?『愛の告白』なんだって」

「えっ、愛の告白!?」

突拍子もない言葉に、私は、戸惑う。

「今の俺の気持ち。パートナーにきちんと思いを伝えることが大切だって、今日のカウンセリングで言われたんだ」

「そ、そうなんだ、ありがとう」

「カウンセリングは効果がありそうだから、定期的に通うよ。毎週土曜の午前中に行くことにした」

将暉は、妙にハイテンションだ。

「よかった。でも、無理はしないでね」

彼に合わせて明るく声をかけたものの、あれだけカウンセリングに行くことを拒んでいた人が、たった1回行った途端に『愛の告白』だなんて。

将暉の言葉は嬉しいけれど、うまくいき過ぎているようで違和感を覚える。

『でも、前進しているのだから、素直に喜ばないと』と、私は自分に言い聞かせた。


カウンセリングに通いはじめた将暉に、変化が表れて…!?




2ヶ月後、3月中旬の土曜日。

今日は私の30歳の誕生日で、将暉と六本木の『ベンジャミンステーキハウス』を訪れた帰り道。

「腹ごなしに少し散歩していく?」

店を出た後、六本木ヒルズ方面へと歩くことになった。

すれ違ったカップルが手を繋いでいるのが目に入って、切なくなる。

将暉は、この2ヶ月弱、毎週土曜の10時に欠かさずカウンセリングに通っている。その効果もあってか、私に少し愛情表現をしてくれることもあるが、身体的な接触に関しては、一向に変化はない。

― 結婚する前は、当たり前のように手を繋いで歩いていたんだけどな。

まさか結婚した途端にレスに悩んで、手さえも握られなくなるなんて。

不意に涙が込み上げてきて、止まらなくなる。

その時…。

隣を歩く将暉が、突然私の手を握ってきた。




「将暉…?」

嬉しくなって彼の顔を見ると、なぜか笑顔はなく、思い詰めたような表情をしている。

― なんでそんなに悲しそうな顔をしているの…?

かける言葉がみつからず、しばらく無言のまま2人で手を繋いで歩いた。

「タクシー拾うね」

しばらくすると、将暉が静かに口を開いて、私の手を放した。

タクシーの後部座席に乗り込み、窓の外の六本木通りの渋滞の光景を見ながら、考える。

最近、将暉はカウンセリングのあと、土曜日は夜遅くまで帰宅しないことが当たり前になっていた。

将暉はその理由について、「カウンセリングの後は、1人でゆっくり考えたいこともあるから。でも、夫婦関係の改善に向けて全力で努力してるから信じてほしい」と言っている。

今日だって、事前にレストランを予約して、私の誕生日をお祝いしてくれた。さっきは、久しぶりに手も繋いでくれた。

― ねぇ、将暉。私のことちゃんとまだ好きなんだよね?

言葉にしたいのに出てこない。

ここ最近の将暉の言動が、直感的に怪しいと感じているからだ。

ぐるぐると思いを巡らせていると、タクシーは渋谷駅を通過して、池尻大橋の自宅マンションに到着していた。

タクシーを降りて、自宅マンションのエントランスに立つと、将暉が気まずそうに声を掛けてきた。

「春乃、ごめん。今から友達と飲んでくるわ」

「……」

妻の誕生日に友人と飲みに行くなんて、有り得るだろうか。一瞬で、目の前が真っ暗になる。

呆然としていると、将暉は、足早に去って行ってしまった。


その後、将暉とは音信不通になり…。帰ってきた彼をみて、春乃は…



帰宅後、シャワーを浴びて、ベッドに身体を横たえた私は、将暉に「何時に帰ってくるの?」とLINEを送った。

すぐにLINEが入ってきたので、急いで開封する。

すると、『春乃さんお誕生日おめでとう!まあくんと楽しんでね』というメッセージと、ケーキにささったロウソクを吹き消すうさぎのスタンプが、目に飛び込んできた。

送り主は、サチ子だ。

― もう、こっちは緊迫してるっていうのに…。

コミカルなスタンプに、拍子抜けする。

サチ子からは、将暉がカウンセリングに通い出して以降、「何か変化があったか?」と頻繁に聞かれていたが、「努力してくれている」としか伝えていない。

すぐに『ありがとうございます』というメッセージに、ニコちゃんマークのスタンプを添えて返信する。

その後、25時過ぎまで待ったが、将暉からの返信はなかった。




翌朝。

目を覚ますと、将暉は帰宅していて、シャワーを浴び終えたところだった。

「昨日の夜、心配したよ」

冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを差し出して、遠慮がちに声をかける。

「ごめん。昨日は友達の家で飲んでて、酔い潰れて寝ちゃってたわ」

将暉は、私の目を見ないで淡々と答える。

彼の表情から、酔い潰れていたことは、嘘ではなさそうだ。

― でも、妻の誕生日に外泊するなんて、ひどすぎる!本当に良好な夫婦関係を築く気があるの?

頭の中で、今まで何度も思い浮かんで、その度に打ち消してきた「浮気」という言葉が、鮮明に浮かび上がってくる。

だけど仮に浮気だとしても、何の証拠もない今のタイミングで追求することは、得策ではない。

悲しみに襲われながらも、どこか冷静な心の中の自分が、語りかけてきた。

私はあえてそれ以上、追求しなかった。




1ヶ月後、4月中旬の土曜日。

今日は、私たちの結婚1周年の記念日だ。

将暉は、今日も「カウンセリングだ」と言って、朝から出かけて行ったが、ここ1ヶ月は、土曜は外泊するのがすっかり定番になっている。

一人自宅で過ごす私は、昨日受け取ったばかりの封書の中の書類に目を通すかを迷っていた。

彼が初めて無断外泊をしたすぐ後に、興信所に彼の素行調査を依頼して、昨日の仕事終わりに、報告書を受け取ってきたのだ。

今日が結婚記念日であるにも関わらず、将暉からは何の言及もない。

これは、彼に結婚生活を続ける気がないことの意思表示だと思えるが、心のどこかで、未だに彼を信じたいと思っている自分もいる。

「報告書を読むのは、離婚を決心した時だ」と思い直して、私は、書類を仕事用のバッグに締まった。

しばらくすると、将暉が帰宅した。

「ただいま」

「おかえり」

土曜なのに、昼過ぎに彼が帰ってきたことが珍しくて、驚く私。

すると将暉が、神妙な面持ちで口を開いた。

「春乃、大事な話があるんだ」

ついに来るべき時が来たのだと、一気に緊張が走る。

「どうしたの?」

冷静さを保って問いかけると、彼は、衝撃の言葉を口にした。

「もう限界なんだ。1,000万円渡すから、離婚してほしい」

「えっ…」

突然すぎる彼の言葉に、私は、言葉を失った。

▶前回:「あなたの息子とはご無沙汰です!」孫の催促をしてくる姑に、驚愕の真実を伝えたら…

▶1話目はこちら:プロポーズの直後、彼のスマホに1通のLINEが。慌てた男が口にした衝撃の告白

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次週、ついに春乃に離婚を言い渡した将暉が、思いを語る。