午前9時15分頃、東武伊勢崎線の新越谷駅近くの路上に、若い女性の甲高い叫び声が響き渡った。地面に倒れた女性の傍らには、マスクを真っ赤に染めた男が無表情のまま、あさっての方角に視線をさ迷わせ座り込んでいた。血がべったりと付着した包丁を右手に握りしめた男は、タオル地のハンカチを取り出すと女性の顔にそっとかぶせる。タオルが落ちないように左手で押さえるが、女性の首からはおびただしい血が流れ出していたという――。

【画像】送検される水元容疑者

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 9月30日、埼玉県警に殺人未遂の容疑で現行犯逮捕されたのは、千葉県木更津市に住む会社員の水元義人容疑者(35)。被害者の石澤里美さん(23)は、勤務先のドコモショップのかつての同僚で、昨年9月頃から今年7月頃まで交際関係にあったという。


越谷市の犯行現場 ©共同通信社

「犯行の前日、水元は石澤さんに復縁を迫る内容のLINEを送ったが、『会えない、会いたくない』と拒絶されていた。犯行の1時間ほど前には現場に現れており、近くの職場に勤める石澤さんの通勤ルートや通勤時間帯を把握したうえで、待ち伏せしたとみられている」(警察関係者)

定時制高校で“高校デビュー”

 埼玉県川口市で生まれ育った水元は、幼い頃に両親が離婚。シングルマザーとなった母親は水元と2歳下の妹を葬儀会社で働きながら育て上げた。中学卒業後、県内の公立高校に進学するも1年程で中退。その後は県内の定時制高校に入学。中学時代はおとなしく女性にモテるタイプではなかったという水元だが、定時制高校時代に印象が一変する。

「髪の毛を伸ばして茶髪にして、チャラくなっていた。わかりやすい高校デビューだなと。以前あった中学の同窓会の際、同級生の女性にちょっかいを出すというか、積極的に声をかけていて、イメージが変わったなと思った」(同級生)

 水元とかつて交際していた女性はこう明かす。

女性にはマメ、結婚後は同僚と不倫も……

「カッとなりやすいところがあって、お酒が入ると特にそういう傾向のある人でした。些細なことで理不尽にキレられ、腹部を蹴られたこともある。一緒に食事をしている時に『咀嚼音がうるさい』と怒られ、食が進まなくなると『なんで食わないんだよ』と……。

 また、結構自分に自信のあるタイプで、彼と別れた後に付き合った男性を見て、『俺の後によくあんな顔の男と付き合えるよな』と言っていたのも覚えています」

 女性にマメだった水元。交際相手との記念日に箱いっぱいのお菓子をプレゼントして、そこにティファニーのジュエリーを忍ばせたこともあったという。

 09年頃、定時制高校の同級生と結婚した水元は、3人の子宝に恵まれる。それまでは建築業やラーメン屋店員などを転々としたが、約7年前からドコモショップで働き始めた。勤務先では「子供が増えて生活も大変だ」と語っていた水元だが、一家の大黒柱としての自覚は芽生えなかった。

「ちょうど一番下の子供が生まれた13年頃、店舗の同僚と不倫関係になったそうです。『とにかく可愛くて、その子のことばかり考えてしまう』と周囲に話していました。3、4年くらい前、奥さんと子どもを置いて失踪したという噂が流れてきて、その後、離婚したようです」(水元の知人)

 3人の子を育てながら、ヤクルトレディとして家計を支えていた元妻は、現在、子供たちと水元の母と一緒に暮らしているという。

 妻子を捨てた水元は約2年前から千葉県木更津市に居を移していた。

「最初は女性と一緒で、やがて子供が生まれて3人で暮らしていた。ただ、1年くらい前から女性と子供の姿は見かけなくなり、今は一人暮らしでしたね。10月中旬には転居予定だったと聞きました」(近隣住民)

石澤さんの父が悲痛な胸の内を吐露

 事件の2日前には友人たちと酒盛りに興じていた水元。一方、亡くなった石澤さんは「素直ないい子」と近所でも評判だった。

「会うと必ずニコッと挨拶をしてくれた。学生時代はスーパーでレジ打ちをしていて、『バイト始めたんです』と笑って話しかけてくれました」(近隣住民)

 石澤さんの父が、悲痛な胸の内を吐露する。

「私たちの一人娘だったんです。これから結婚して、子供を産んでという未来があっただろうに、こんな形で将来を絶たれてしまった。妻も憔悴して、一人にさせられない状態です。私の仕事は毎日8時間くらい立ちっぱなしなんですが、娘は折に触れて『疲れてない?』と、マッサージをしてくれました。本当に心の優しい子だったんです……」

 水元は「(石澤さんと)やり直したかったが断られたので刺した。心中するつもりだった」と供述したが、自身は無傷だったという。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年10月15日号)