「うちの妻に限って」は男の思い込み。“レス”歴4年でも危機感のない夫を焦らせた、ある女の忠告
-この人だけを一生愛し続ける-
そう心に誓った日はもう遠い昔…。
結婚生活が長くなれば、誰にだって“浮つく瞬間”が訪れるもの。美男美女が行き交う東京で暮らすハイスペ男女なら尚更だ。
では、東京の夫/妻たちは一体どうやってその浮気心を解消し、家庭円満をキープしているのか。
これは、既婚男女のリアルを紡いだオムニバス・ストーリー。

第7話:「レスでも愛があるから大丈夫」と語る危機感のない夫・正樹の、大いなる勘違い
「…それで、奥さんとはうまくいってるの?」
「ああ、特に変わりはないよ。相変わらず“レス”ではあるけど」
なんでもないことのように答える。夫婦生活の実態をあっさり暴露したのは、莉子が僕の元カノで気兼ねなく話せる関係だから。もちろん彼女と恋人同士だったのは妻の美沙と出会うずっと前、学生時代の話だが。
元カノは、別れたあと一切連絡を取らなくなる女と、いつまでも友達でい続けられる女に分かれる。莉子は後者だ。頻繁に会ったりはしないものの、今でも節目節目で食事に行ったりする。
今夜は、4年ぶりにベトナム駐在から戻ったことを連絡したら、久々に会おうという話になったのだ。
「それさぁ、うまくいってるって言えるの?」
莉子が呆れ顔で僕を覗き込む。
「そりゃ、正樹はいいかもしれないけど…どうせ他で満たしてるんだろうし。でも奥さんは絶対、不満に思ってるわよ」
“他で満たしている”発言についてはスルーしつつ、僕は自信を持って反論した。
「レスでもスキンシップはあるし、仲良しだから大丈夫。美沙はもともと淡白だし。それに俺、美沙のこと誰より好きだもん。それは美沙もわかってるはずだから」
僕の言葉に莉子は「わかってないなぁ」という表情を向けたが、僕は気づかぬふりで日本酒を注ぐ。
まったく。わかってないのは、莉子のほうだ。
「レスでも愛があれば大丈夫」と言い張る正樹。まったく危機感のない言い分とは
「レス=愛がなくなった」などと考えるのは間違っている
僕が結婚以来、妻以外の女性と関係を持ったことがないか…?
それについて、否定することはできない。ただし誓って言えるのは、妻の美沙以外に心が動いたことなどない。
そもそも世の中の既婚女性に声を大にして言いたいのだが「レス=愛がなくなった」などと考えるのは、はっきり言って間違っている。
よく考えてみて欲しい。
男なんていうのは、愛などなくても女を抱ける。心と身体に繋がりがないとは言わないが、たやすく分断できてしまうものなのだ。
男は“新しい女”に性的魅力を感じてしまうもの。どんなに妻が美しくても色気があっても、“新規の女”の誘惑に打ち勝つのはとても難しい。
しかしそれは“新しい女”だから魅力的に映るのであって、その相手が他の誰であろうと同じ。言ってしまえば相手がA子でもB子でも大差ないのだ。
だが妻は違う。僕にとって美沙は唯一無二の存在だ。
家庭に刺激を求める男などいない。安心感があるからこそ愛を育むことができる。時が経つほどに新鮮味には欠けても、むしろ愛情は日々増している。
確かに莉子の言うとおり、“レス”であることを美沙が多少なりとも気にしている可能性はある。
しかし彼女が僕に不満を漏らしたことはないし、僕の前でいつも幸せそうに微笑んでくれているのだ。
僕たちはうまくいっている。そのことに関して、僕には自信があった。
元カノの忠告

「正樹の奥さん…美沙さんだっけ。結婚式でお会いしただけだけど、儚げで男好きしそうなタイプだよね」
何やら莉子は、まだ僕たちの関係に口を出したいらしい。
彼女は昨年、2歳年上でMRをしている男と結婚している。僕もわざわざ休みをとってベトナムから帰国し、アンダーズ東京で執り行われた式にも出席した。
思い返せば、莉子と会うのはその時以来だ。
まだ1年も経っていない新婚のはずだが、それにしては落ち着いているというか…幸せいっぱいという感じを受けない。
-莉子って、ちょっと屈折してる所あるからなぁ。
僕が彼女をそんな風に観察していると、莉子がこちらに意地悪な目を向けた。
「案外、彼女の方も外で上手に発散してるかも」
莉子のお節介な推測を「ないない」と僕は即座に否定する。
「美沙に限ってそれはないよ。あいつ、今時珍しいくらい男関係しっかりしてるから。浮気とかできるタイプじゃない」
「ふーん」と意味深に呟く莉子はまだ何か言いたそうだったが、僕はすっと視線を外しそれ以上は聞かないという態度をとった。
しかし、さすがは元カノだ。そんな僕にでも、莉子は「これだけは」と言わんばかりに忠告をするのだった。
「正樹は“レス”でも愛を維持できるのかもしれないけど、女は違うよ。女は“レス”だと、どんどん愛情を失っていくの」
元カノから忠告を受け、ようやく焦りを感じた正樹。妻の様子がいつもと違って見えてくる
普段より色っぽい妻
元カノ・莉子と食事をした翌日のこと。
今日は接待も急ぎの仕事もなく、落ち着いている。誰かを誘って飲みに行ってもいいが、久々に直帰しようと考えた。
-女は“レス”だと、どんどん愛情を失っていくの-
莉子に言われた言葉をふいに思い出す。
あいつに僕たち夫婦の何がわかるんだと思う一方で、真理を突いている気がしてしまう。
というのも莉子はとあるWEBメディアで恋愛コラムを書いており、男女の機微に関して妙に秀でた洞察力を発揮するのだ。

「ただいま」
代々木上原の自宅に戻ると、妻の美沙がキッチンで料理をしていた。
牛ごぼう炒めだろうか。食欲をそそる香りがする。“今日は早く帰るよ”とLINEをしておいたから、僕の好物を作ってくれているのだ。
「おかえり。あともう少しで出来上がるから」
エプロン姿でこちらに笑顔を向ける妻。その表情に、僕はふいにドキッとさせられた。
何と言えばいいのか言葉にするのは難しいが、妻の目が、唇が、妙に色っぽく映った。
僕はおもむろに美沙に近づくと、後ろから彼女を抱きしめる。首筋から立ち上がる妻の匂いが僕の中の衝動を突き動かす。
腕に力をこめ、強引に料理を中断させる。すると彼女の方から唇を近づけてきた。とろん、とした女の目で僕を見つめる妻が、たまらなく愛しい。
…美沙とこんなキスをするのは何年ぶりだろう。
毎日一緒にいる妻に、またこんな風に新鮮さを感じる日が来るとは思わなかった。
「ねぇ…ここから先はベッドで」
そう言って手を取る妻に、僕はゆっくり頷く。そしてそのまま、僕たちはおよそ4年ぶりに抱き合った。
未だかつてないほど積極的に求める美沙を見下ろしながら、僕は心の中で莉子に勝利宣言をする。
-ほら、やっぱり。美沙に限って浮気なんてあり得ないんだよ-
▶NEXT:2月14日 木曜更新予定
東莉子は、どうして元彼・正樹の夫婦関係を気にしていたのか?

