道具の特性を良く知り、大切に扱え

 小島啓民です。今回のコラムのテーマは「道具」です。野球選手には欠かせぬグラブやバット。道具に対するこだわりや自身の考え、知識を持つ選手はやはり上達していきます。プロを目指す選手、それからもっとうまくなりたいと思う少年たちにはその「特性」をよく知り、大切に扱っていってほしいと思います。

 2年前になりますが、元ジャイアンツの仁志敏久氏と台湾で行なわれた侍ジャパンの日台親善試合で一緒に過ごした際の話をさせていただきます。

 早稲田大学の後輩でもあり、以前にも数回お会いすることはありましたが、じっくり野球の話をする機会を持つことができました。ただ、お会いした際の話よりも、まず仁志コーチのグラブを見てビックリしました。いまだにグラブがしっかりと磨かれており、きちんと手入れされていて、現役選手並みの状態でした。

 さすがゴールデングラブ賞を受賞したプロ選手と思いました。普通、現役引退したら、グラブの扱いなども雑になるんですけどね。

 仁志氏はこう話しました。「何度も助けられてきたグラブに対する思い入れがあって、雑に扱えないです!」と。さすがですね。

 仁志さんや元ヤクルトの宮本慎也さんも言っていましたが、「送球を受ける」、「通常のゴロを捕球する」、「ダブルプレーをする」際にそれぞれ捕球するグラブのポケットの位置を微妙にずらしていると聞きます。二遊間の守備の上手い人は、大抵このような発言をされます。グラブの特性をしっかり理解しているからこそ、できる技術なんでしょうね。

木製バットの特性を熟知する稲葉氏、真似できないバットコントロール

 一方、バットですが、私がその特性を上手く利用しているなと思う代表選手は、侍JAPANコーチで元日本ハムの稲葉篤紀さんです。特にインコースの打ち方は、なかなか真似をすることができない技術であると思います。

 ボールをできる限り体の近くまで呼び込み、やや前の手(右手)の肘を抜きながらバットの芯でボールを捉え、後ろの手(左手)でボールを飛ばす方向へ身体ごと押し出し、フェアグラウンドにボールを打ち返すという技術を持っています。

 普通、インコースのボールを打つのに、肘を曲げたままボールをとらえることは非常に難しく、前の手が伸びた状態でインパクトを迎えます。 したがって、芯に当たってもファールゾーンに飛んでいくということが多くなりがちです。稲葉さんの打法は、木製バットの特性である「バットの芯に当てないと飛ばない」、さらに「フェアゾーンに打つためにはインパクト時のバットの角度が重要」という点を熟知したもので、非常に研究されていると言えるでしょう。芯の位置や角度を確認、理解し、ボールを打っていることが分かります。

 硬式野球部では高校までは金属バット、大学以上は木製バットを使いますね。その特性は大きく違います。金属バットの飛距離と木製バットの飛距離は、あるプロ打者に聞いてみましたが、体感で15m程度、金属バットが飛ぶような気がすると言っていました。また、別の打者に聞いてみると、木製も芯でしっかりと打てれば金属バットと同じぐらいの飛距離は出ますという方も。バットの芯、いわゆるスウィートスポットと呼ばれる部分は木製の場合は、1点しかなく、バットの先端から10cm〜15cm程度、グリップ寄りにあります。

 一方で金属バットのスウィートスポットは先端10cm〜30cm程度と広く位置します。簡単に言うと、本当に当たったら飛ぶ部分が木製バットの“点”に対して、金属バットは“面”で存在すると理解してもらえば、分かりやすいかと思います。

大学生でも理解度が低い木製バットの芯の位置、金属バットとは指導も異なる

 高校野球では甲子園でも「大会第○号です」などと沢山のホームランがでますが、木製バットであれば激減するはず。現に東京ドームで毎年開催される都市対抗野球大会では1979年第50回大会から2001年第72回大会までの金属バット時代から、2002年73回大会以降、木製バット時代となり、本塁打数は半減しています。

 一概に金属バットと木製バットが要因であるとは思いませんが、圧倒的に金属バット時代がバッター有利だったことは間違いありません。また、高校時代のホームラン何本という数字では、数本の差に大きな違いはなく、参考値としてか使えないと言えるでしょう。

 このように、金属バットと木製バットでは大きく特性が異なり、求めらる技術そのものも違ってきます。金属バットは木製より飛ぶ確率が高くなるので、できる限り、バットに当てることを考えれば良いと思います。さらに芯の幅が広いわけですから、よりバットに当てるのはやさしくなるはずです。

 もし、金属バットで勝つ野球を目指すのであれば、私なら「バットに当てやすいように、できる限り反動を使わず、ステップ幅を小さくして、目の位置の変動が少なくなるようにする」と答えるでしょう。さらに「トップに近い位置にバットを構え、身体の反動が使いづらい分、上半身、特に腕力を鍛え、早くバットを振る練習をする方が得策かもしれません」とも回答します。

 一方、木製バットは芯は一箇所。しかも、それ以外の部位に当たる時はバットの力が必要となります。言い換えれば、バットにボールを正確に当てる技術とスイングスピードの速さが求められます。ご理解いただけると思いますが、当然、金属バットより木製バットの方が求めらる技術難度は高くなります。

 大学生に「木製バットの芯は?」と問う際に、よく理解できていないのが実情です。大学生の指導者もそれくらい知っているだろうと思って、指導していないのでしょうが、幼少期から高校まで金属バットを愛用している高校生が大学生になっているわけですから理解できていないのは、当たり前と言えば、当たり前のことなのかもしれません。

 もし、この記事を見ているプロの指導者の方がいれば、入団1年目のスタートにはぜひ「バットの芯は?」というところから指導することをお勧め致します。

 このようにスポーツの世界では、使用する道具の仕様が変わるということは非常に大きな問題です。ボールの重さ、形状などが違うということは、それに対応する技術を変えなければいけない。したがって、プレーヤーは、今使っている道具の特徴、特性をしっかりと把握することが技術を習得する以前に特に重要なこととなります。

 技術の習得の前に、道具の特性をよく知ること。道具と常に触れ合って、さらに仁志さんのように道具を大切に扱うことが大事です。

小島啓民●文 text by Hirotami Kojima

1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年〜2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。