(左から)岡田将生、染谷将太

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「偽物」の意味

 TBS「田鎖ブラザーズ」(金曜午後10時)は正統派ミステリー。推理の材料を視聴者側にきっちりと与えてくれている。人気も高く、個人視聴率は上位。録画個人視聴率はトップを記録している。5日放送の第8回から最終章に入る。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 複雑に入り組んだ謎が少しずつ解けてきた。第7回で神奈川県警青委警察署の刑事・小池俊太(岸谷五朗)から、質店経営で情報屋の足利晴子(井川遥)に向けて言い放たれた言葉が、真相究明の役に立った。

 田鎖兄弟は同県警に勤務しており、小池にとって身内。関係も悪くない。晴子も田鎖兄弟を7歳と5歳のときから知り、やはり身内同然。2人は敵ではないはずだが、小池は質店内にあったイミテーションのバッグを持ちながら「偽物はやめておけ」と、声を荒らげた。

(左から)岡田将生、染谷将太

 ダブルミーニングだった。晴子は兄弟による両親殺しの犯人探しに協力しているが、小池はそれが純粋な善意ではなく、偽りが含まれていると見ている。

 晴子も黙ってはいなかった。小池に向かって「笹岡さん、お元気ですか」と皮肉っぽく言い返した。かつて小池の相棒だった笹岡隆弘元刑事(柳憂怜)のことである。笹岡は反社会勢力・五十嵐組への情報漏洩が露見し、懲戒免職となった。

 五十嵐組は田鎖兄弟の両親殺しに深く関わる存在として第5回に浮上した。晴子もまた小池の田鎖兄弟への恩情に疑いを抱いている。

 主人公は田鎖真(岡田将生)。県警の刑事だ。弟の稔(染谷将太)も県警に勤務し、検視官をしている。兄弟が県警入りした真の理由は、両親殺害事件の真相を知るためだった。

 兄弟の父親・朔太郎(和田正人)と母親・由香(上田遥)は1995年4月26日夜、自宅に侵入した何者かに刺殺された。犯人が分からぬまま、事件は2010年に時効になった。

 朔太郎は辛島金属工場に勤務する善良な工員と見られていた。由香は町中華「もっちゃん」のパート従業員。なぜ、殺害されなくてはならなかったのか。それが薄ぼんやりと見えてきたのは第4回。朔太郎が自宅に小型銃を隠し持っていたことを兄弟が知ったからである。

 第5回には辛島金属工場で銃が密造されていたことが分かる。工場が銃製造に使われる合金鋼のSNCM(ニッケルクロムモリブデン鋼)を秘かに仕入れていたことを稔が突き止めたからだ。販売先として五十嵐組が浮上したのも同じ5回だった。

 ここで第1回の回想シーンで流れた朔太郎の言葉が俄然クローズアップされる。事件当日の昼間、自宅に来た工場長の辛島貞夫(長江英和)に向かって、「よろしくお願いします」と頭を下げた。何かを頼んだ。

 辛島は「分かってる」と鷹揚にうなずいた。銃を密造していた工場のトップに向かって、朔太郎は何を依頼したのか。頼み事の中身が殺害の引き金になったと見る。

朔太郎の頼み事

 頼み事は「自分は銃密造をやめたい」か、あるいは「銃密造の特別報酬が欲しい」か。最も現実的なのは「銃密造をやめましょう」ではないか。

 まず、兄弟の将来を考えると、悪事をやめたいと思うのはごく自然なこと。特別報酬の要求であっても不思議ではないが、どちらも殺害の理由としては弱い。朔太郎の要求を飲んでしまえば済むのだから。

 辛島にとって、最も嫌だったのは密造をやめようと頼まれることだっただろう。銃密造に関わるすべての人間に影響する。ましてや販売先は五十嵐組だ。危険が伴う。もしも朔太郎が「やめなかったら、自首する」と言い添えていたら、震え上がったに違いない。

 朔太郎は銃密造に深く関与していた可能性が高い。辛島と会ったあと、やはり自宅に来たノンフィクション作家の津田雄二(飯尾和樹)から、「教えてくださいよ」と密造の内情を問われた。キーマンの1人と見られていた。さらに「田鎖さんも港まで運んでいたじゃないですか」と詰め寄られた。

 朔太郎は銃密造に関わっただけでなく、運搬役もやっていたのだろう。港は密造銃の受け渡し場所か、密輸船の出発地だった。朔太郎と津田の接触も第1回の回想シーンで描かれた。

 辛島はどうして銃の密造に手を出したのか。すぐに思い浮かぶ理由は山岳写真家の妻・ふみ(仙道敦子)の手術代を稼ぐためだ。そのころ、ふみは山での事故で下半身不随となり、車椅子生活を送っていた。

「もっちゃん」の店主でもっちゃんこと茂木幸輝(山中崇)は第3回で流れた事件前の回想シーンで、こう語った。「手術しないと、良くならない」。手術代が高額だったら、辛島の銃密造の動機に十分成り得る。

 謎めいているのが事件とほぼ同時刻、辛島金属工場で小爆発があり、すぐに火災になったこと。同じ第3回の回想シーンによると、小爆発時に辛島とふみは居住スペースにいた。もっちゃんもいたが、なぜか工場で倒れていた。

 もっちゃんが工場を訪れたのはふみの代わりに料理のつくり置きをするため。辛島夫妻は住居スペースにいたため、軽傷で済んだように見えたが、もっちゃんは大ケガをしたようだった。

 田鎖家と工場は近い。殺人事件と小爆発がほぼ同時に起きるとは出来すぎている。しかし、辛島のアリバイづくりと銃密造の証拠隠滅を狙った意図的なものだったとすると、合点がいく。小爆破は工場で発生したから、現場にいたもっちゃんが起こした疑いが強い。辛島夫婦に頼まれたのか。

ふみの怖さ

 おそらく、もっちゃんは辛島夫妻に大きな弱みを握られている。第6回にはふみから「あの兄弟から証拠を盗んできて」と頼まれた。津田が銃密造について取材したノートである。密造銃の販売先と見られる五十嵐組によってシュレッダーにかけられてしまったが、稔が復元しようとしていた。

 第7回、もっちゃんはふみの依頼を断った。「子供のころから知っている、あの兄弟は裏切れない」。すると、辛島はこう凄んだ。「オレたちはどうなってもいいのか」

 弱みがあるとしか考えられない。もっちゃんが大切にしている母親・カル(三谷侑未)に関することか。カルは辛島家で家政婦をしている。人質に取られているようなものである。

 ふみは上昇志向が強いようだ。もっちゃんに兄弟の持つ証拠を盗むよう頼んだとき、「妙な噂が立ったら仕事に影響するから」と言った。盗みを依頼するときの言葉とは思えない。仕事で名を成すことが第一であるらしい。

 銃密造を知る津田もふみには仕事の邪魔になる存在だった。第6回の回想シーンで津田はふみに取材ノートを売りに来た。だが取引が成立しないまま、やがて津田は五十嵐組に襲われる。取材ノートは奪われた。

 このとき、津田は簡易宿泊所で寝泊まりしていた。いくら反社が情報通とはいえ、住民登録をしていないのだから、そう簡単には居所を突き止められない。ふみが教えたのだろう。津田は第3回で死んだとき、ふみの携帯電話の番号を所持していた。おそらく津田はふみに自分の居所を教えた。

 かつての銃密造と事件の隠蔽工作も主犯格はふみではないか。今、兄弟の動きを不安がる辛島を、「お父さんは何も心配しなくていいの」と慰める。その姿からも主体的に行動していることを強くうかがわせる。

 銃密造の理由がふみの手術代なら、積極的に動くのも分かる。自分のためなのだ。しかも事件当時は足が不自由だったので、捜査圏外に逃れやすい。田鎖兄弟の両親殺害もふみが企図し、五十嵐組かほかの人間が実行したと推理する。

 まだ大きな謎がある。晴子は事件時、どうして田鎖宅前にいたのか。この物語の大きなテーマは「復讐の是非」である。晴子も復讐のために行動していたからではないか。

 漁師だった晴子の父親は酔って海に落ち、死んだという。「もう何年も前だけど」(第5回)。晴子は詳しく語らない。母親と弟はそれより前に事故死した。

 気になるのは密造銃の受け渡し場所か密輸船の出発地であると見られる港が、晴子の父親の仕事場でもあること。港にいた晴子の父親は密造銃について見てはならぬことを見たのではないか。

 父親は五十嵐組によって海に沈められたと見る。後処理は五十嵐組と癒着していた笹岡元刑事に任せれば造作なくこなせただろう。現場には朔太郎もいたと見る。

 晴子は父親の死に朔太郎が絡んでいたことを知り、事件当夜は田鎖家を見張っていた。その中で朔太郎と由香は殺され、家から出てきた犯人に晴子も斬りつけられた。こう考えると、小池係長の「偽物はやめておけ」という言葉に合点がゆく。

 小池も善意の人ではないだろう。笹岡による五十嵐組への情報漏洩を知らなかったとは考えにくい。笹岡が情報を流し、小池がそれを隠蔽したため、両親殺害の捜査線上に五十嵐組の名前が挙がらなかったのではないか。だから小池は田鎖兄弟や晴子に「あの事件は終わった」と言い含めるのだと読む。

「田鎖ブラザーズ」の人気は上々。先週(5月25日〜31日)の週間個人視聴率ランキングでは「未解決の女 警視庁文書捜査官 Season3」(テレビ朝日)の4.6%、「GIFT」(TBS)と「ボーダレス〜広域移動捜査隊」(テレ朝)の3.6%に次ぐ2.8%で4位。「リボーン 〜最後のヒーロー〜」(テレ朝)、「時すでにおスシ!?」(TBS)も同率で並んだ。

 2週間遅れで公表される録画個人視聴率(同11〜17日)は3.0%でトップ。個人視聴率は通常の数字も録画も1%で関東の約40万人に相当する。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部