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派遣型マッサージ店の女性従業員に乱暴したとして、強制性交の罪に問われた俳優の新井浩文被告人の論告求刑公判が10月23日、東京地裁(瀧岡俊文裁判長)で行われた。

検察側は「性欲のおもむくまま行為に及び、身勝手で自己中心的な犯行。真摯な反省の態度もみられない」と指摘し、懲役5年を求刑した。弁護側は「被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行はあったとはいえず、性交に合意があったと誤信していた」として無罪を主張し、結審した。

新井被告人は最終意見陳述で、女性の心情に関する意見陳述書の内容について今までとの証言の違いを指摘したが、謝罪の言葉はなかった。判決は12月2日。

●被害女性「悔しくてたまらなかった」

まず、被害者参加代理人の弁護士が心情に関する意見陳述書を代読した。裁判官は代理人弁護士の代読前に、一部の記述について新井被告人の弁護人に意見を求めた。弁護人は「事実認定に関する証拠ではなく、心情に関するものと理解している。心情に関する意見として特段異議を述べることまでは考えていない」とし、提出が許可された。

被害者のAさんは意見陳述書で、今回の事件を「屈辱的なこと」と振り返り「電車などで動悸がして逃げだしたくなったり、大きな体の男性がいると恐怖を感じるようになったりした」と普通の生活がままならない現状を語った。

心身を癒したいという思いが踏みにじられ「悔しくてたまらない」と述べ、AさんやAさんが働いていたお店まで「グレーな店」と新井被告人に表現されたことについて「憤りを感じた」と不快感をあらわにした。

被害を訴えてから全てが身につかず、逮捕されるまで新井被告人が安穏と生活していることが「悔しくてたまらなかった」と思いを語った。

逮捕されたことで正当な処罰をうけると思っていたところ、弁護人を通じて示談の申し入れがあったが、新井被告人が一部否認しているという報道もある中で、許す気になれずに断ったという。うやむやにされたくないという思いで、裁判を通じて正当な処罰を受けることを強く望んでいたが、「示談の申し入れを拒否し続けていいか悩んだ」と振り返った。

法廷で真摯に反省する姿に「一縷の期待をしていた」ものの、公判前整理手続きの間は不安ばかり募った。「新井被告人が本気で争うために手続きが長引いている」と感じ、無罪を争うと聞いて「愕然として、一層不安を抱いた」という。

思い出さなくなってきた事件の内容を事細かに説明しなければならず、「悲しく悔しい気持ちが蘇った」。また、公判での自身の証言が、世間でどう言われるかも不安になり、新しい仕事も休むようになった。

被害については「強引に腕をつかまれ、手を引っ込めようとしましたが、無理やり陰部を触らせようとし、頭をわしづかみにして陰茎に押し当てようとしてきて、気持ち悪い思いをした。真っ暗の部屋で(新井被告人の)お腹の横に倒され、この人は何を言っても聞かない人だと恐怖で思考が停止し、ほとんど抵抗できなかった」と振り返った。

また、「抵抗が弱いので同意していると思った」といった新井被告人の証言については、「嫌だということは何度も伝えたし、恐怖のあまり大声も出せなかった。全く自分勝手な主張。示談前提でしか物事を考えていない」と批判した。

当時の動作を明確にするため新井被告人が再現した動画について、「恥ずかしい思いをした場面を映像に残し、気持ち悪い」と不快感をあらわにし、「謝罪は表面的だと感じざるを得ない」として「正当かつ厳しい処罰を望む思いが強い」と述べた。

●検察側「物理的心理的にも抵抗は著しく困難だった」

検察側は論告で、まず、強制性交等罪の要件である「被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行」があったと主張した。

Aさんの証言の信用性について、暴行の態様や心境、会話などが詳細かつ具体的で、経験したことがなければ話せないものであり、「迫真性がある」と評価。また覚えていることと覚えていないことがそれぞれ正確で、被告人に優位となることも話していることから、証言態度は「真摯かつ公平」だとした。

また1000万円や2000万円の示談交渉を受け入れなかったことからも、「経済利益目的の申告ではなく、新井被告人を虚偽証言で陥れる目的もない」と主張した。

一方、新井被告人の供述については、Aさんの証言からAさんが拒否したことが認められる上、新井被告人も認めているように素股すら拒否していたことから、性交については「より一層強い拒否があったことは想像に難くない」などとし、「不自然かつ不合理で信用に値しない」と断じた。

「著しく困難ならしめる程度の暴行」かどうかについては、今回の事件は殴る蹴るなどの傷害はないが、Aさんが身長158センチ体重45キロなのに対し、新井被告人の身長は180センチあり、時間は深夜3時ごろ、新井被告人の自宅の寝室に1対1で、真っ暗の中での犯行だったことから、「恐怖心を抱かせるもので、心理的に抵抗は困難だった」とした。

また、Aさんは別の客に手首を捕まれ性的サービスを要求された際には、部屋も明るく細身の男性だったこともあり「手を引っ張って逃げられた経験がある」といい、それと比較すると「一連の行為について、物理的心理的にも抵抗は著しく困難だったことは明らか」と主張した。

●検察側「Aさんは合意していなかったと如実に認識していた」

次に、新井被告人の「合意があったと誤信していた」という主張については、・新井被告人がAさんの勤務していた店は性的なサービスは行わない健全な店と認識していたこと・事件以前、Aさんの勤務していた店のセラピストに性的サービスを要求したことはないこと・Aさんは白シャツ黒ズボンで、性的なサービスを連想させない服装だったこと・新井被告人がAさんの手を陰部に押しつけた時、Aさんが「やめてください」と拒否したこと・新井被告人が服を脱がそうとした時、Aさんが「脱がさないで」と拒否したこと・新井被告人が陰部を触ろうとした時、Aさんが「触らないで」と拒否したこと・新井被告人が胸を舐めた時、AさんがTシャツを下げる動作をしたら行為をやめたこと・Aさんが素股を逃れるため上の方に逃げようとしたことを新井被告人が認識したこと・Aさんが口を背けていたため、口に陰茎を入れることができなかったこと・性交しようとした時、Aさんが「入れないで」と拒否したこと・行為後に新井被告人が「悪いことしちゃったね。これお詫びに」とAさんにお金を渡したこと・Aさんがお金を明確に拒否していたのに、お金をバッグに押し込んだことなどから、店に対して性的なサービスを要求できないことを認識しており、Aさんが拒否する言動についても「一切認識していなかったとは考えられない」として信用に値しないとした。

また、他の店で性的サービスをしてもらった後はマッサージ料金以外支払っていなかったことから、今回の事件については新井被告人が「合意がなかった」と不安を抱いていたこと、そもそも、逮捕時の取り調べでもそうした弁解はなかったことから、「Aさんは合意していなかったと如実に認識していた」として強制性交等罪の構成要件に該当すると結論づけた。

情状については、犯行態様は2人きりであることを利用した一方的なもので「卑劣で悪質」と評価。別のマッサージ店でも同様のことをしていたことから「計画性すら伺える」と述べた。

また、Aさんはショックから仕事を辞めざるをえず、現在も頭痛や食欲減退、体重の減少などの症状があり「重大な精神的苦痛を負っている」とし、「モノのように扱われ、お金で解決しようとされて悔しいという激しい怒りを吐露しており、(新井被告人に)刑務所に入って反省してほしいという思いがある」と述べた。

また、「性欲の赴くまま身勝手で自己中心的な犯行」と指摘。「『同意があると誤信していた』などと一部否認するなど不自然で不合理な主張をしている」などとして「真摯な反省の態度は見られない」と非難した。

●弁護側「『被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行』には当たらない」

弁護側は、「判断しなければならないのは、強制性交等罪の要件である『被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行』に当たるのか、同意していると誤信する事情があったのかだ」と話した。

まず、Aさんの手を掴んで股間に押し付けた場面について、「新井被告人が意図してやったことであれば強い暴行と評価する余地もあるが、(Aさんは)押さえ込まれたわけではない」とし、「股間に近づけることは褒められるものではないが、強度としては強いものではなかった。最終的に手首を離していることからも明らかだ」とした。

胸を舐めた当時の体勢について、新井被告人は仰向けに寝ていてAさんは上にいる体勢で、「下から抱擁されていたわけではない」と指摘。Aさん自身が「今思えば逃げられたかもしれないが、必死で考えられなかった」と証言したことについて、「非難するわけではないが、暴行に当たるのか性行為を同意するに至った事情を考える上で非常に重要だ」とした。

ズボンを脱がせた場面については、「ズボンはタイトなもので、お尻を浮かさないと脱がせられない。ズボンや下着に破損はなく、体にも傷が残ったことはない。内心はともかく、抵抗することなくパンツやズボンを脱がされたと考える」と主張した。

Aさんの陰部に指を入れたことについては、新井被告人が逮捕後に捜査官にその話をしたことで、その事実について聞かれてAさんも思い出したという点を指摘し、「7カ月忘れていたことは仕方ないことですが、行為について忘れていたが『触らないでと言った』という証言は信用できない」と述べた。

また、性交を拒否した場面のAさんの話が変遷していると指摘。事件のあった数週間後の7月上旬にAさんが自身で残したメモや被害届、供述調書に、挿入されないように股間を手で抑えて足を閉じたという話はなく、「警察官が聞かないことはありえない。直前の証言は重要な場面であり欠落がある」として、Aさんが性交を拒否した事実はないと主張した。

口に性器を入れられようとしたことについては、新井被告人は行為したこと自体否定している一方で、Aさんは両手で頭を掴まれ陰茎の方に引っ張られたと証言している。

Aさんは首に痛みが残ることはなかったというが、「男性が頭を掴んで無理やり持ってきて、抵抗したなら、首にかなりの痛みが生じるはず」と指摘。「新井被告人がベッドボードに当たらないようAさんの後頭部に手を添えたことがあった。頭を掴まれたとしたのは、この行動ではないか。体勢が変わるときに一瞬股間が顔に近づいたのかもしれない。(Aさんは)勘違いしているのではないか」と証言の信用性を否定した。

これらを前提として、強制性交等罪の要件である「被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行」に当たるのかを検討。

強制性交等罪は「被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行」を用いて、それに乗じて性交する罪であり、「相手の意思に反したことを持って強制性交等罪が成立することは明らかに誤り」と指摘。Aさんの手を掴んで股間に押し付けた場面について、「性交の手段として手首を掴んだのではない」と主張し、仮に、陰茎を入れようとした事実があったとしても、「性交に至るまでの手段ではない」とした。個別の行為を見たときに、一つ一つは「被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行」とは言えないとした。

また、全体として見たときも、部屋が暗いことは「眠たくなってAさんに了解をとって暗くして寝たものであり、Aさんも暗いところに慣れており、いきなり暗くされたのではない」と反論。体格差については「お互い一般的で、特筆すべき体格差があるわけでもない」とした。

また、今回Aさんが新井被告人の自宅に行く前に、同僚から忠告されたことや、マッサージ中に新井被告人が興奮していると気がつき興奮させないように注意していたことから「(新井被告人が)性的な興奮してくることは予期していた」と指摘し、「想定外でパニックになり、精神的に反抗が困難になったわけではない」と反論した。

また、Aさんが帰り際に新井被告人から住んでいる場所を聞かれて実際の住まいの地域を答えていることなども踏まえ、新井被告人の行為が「被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行」には当たらないと結論づけた。

●弁護側「同意なんてありえないという判断は間違い」

もう一つの争点である、新井被告人が合意していると誤信する事情があったかについては、股間スレスレまでマッサージをしてくれたことや胸を舐める時に逃げようと思ったら逃げられる状況であったことなどから「受け入れてもらっていると思うことはありえない話ではなく、不合理ではない」とした。

また、アロママッサージ店の実情として、性的サービスが禁止行為だという誓約書は書いているが、資格は求められずスキンシップがあることから「関係や業態から、同意があったというのはありえないという(検察側の)判断は間違い」と指摘。新井被告人の「(同意があったか)ちょっとした不安もあった」という証言については、「(同意しているか)確かめるべきだというのはその通りで非難されるべきだが、ちょっとした不安もあったというのは同意を誤信していたというのと両立可能な事実」とした。

また、お金を渡したことについては、「ちょっとした不安」があったのと俳優でもあったため口止めをしたかったためで、「同意があったと誤信していた」ことを否定することにはならないとした。

素股を拒否しているのに性交に同意することについては、「素股は風俗的な行為で嫌でも、性交は別にいいということはあっておかしくないこと」とし、「この一つをもって同意していたことはありえないとは言えない」とした。

検察官は捜査段階の供述と公判での供述の齟齬を追及していたが、逮捕直前・直後の供述は「強要の事実を無理やりなんとか認めさせようとしたことは明らか」と反論した。

最後に、刑法改正時の国会の付帯決議で、刑法177条における「暴行又は脅迫」の認定について、「被害者と相手方との関係性や被害者の心理をより一層適切に踏まえてなされる必要があるとの指摘がなされている」と言及されている点について、「重要なものだが、付帯決議であっても、判例よりも軽い程度であっていいとはならない。構成要件は変わっておらず、今ある法律にしたがって判断しなければならない」と指摘した。

新井被告人は最終意見陳述で、代読されたAさんの意見陳述書について「一つだけ思うことがある」と切り出し、「抵抗できなくなってしまったと言っていましたが、今までは『ずっと抵抗していた』と言っていたので、なんで違うのかなと思いました」と述べた。謝罪はなかった。