28億円が行方不明のまま事件は幕を閉じた…Netflix『地面師たち』で豊川悦司が演じた男のモデルが「なぜか逮捕されなかった」理由
〈Netflix『地面師たち』では“殺害”されたなりすまし犯…現実の地面師たちが選んだ「もう一つの消し方」〈綾野剛が演じた男のモデルが告白〉〉から続く
Netflixドラマ『地面師たち』で豊川悦司が演じたハリソン山中のモデルとされる内田マイク。外国ルーツを思わせるその名前の由来には諸説あるが、実態は謎に包まれたままだ。
【写真】内田マイクがモデルに…Netflix『地面師たち』で豊川悦司が演じたハリソン山中を見る
28億円の証券横領事件に関与しながら捜査の網をかいくぐった“伝説の詐欺師”の黒い履歴書を、ノンフィクション作家・森功の著書『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』(講談社)より抜粋して紹介する。(全4回の4回目)

写真はイメージ ©graphica/イメージマート
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スター地面師・内田マイクの別の顔
地面師の世界で最も名の通った内田マイクでさえ、その正体がいま一つ判然としない。本人は神奈川県に生まれている。マイクという外国人のような名前については、横須賀の海軍基地に駐留していた米兵の父親と日本人女性の母親の子供だからだ、という説もあるが、そうではなさそうだ。起訴状や判決文にも、内田マイクとあるから、本名には違いない。
もっとも以前は英吾を名乗っていた時期もある。内田はマイクと英吾という2つの名を使い分けてきた。2015年6月に開かれた「内閣総理大臣杯第46回日本社会人ゴルフ選手権マンデートーナメント埼玉会場Aブロック」には、内田英吾としてアマチュアゴルフトーナメントに出場している。内田の妻が代表を務めてきた「環リアルパートナーズ」の選手として大会に出た内田は、87のスコアーでプレイして10位になっている。
その内田は1990年代末から2000年代初めにかけたIT・ファンドバブルのとき、すでに地面師グループを率いていた。錦糸町グループや新宿グループと並び称される新興地面師集団「池袋グループ」のボスとして斯界で話題になり、逮捕されている。そんなスター地面師には別の顔もあった。この頃から付き合いのある不動産ブローカーに会うと、内田ではなく「高橋マイク」と呼んだ。
「マイクという名前はそのままでしたが、以前の奴は高橋マイクと称していました。あの頃は稲川会系の二次団体で会長の運転手をやっていて、たまさか知り合いました。当人は準構成員扱いだったから会長との縁続きではないでしょう。たまたま会長が1999年に証券会社の横領事件で警察に追われていました。そのときまるで籠脱け詐欺のようなことをやって組の金を掠め取ったのがマイクでした」
『地面師たち』前夜に起きていた総額28億円の詐欺事件
ブローカーの話に出てくる証券会社が、群馬県前橋市に本店を置いていた南証券だ。過去には、〈南証券元社長、道仁会系に2億円借金 着服資金で返済か〉(2003年12月10日朝日新聞西部版夕刊)と題した報道もあった。
〈約28億円分の有価証券を着服したとされる「南証券」(前橋市、00年3月に破産)元社長の平田浩一被告(37)=業務上横領罪で起訴=が破産前、指定暴力団「道仁会」(本部・福岡県久留米市)系組織から約2億円の資金提供を受けていたことが警視庁の調べでわかった。着服した有価証券のうち10億円分の行方はいまだに不明で、警視庁は返済を迫っていた暴力団に一部が渡った可能性があるとみて10日午前10時すぎ、業務上横領容疑で道仁会系の複数の暴力団事務所などの家宅捜索を始めた〉
今でいうM&A詐欺の走りのような事件といえる。元社長が1999年3月、3億5000万円で経営難の南証券を買収して社長に就任する。記事はこう続く。
〈北海道に住む知人の指定暴力団稲川会系組関係者の紹介で、村上一家浪川会から、会社の運営資金として約2億円を借りた。捜査2課は、その後、道仁会側から返済を厳しく迫られたため、有価証券を持ち出して現金化し、返済に充てようとしたとみている〉
ここに出てくる福岡県大牟田市に根城のあった指定暴力団は道仁会系の村上一家浪川会のことで、その後、九州誠道会、浪川会と名称を変えている。
企業買収の狙いは、南証券が810人の顧客から預かっていた株だ。買収して社長に就任しておいて、顧客から預かっていた証券をネコババする。実に28億円にのぼる巨額の詐欺、横領事件である。積水ハウス事件の隠れたキーパーソンであるエマイユの横澤弘人(仮名)と似たような手口といえる。
28億円は行方不明…内田マイクの処遇は?
これまで地面師事件などでもしばしば見られたように、犯行グループは地上げ資金と称して反社会勢力の怪しい金をタネ銭にして活動を始める。なりすまし詐欺で儲けた資金を組関係者に倍返しするのが、相場だとされている。
横領犯である南証券の元社長は事件後沖縄に逃げ、3年の逃亡生活を経て警視庁捜査二課に逮捕された。東京地検は2003年11月、元社長をはじめ、同社の重役と証券金融業のコンサルタント、3人を起訴する。
彼らが横領した資金の一部が暴力団筋に流れているのではないか。
捜査当局はそう睨んだ。先の不動産ブローカーが言葉を補う。
「このとき浪川会を元社長に紹介していたのが稲川会系二次団体の会長でした。それでいっときは、会長も警視庁のターゲットになっていました。あろうことか高橋マイクこと内田マイクはこの事件の渦中に組の金に手を付けたといわれています。赤坂プリンスホテルのクロークに預けておいたバッグを持ち出し、逃亡したといわれた。バッグの中身が証券だったのか、現金だったのかについてはわかりませんが」
もっとも事件は藪の中だ。暴力団関係者は起訴されず、横領した28億円の大半は行方が知れないまま、元社長ら3人に判決が下る。2004年9月28日付の新聞各紙が〈南証券元社長 懲役11年 巨額横領判決〉(読売新聞夕刊)と短いベタ記事を掲載している。
〈南証券(前橋市、破産)を巡る有価証券の巨額横領事件で、業務上横領、詐欺罪に問われた元社長平田浩一被告(38)の判決が28日、東京地裁であった。
松田俊哉裁判長は「業務上横領は、乱脈経営のあげく自己の利益を最優先しており、強い非難に値する。詐欺も常習性が顕著だ」と述べ、懲役11年(求刑・懲役13年)を言い渡した〉
共犯に問われた残る2人のうち、証券金融業の経営コンサルタントには懲役4年半の実刑判決が下っているが、同社の元役員は詐欺罪が適用されず懲役3年で済んでいる。
そして、反社会勢力および内田マイクには捜査がおよんでいない。むしろ内田はこの事件によって自信を深めたのかもしれない。
(森 功)
