オーストラリア・ビクトリア州にある石炭火力発電所(2022年撮影、写真:ゲッティ=共同通信社)


 今年(2026年)3月27日、高市早苗首相は自身のSNSで、「経済産業省の審議会での議論を踏まえて、効率の悪い石炭火力(発電)の稼働抑制措置を、2026年度は適用しないとし、年間50万トンのLNG(液化天然ガス)を節約します」と宣言した。

「ホルムズ危機」で、世界の原油・LNG市場が供給量逼迫と価格高騰でパニック状態に陥ったことへの対応策だ。経済・エネルギー安全保障の強化を訴える、高市氏の真骨頂でもある。

 2月28日にアメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始し、これに対抗してイランがホルムズ海峡を事実上の封鎖状態にした。その後、アメリカも4月に対イランの海上封鎖を強め、同海峡をめぐる緊張は一段と高まった。

 同海峡は全世界の原油・LNGの約2割が通る世界最大級のエネルギー・ルートであり、世界はたちまち大混乱に陥った。化石燃料の価格は軒並み急騰し、戦争直前と比べてスポット価格で2倍超を見せる局面も出ている。現状、アメリカ、イラン双方のにらみ合いは長期化する公算が大きく、世界は当分の間、エネルギーの調達難が続くとの見方が濃厚である。

 いわば「第3次石油危機」に近い今回の非常事態に、高市氏は「非効率石炭火力」という“隠し玉”で臨んでいる。

ホルムズ海峡で足止めされていたインド船籍の原油タンカー(ⒸAshish Vaishnav/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)


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「非効率石炭」をあえて温存、高市首相が打ち出したLNG節約の“隠し玉”

 高市氏は石炭火力の“制限解除”の理由として、「石油火力発電所がわが国の電力供給の約7%に過ぎない一方で、LNG火力は約3割を占めているため、LNG調達や価格の動向にも強い関心を持って対応する必要があります」とSNSで説明している。

 ただし、ホルムズ経由のLNGは日本の輸入量全体の6%程度(約400万トン)に過ぎない、と強調することも忘れない。

 JETROなどによれば、2025年の日本の原油における海外依存度は90%以上で、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)、クウェートなど原油輸入量に占める中東シェアは93.5%と高い依存度となっている。

 日本は2026年4月下旬現在で、約210日分の原油を備蓄し、5月に第2弾として20日分程度の放出が予定されている。輸入原油のほとんどがホルムズ経由のため、国内では原油を原料とする燃料や、化学製品の原料となるナフサの不足を心配する声が大きくなっている。

 一方、LNGは幸いにもホルムズ経由が全体の1割に満たない。万が一中東産が全く入ってこなくとも、LNG火力の不足分は短期的には他の発電方式や節約で一定程度補える可能性がありそうだ。

 だが、この高市氏の「非効率石炭火力の制限解除」発言を、「石炭の復権か」と捉える向きもある。これまでCO2を大量排出すると指弾される「黒いダイヤ」に、今回のホルムズ危機の救世主として白羽の矢が立った格好にも見える。

 資源エネルギー庁の「エネルギー需給実績」によれば、2024年度の日本の電力構成(発電方式)は、化石燃料(火力)67.5%(天然ガス32.2%、石炭28.1%、石油7.2%)、原子力9.4%、再生可能エネルギー23.1%(太陽光9.9%、風力1.2%、バイオマス4.2%、地熱0.4%、水力7.4%)で、化石燃料が過半を占める。

 高市氏が制限解除する非効率石炭火力とは、旧式の「亜臨界圧(Sub-C)」や「超臨界圧(SC)」の両方式で、発電効率が38〜40%程度と低くCO2排出量も多い。

 温室効果ガス(CO2など)削減目標の達成のため、政府は石炭火力の中でも特にCO2排出量が多い前出の非効率火力発電(石炭火力発電量の約2割を占める)の年間設備利用率を事実上50%以下に抑えていた。

 国内の電力会社(発電事業者)は、電力設備の維持管理費、設備投資費を「容量市場」制度で得た収入で捻出。ただし旧式の非効率石炭火力の維持管理費を賄うには、同設備の稼働率を50%に抑制する「たが」がはめられていた。

 これを破れば、容量市場からの収入を20%減額する仕組みだが、今回これを“限定解除”し、CO2の増大には多少目をつむった。経済・エネルギー安保を優先して、今後も燃料高騰が続きそうなLNG火力の設備利用率を下げ、コストの安い石炭で急場をしのごうという戦略らしい。

産地が偏在せず「同盟国」から買える石炭の強み

 高市氏が石炭に着目したのは、現在の日本の電力構成の中で即応可能で、バッファー(予備力)のある発電方式が他に見当たらないからだ。換言すれば、くしくも「石炭」というバックアップ余力が温存され、エネルギー安保上、極めて有効に働いたと言えるかもしれない。

 LNG・原油は、世界的な品不足・高騰で手が出ず、再エネの太陽光・風力はそもそも天候頼みで、こちらの都合に合わせて出力を増減させることは難しい。水力も月々の降水量が大事で、長期間のバックアップは厳しい。また、原子力は稼働中の原子炉自体が少なく、大半が再稼働のための審査中である。

 対する石炭は、LNGに比べてCO2排出量が1.5倍超と多いが、価格は熱量/カロリーベースで2分の1から3分の1といわれ、単純計算だと格安である。

 さらに重要なのが、「産地が偏在していない」点だ。限られた地域に偏る原油や天然ガスに比べ、石炭の産出国は世界各地に分散し、輸送ルートに関してはホルムズ危機とも無縁である。

 英国のエネルギー関連団体エナジー・インスティテュート(EI)によれば、2024年の石炭輸出国は、インドネシア(全体の29.8%)、豪州(25.2%)、ロシア(13.4%)、アメリカ(7.3%)で、モンゴル、カナダ、コロンビア、モザンビークなども存在感を増している。

 財務省貿易統計(2025年)などによれば、日本は石炭需要の99%以上を輸入に頼り、全体の65.8%は豪州、16.7%をインドネシア、6.3%をアメリカ、5.6%をカナダから調達する。顔ぶれからも分かるように、大洋を通じて調達でき、しかも日本にとって同盟国や準同盟国、友好国ばかりである。

 ただし現状は、原油に比べれば中東依存は小さいものの、日本の石炭輸入先も豪州・インドネシアに偏り過ぎるため、エネルギー安保を考えると、今後調達先の平準化・分散化も課題だろう。

太陽光・風力の出力変動をカバーするバックアップの正体

 資源エネルギー庁が2025年2月に発表した「第7次エネルギー基本計画」では、2040年の電源構成見通しとして、再生可能エネルギーを4〜5割程度、原子力を2割程度、火力を3〜4割程度とする方向が示された。再エネの内訳では、太陽光が23〜29%程度、風力が4〜8%程度と見込まれている。

 これに対し、欧米に比べて太陽光・風力の比率が低過ぎるのでは、との声もある。だが、太陽光・風力の普及が進み、全電力の中で徐々に存在感を増した場合、電力供給が不安定になるリスクを十分考慮しなければならない。

 既存の系統(発電〜送電〜変電所〜使用先という一連の電力網)の強化や、調整力・バックアップへの投資を軽視したまま、太陽光・風力の導入を進めると、系統全体の電気のバランスが崩れ、ブラックアウト(大規模停電)になりかねない。

 前述したように太陽光・風力はあくまでも天候次第で、出力が大きく変動し、低出力が続く局面がある。太陽光は夜間の発電量がゼロなのは言うまでもない。

 電力は需要と供給が一致していることが絶対条件だ。仮にズレが生じても、火力であればボイラーの調整でズレを補正できる。だが太陽光・風力の出力、特に低発電時の出力アップは意のままに制御することはできず、どれだけ予測しても需要と供給との間のズレが大きくなりがちだ。こうして電力の周波数の低下が起こり、最悪の場合ブラックアウトとなる。

 このため、太陽光や風力を系統に組み込む場合、火力発電や揚水発電、蓄電池、需要側の調整などを組み合わせ、出力変動を吸収するための“調整力”を確保する必要がある。火力発電は、燃料投入量や蒸気量などを調整することで一定の範囲で出力を増減でき、電力需要と供給のズレを補う役割を担う。この機械的な慣性は、周波数の急激な変動を和らげる効果があり、系統の安定性を支える要素の一つとされる。

 調整力として最適なのがLNGで、家庭のガスコンロでも分かるように、瞬時に火加減を変化できる。

「もはや電力の大半を太陽光と風力で賄い、万が一のバックアップとして火力を予備として控えに置けばいいのでは。通常は調整力として低稼働状態とし、いざという時に活躍させればいい」

 との考えもあるが、この場合、火力設備の大半が通常は発電に貢献しない死蔵資産となり、建設費やランニングコストがそのまま電気料金に跳ね返る可能性が高く、現実的ではない。

 大規模な定置型蓄電池をバッファーとして使用する案も考えられるが、本格的にバックアップができる規模の整備となれば、数兆円単位の投資が必要で、しかもカバーできる時間は長くても数日が限界だという。特に系統に組み込むとなれば、もうしばらく先の話で、現状はあまりに高コストで現実的ではなさそうだ。

 これらを考慮すると、政府が掲げる、2040年度の電力構成の目標「太陽光+風力で27〜37%」が、ある意味“限界値”を示唆するのかもしれない。

 仮に再エネの出力が大幅低下したとしても、全体の4割以下なら火力で何とかカバーできると考えているのではないかとも推察できる。

 欧州では太陽光・風力の割合が高い国が多いため、日本もできるはずとの指摘もあるが、欧州の場合、隣国と送電線を接続する系統連系が発達しており、仮に自国が出力不足になっても、他国から電力を融通してもらうことができる。

 だが日本の場合、隣国との系統連系を一切行っていない。「電力の孤島」のため、バックアップは全て自前で備えなければならないのだ。

世界最高水準の技術「IGCC」、高効率と低排出を両立する日本の切り札

 政府は今後も、LNGに比べてCO2排出量は多いものの、低コストで産地が偏在せず、経済・エネルギー安保上極めて有利な石炭を、ベースロード電源(相当量の電力を24時間一定して発電し、しかも低コストで基礎となる電源)として位置付ける方針のようだ。「非効率」は順次「高効率」に更新し、このベースの上に原子力や調整力に優れるLNGを配置して、出力が不安定な太陽光・風力をサポートする──という電力構成を描いている様子である。

 だが、残念ながら「第7次エネルギー基本計画」の1年後にホルムズ危機が発生したため、大幅な変更を余儀なくされる可能性が高い。期待のLNGは今や各国による争奪戦の状況だ。価格も高騰し、今後の安定確保に黄信号がともりつつある。

 万が一、LNGの調達量が減少すれば、太陽光や風力の出力変動を補う調整力が不足し、電力需給の安定性が損なわれるリスクもある。そうした事態を避けるため、LNG火力に過度に依存しない供給体制をどう築くかが、今後の重要な論点となる。石炭火力についても、脱炭素との整合性を慎重に見極めつつ、非常時の供給力やバックアップ電源としての役割を改めて検討する余地があるだろう。

 中でも高効率石炭火力の1つ、IGCC(石炭ガス化複合発電)は優良株で、日本はこの技術で世界トップを走る。

 IGCCは、条件にもよるが、既存の石炭火力と異なり熱効率が48〜50%と高く、従来型石炭火力に比べてCO2排出量を約15%削減できるとされる。IGCCは福島県内の勿来、広野などで商用運転の実績があるが、欠点は機構が複雑で高コストである点だ。

 だが、経済・エネルギー安保の観点から、政府が全面支援で普及を進めればいいだろう。ホルムズ危機で調達が困難になったLNGの代替として、すでに石炭にシフトする事例が、インドやバングラデシュ、ベトナム、フィリピンなどアジア地域で起き始めている。

 こうした国には確実に需要があるはずで、もちろん、国際的な脱石炭方針との整合性は論点となるが、IGCCを日本のODA(政府開発援助)として、世界で普及させることを考えるのはどうだろうか。

 LNG市場の先行きが不透明となる中、今後世界的に石炭使用量が急増することを前提に、むしろ高効率火力発電の普及を日本は試みてもいいかもしれない。

 アメリカのトランプ大統領は、同盟国に対して防衛予算のさらなるアップを執拗に求めているが、IGCCなど高効率石炭火力の導入に伴うコストを、エネルギー安保を強化するための「防衛インフラ」としてアピールしてもいいだろう。

 ホルムズ危機を機に、エネルギー政策の潮目は大きく変わりつつある。脱炭素を進めるうえでも、再エネの拡大だけでなく、それを支える調整力や非常時のバックアップをどう確保するかが、これまで以上に問われることになるだろう。

 CO2など温室効果ガス削減のために、太陽光や風力、さらには国内の森林資源を有効活用した木質バイオマス、世界屈指のポテンシャルを誇る地熱など、再エネ発電は今後も強化すべきだろう。

「非効率石炭火力」の稼働抑制措置をめぐる今回の対応が、2027年度以降も何らかの形で続く可能性は否定できない。石炭火力はもはや単純に「減らすべき電源」としてだけではなく、安定供給と脱炭素のはざまで、どう位置づけ直すのかが問われる局面に入っていると言える。

筆者:深川 孝行