不安や「考えすぎ」は脳の力を弱めてしまう!…脳科学者が提唱する「直観力」を高める方法
「もう少し考えさせてください」
大事な場面で出てきがちな言葉。ただ、「考えすぎ」は脳本来の力を妨げているかもしれません。脳科学者のリチャード・レスタック氏は、脳を自由に働かせることが、いくつになっても直感力を高める鍵だと説きます。
レスタック氏の著書『いくつになっても頭はよくなる』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。
不安が脳の力を弱める
まず、脳がもっともよく働くのは、あまり細かく管理しようとしないときです。さらに、不安定な感情やストレスによる悪影響から脳を解放しなければなりません。
一般的なイメージとは違って、脳はコンピューターなどの機械のように動いているわけではありません。ですから、脳が不自然で無駄な動きをしていたら、止める必要があります。
たとえば、学校の生徒の中には、とても頭がいいのに標準テストの成績が悪い子たちがいます。それはテストのときに、質問を読んですぐに正しそうな答えを選ぶのではなく、正解について「ひとり言」をつぶやきながら考える癖があるからです。
賢明な教師ならその生徒に、「あまり考えすぎないようにしなさい」とか、「正しいと思う答えを選んで、次の質問に進みなさい」というアドバイスをするはずです。ちなみに、これは当て推量をすすめているわけではありません。その生徒がテスト勉強をしてよく理解していれば、自分との対話に頼らなくても脳が正解をすぐに選んでくれるのです。
直感が働くというのはたいてい、正しい答えをただちに見つける脳本来の能力のおかげです。脳はちゃんと知っていて、正解を選択するのです。
「正しく」やらなくてはという不安が脳本来の力をゆがめてしまうのは、教室の中だけではありません。わたしが初めてそれに気づいたのは、数年前に12歳だった娘のアンを視力検査に連れていったときです。検査が終わりに近づいた頃、眼科医はアンに、いくつかのレンズを1つずつ試してみて、スクリーンに現れる文字がいちばんはっきり見えるものを選ぶように言いました。
これは検査の最終段階で、娘の眼鏡に最適なレンズを決めるための微調整です。レンズの違いはわずかなので、「パッと見て、どのレンズならはっきり見えるか教えてください」とアンは言われました。ところがアンにはそれができず、ためらいながら「少し考えさせてください」と医師に伝えました。
「考えないで。ただパッと見て、どう見えるかすぐに教えてください。この検査では、最初に思いついた答えがいちばんいいんですよ」と眼科医はアンに言いました。そして、こういう場合、「考えること」は役に立たないのだと説明してくれました。ただ「見て選ぶ、見て選ぶ」を繰り返すのがいちばんなのです。
間違えて「合わない」眼鏡になるというアンの不安が、目と脳の自然な連携を一時的に邪魔していたのです。少し「考えたい」と思ったのは、すべてを言葉にして理屈で考えることに頼りすぎた結果です。本当は、ただ感じたことを伝えるだけでよかったのです。
美術評論家のマックス・フリートレンダーは、専門家が特定の芸術家の作品を鑑定する方法について語ったときに、同様の指摘をしています。「たいていは、〈一目で〉正しい鑑定が自然に湧いてくるのです。誰でも友人に会えば、すぐに友人だとわかるでしょう。どこに特徴があるか探さなくても、どんな詳しい説明も及ばないほどはっきりとわかるものです」
精神的忍耐力を高めるエクササイズ
身体の運動によっても、左右の大脳半球のバランスを取り、精神的忍耐力を高めることができます。ただし、身体のバランスと協調が必要な、小脳を使う運動でなければいけません。一例として、次の運動をしてみましょう。とくに頭を酷使する作業が終わったときや、仕事が大変だった日の終わりに試してください。
利き手ではないほうの手(右利きの人は左手)でテニスボールをもちます。それから、まっすぐ前を見たまま手をさっと上げ、ボールを利き手のほうに弧を描くように投げましょう。ボールの行方が見えないほど高く上げてください。ボールをつかめましたか?
ダンサーや運動選手のように、空間での自分の位置を把握する必要のあるスポーツをしていなければ、ほとんどの人が失敗するでしょう。1回目で失敗したなら、それは職場で一日中考えたり、書いたり、話したりしていた当然の結果だと思ってください。
こうした行動の偏りは大きな損失をもたらします。その一つは、脳が内省や自分との対話(たとえば、「ええと、このボールをうまくキャッチするには……」など)をしすぎるようになることです。誰もが心の中で自分と対話しています。認知心理学者はこれを「セルフトーク(ひとり言)」と呼んでいます。ですが、すべての行動がセルフトークから恩恵を受けるとはかぎりません。
このボールの練習は、心の中で自分と対話するとうまくいかないのです。考えてはいけません。ナイキの広告スローガンのように、「Just do it.(とにかくやってみましょう)」。実際、ほとんどの運動は自分との対話に頼らないほうがうまくできます。自分と対話することで、言語を司つかさどる左半球のほうにバランスが傾くため、姿勢・ペース・運動感覚が必要な場合には不利になるのです。
考えたり、セルフトークしたりせずにやってみよう
ボールをつかめなかった人は、もっと簡単な運動をしてみましょう。鏡の前に立ち、手を前に出して手のひらを上に向け、片手にテニスボールをもちます。鏡を見て、一方の手にボールをもち、他方の手を60センチメートルほど離して立っている自分の姿をよく見てください。ボールを一方から他方へ移すぐらい簡単だと自分に言い聞かせます。
それから目を閉じて、考えたり、セルフトークをしたりせずに、とにかくやってみましょう。反対の手でボールがつかめるまで、やりつづけてください。
何度か練習すれば、ほとんどの人がボールをつかめるようになるでしょう。初めて成功したときは、喜びと驚きが入り混じった感覚を一瞬味わえるので、注目してください。この感覚は、思考や言語に集中する習慣のために生じた左右半球のアンバランスが補正されたことを示しています。この簡単な運動では、言葉や概念ではなく、自分の身体を新鮮なリラックスした気持ちで捉えて動いているのです。
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