抑えていた男が殴った――津田健次郎の芝居が生んだ衝撃 『ラムネモンキー』で見せる新たな魅力
●「過去」の方が「未来」を夢見られた
反町隆史、大森南朋、津田健次郎のトリプル主演で、“こんなはずじゃなかった”大人たちの再会と再生を描いた「1988青春回収ヒューマンコメディ」のフジテレビ系ドラマ『ラムネモンキー』(毎週水曜22:00〜 ※TVer、FODで配信/FODで次話先行配信)の第9話が、11日に放送された。
今回は冒頭の妄想にあった「夢」のある「未来」と、津田健次郎という人物について深堀りしていきたいと思う。

津田健次郎
○【第9話あらすじ】ついにマチルダ殺害犯人が判明!?
かつて映画研究部の部室に使われていた部屋の屋根裏から、No.12のビデオテープが見つかった。しかしテープはカビだらけ。カビの除去を専門の業者に依頼しても、見られるようになるかどうかは分からない。
同じ袋には、マチルダこと宮下未散(木竜麻生)が書いた「Don’t trust Clark(クラークを信じるな)」というメモが。吉井雄太(反町)、藤巻肇(大森)、菊原紀介(津田)はその意味を考えるが何も思い当たらない。
妻の絵美(野波麻帆)から連絡を受けた雄太が急いで帰宅すると、娘の綾(三浦舞華)を盗撮した写真が送りつけられ、絵美のコートは背中を刃物で切り裂かれていた。雄太はかつてマチルダも衣服を切り裂かれていたことを思い出し、兄の健人(松村雄基)に警備をつけてもらうよう願い出る。
西野白馬(福本莉子)が働くカフェで、肇と紀介は鶴見巡査(濱尾ノリタカ)に雄太の家族の状況を伝えて37年前の事件との関連を訴えるが、鶴見は「根も葉もないこと」と取り合わない。店からの帰り道、2人は丹辺再開発に向けた住民説明会のことを思い出す。「30年後を見据えた街づくり」と聞き、未来都市を想像してワクワクしていたが、実際に完成したのはありふれた街だった。
3人それぞれ家族や仕事と向き合い生活していたある日、修復されたNo.12のテープの映像が業者から届く。食い入るように見る一同。そこには、大地主の黒江の婆さん(前田美波里)に都市開発のためお願いにきた、現・大物代議士の加賀美六郎(高田純次)が映っていた。殺されるかもしれないと予感していた黒江の婆さんが証拠映像として撮影させていたものだ。
都市開発と反社が絡んだマチルダ失踪事件。その全貌が見え始めた。だがマチルダを殺害したと思われていた竿竹売りの鳥飼久雄(村上航)は、ランボー(野仲イサオ)の手によって、足を悪くしていた。実行犯は鳥飼じゃない…? そこへ鶴見巡査がメモを渡してくれる。そこには「多胡秀明」の名が。多胡に連絡を取る3人。多胡の正体は、元チンピラのアホの八郎と呼ばれていた男(佐久本宝)だった。その今の多胡に金を渡したところ、自分がマチルダ殺害の犯人だと自白する。

(C)フジテレビ
○誰もが明るい未来を抱いていた時代
いよいよ真犯人発覚…!? かのように見られた第9話だが、まだまだ分からない。なにせ自白したのはチンピラで反社に入りたがっていた、お調子者のアホの八郎であり、その言葉にどこまで信ぴょう性があるかは不明だ。
それにしても事件はどんどんきな臭くなってきた。マチルダ失踪の背後には都市開発の利権や政治が絡んでいる様子。だがどうしてそれとマチルダに関連が? いずれにせよ、これ以上の深入りは危険なのではないかと、ヒヤヒヤもした。
その背景の不穏さと裏表に、この時代は、誰もが明るい未来を抱いていた時代でもあった。今回の冒頭の妄想シーンは、あの時代によく描かれていた「未来予想図」の絵柄のパロディ。一様に同じタッチであり、車が空を飛び、天候は人工的に操作が可能で、ファッションはなぜか、てらてらのタイツ姿。その背景に広がる景色は、夢のある未来都市そのものだった。
だが劇中でも言われていたように、多くの人が欲にまみれていた時代でもあり、公害なども問題に。それゆえか、「近未来」としては、『ブレードランナー』や『AKIRA』など、退廃した未来も多く描かれている。
これは、いわゆる20世紀の世紀末が近づいていた時代だったということや、ノストラダムスの予言などの影響もある。『マッドマックス』『北斗の拳』をはじめ、終末論やポスト・アポカリプス的な作風の作品も多く、「明るい21世紀」と、未来は二分されていた。一方で『機動警察パトレイバー』のような、人間の営みそのものは変わらないという変わり種もあり、そちらの方の未来の方が当たっていたという皮肉もある。
予想はやはり予想。我々は『2001年宇宙の旅』を超え、『バック・トゥー・ザ・フューチャー2』が描いた未来も過ぎ去り、『ブレードランナー』の2019年もいつも通り過ごし、『AKIRA』の舞台年も超え、2026年にいる。スマートフォンが当たり前になり、ドローンやAI時代に突入した以外は、「そうそう人間は変わらない」といった現実を突きつけられた。
そしてこの物語の主人公たちも、“こんなはずではなかった”21世紀と、現状を突きつけられ、くたびれ果てている。そんな彼らが、1988年に起こった事件について右往左往しているのは、過去に何かの「未来」を感じているからかもしれない。
実際、60年代から70年代のアポロ計画や、人類月面到着していた時代の方がなにやら「未来」を思わせはしないだろうか。仮説だが、憧れていた「未来」は実は「過去」にあるのかもしれない。それほど60年代からバブル崩壊までは、未来に対して多くの人が楽観的で夢があった。『ラムネモンキー』の主人公たちも、過去に真剣に向き合うことで、くたびれた現実だけじゃない「未来」を取り戻せるのかもしれない。
●今後も魅力が引き出されていく可能性
さて。今回のラストは、あの大人しかった紀介がアホの八郎を殴るという、衝撃(?)のシーンで終わったが、これを演じる津田健次郎という俳優とは何者なのか。論じていきたいと思う。
津田はもともと舞台役者だったが、2000年頃に声優として成功を収め、それ以降、「俳優<声優」という印象が大きくなった。その唯一無二の低く渋い声は多くのファンの心をつかみ、『テニスの王子様』の乾貞治をはじめ、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』の海馬瀬人、最近では『呪術廻戦』の七海建人など、代表キャラを挙げていけばキリがない。
映画吹き替えでも『ジョーカー』のジョーカー役のほか、ナレーターなどでも頭角を現した。ただ、俳優として注目されたのは40代からで、今でこそ声優人気と言われてはいるものの、どうしてもメインではなくサブの存在として見られてしまうわけで、そういった意味では苦労人とも言える。
そんな彼が、俳優として再び注目を集めたのが、2021年の『最愛』(TBS)。警察官・山尾敦を演じ、「渋い」「不気味」「静かな威圧感」があるなど話題にになり、俳優としての活動が拡大していった。声の低さや、息の混ざる発声、セリフの独特の“間”があることから、(吹き替えも含め)特に刑事や権力者、裏社会の人物、知的な悪役などはハマりやすい。
その津田が『ラムネモンキー』で演じるのは、「イケボのカリスマ」ではなく、冴えない普通のおじさん。知的でユーモアのある性格や声優としての実力を封印し、長かった下積み経験(※サブカルチャー界隈や、声優界では人気はあった)の空気を役柄に滲ませているように見える。
そんな彼だが、実は第4話では、漫画を描いているシーンがあり、そこで書いたセリフを「CV.津田健次郎」のごとく「良い声」で読み上げるなどのサービスがあった。これに、津田ファンは大歓喜。こうした遊び心こそが『ラムネモンキー』の隠された魅力だ。
その津田が、役柄としてアホの八郎を殴った。これまで抑えめで控えめな芝居をしていた分、あの何を考えているか分からない目のまま、暴力に訴えかけた芝居と、そのギャップに驚嘆した。どうも『ラムネモンキー』は、声優・俳優双方の津田の魅力を、大きく引き出そうとしているようだ。マチルダ事件の真相とともに、新たな津田が見られる楽しみが増えたと感じられた回であった。




(C)フジテレビ
衣輪晋一 きぬわ しんいち メディア研究家。インドネシアでボランティア後に帰国。雑誌「TVガイド」「メンズナックル」など、「マイナビニュース」「ORICON NEWS」「週刊女性PRIME」など、カンテレ公式HP、メルマガ「JEN」、書籍「見てしまった人の怖い話」「さすがといわせる東京選抜グルメ2014」「アジアのいかしたTシャツ」(ネタ提供)、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中。 この著者の記事一覧はこちら
反町隆史、大森南朋、津田健次郎のトリプル主演で、“こんなはずじゃなかった”大人たちの再会と再生を描いた「1988青春回収ヒューマンコメディ」のフジテレビ系ドラマ『ラムネモンキー』(毎週水曜22:00〜 ※TVer、FODで配信/FODで次話先行配信)の第9話が、11日に放送された。
今回は冒頭の妄想にあった「夢」のある「未来」と、津田健次郎という人物について深堀りしていきたいと思う。

○【第9話あらすじ】ついにマチルダ殺害犯人が判明!?
かつて映画研究部の部室に使われていた部屋の屋根裏から、No.12のビデオテープが見つかった。しかしテープはカビだらけ。カビの除去を専門の業者に依頼しても、見られるようになるかどうかは分からない。
同じ袋には、マチルダこと宮下未散(木竜麻生)が書いた「Don’t trust Clark(クラークを信じるな)」というメモが。吉井雄太(反町)、藤巻肇(大森)、菊原紀介(津田)はその意味を考えるが何も思い当たらない。
妻の絵美(野波麻帆)から連絡を受けた雄太が急いで帰宅すると、娘の綾(三浦舞華)を盗撮した写真が送りつけられ、絵美のコートは背中を刃物で切り裂かれていた。雄太はかつてマチルダも衣服を切り裂かれていたことを思い出し、兄の健人(松村雄基)に警備をつけてもらうよう願い出る。
西野白馬(福本莉子)が働くカフェで、肇と紀介は鶴見巡査(濱尾ノリタカ)に雄太の家族の状況を伝えて37年前の事件との関連を訴えるが、鶴見は「根も葉もないこと」と取り合わない。店からの帰り道、2人は丹辺再開発に向けた住民説明会のことを思い出す。「30年後を見据えた街づくり」と聞き、未来都市を想像してワクワクしていたが、実際に完成したのはありふれた街だった。
3人それぞれ家族や仕事と向き合い生活していたある日、修復されたNo.12のテープの映像が業者から届く。食い入るように見る一同。そこには、大地主の黒江の婆さん(前田美波里)に都市開発のためお願いにきた、現・大物代議士の加賀美六郎(高田純次)が映っていた。殺されるかもしれないと予感していた黒江の婆さんが証拠映像として撮影させていたものだ。
都市開発と反社が絡んだマチルダ失踪事件。その全貌が見え始めた。だがマチルダを殺害したと思われていた竿竹売りの鳥飼久雄(村上航)は、ランボー(野仲イサオ)の手によって、足を悪くしていた。実行犯は鳥飼じゃない…? そこへ鶴見巡査がメモを渡してくれる。そこには「多胡秀明」の名が。多胡に連絡を取る3人。多胡の正体は、元チンピラのアホの八郎と呼ばれていた男(佐久本宝)だった。その今の多胡に金を渡したところ、自分がマチルダ殺害の犯人だと自白する。

○誰もが明るい未来を抱いていた時代
いよいよ真犯人発覚…!? かのように見られた第9話だが、まだまだ分からない。なにせ自白したのはチンピラで反社に入りたがっていた、お調子者のアホの八郎であり、その言葉にどこまで信ぴょう性があるかは不明だ。
それにしても事件はどんどんきな臭くなってきた。マチルダ失踪の背後には都市開発の利権や政治が絡んでいる様子。だがどうしてそれとマチルダに関連が? いずれにせよ、これ以上の深入りは危険なのではないかと、ヒヤヒヤもした。
その背景の不穏さと裏表に、この時代は、誰もが明るい未来を抱いていた時代でもあった。今回の冒頭の妄想シーンは、あの時代によく描かれていた「未来予想図」の絵柄のパロディ。一様に同じタッチであり、車が空を飛び、天候は人工的に操作が可能で、ファッションはなぜか、てらてらのタイツ姿。その背景に広がる景色は、夢のある未来都市そのものだった。
だが劇中でも言われていたように、多くの人が欲にまみれていた時代でもあり、公害なども問題に。それゆえか、「近未来」としては、『ブレードランナー』や『AKIRA』など、退廃した未来も多く描かれている。
これは、いわゆる20世紀の世紀末が近づいていた時代だったということや、ノストラダムスの予言などの影響もある。『マッドマックス』『北斗の拳』をはじめ、終末論やポスト・アポカリプス的な作風の作品も多く、「明るい21世紀」と、未来は二分されていた。一方で『機動警察パトレイバー』のような、人間の営みそのものは変わらないという変わり種もあり、そちらの方の未来の方が当たっていたという皮肉もある。
予想はやはり予想。我々は『2001年宇宙の旅』を超え、『バック・トゥー・ザ・フューチャー2』が描いた未来も過ぎ去り、『ブレードランナー』の2019年もいつも通り過ごし、『AKIRA』の舞台年も超え、2026年にいる。スマートフォンが当たり前になり、ドローンやAI時代に突入した以外は、「そうそう人間は変わらない」といった現実を突きつけられた。
そしてこの物語の主人公たちも、“こんなはずではなかった”21世紀と、現状を突きつけられ、くたびれ果てている。そんな彼らが、1988年に起こった事件について右往左往しているのは、過去に何かの「未来」を感じているからかもしれない。
実際、60年代から70年代のアポロ計画や、人類月面到着していた時代の方がなにやら「未来」を思わせはしないだろうか。仮説だが、憧れていた「未来」は実は「過去」にあるのかもしれない。それほど60年代からバブル崩壊までは、未来に対して多くの人が楽観的で夢があった。『ラムネモンキー』の主人公たちも、過去に真剣に向き合うことで、くたびれた現実だけじゃない「未来」を取り戻せるのかもしれない。
●今後も魅力が引き出されていく可能性
さて。今回のラストは、あの大人しかった紀介がアホの八郎を殴るという、衝撃(?)のシーンで終わったが、これを演じる津田健次郎という俳優とは何者なのか。論じていきたいと思う。
津田はもともと舞台役者だったが、2000年頃に声優として成功を収め、それ以降、「俳優<声優」という印象が大きくなった。その唯一無二の低く渋い声は多くのファンの心をつかみ、『テニスの王子様』の乾貞治をはじめ、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』の海馬瀬人、最近では『呪術廻戦』の七海建人など、代表キャラを挙げていけばキリがない。
映画吹き替えでも『ジョーカー』のジョーカー役のほか、ナレーターなどでも頭角を現した。ただ、俳優として注目されたのは40代からで、今でこそ声優人気と言われてはいるものの、どうしてもメインではなくサブの存在として見られてしまうわけで、そういった意味では苦労人とも言える。
そんな彼が、俳優として再び注目を集めたのが、2021年の『最愛』(TBS)。警察官・山尾敦を演じ、「渋い」「不気味」「静かな威圧感」があるなど話題にになり、俳優としての活動が拡大していった。声の低さや、息の混ざる発声、セリフの独特の“間”があることから、(吹き替えも含め)特に刑事や権力者、裏社会の人物、知的な悪役などはハマりやすい。
その津田が『ラムネモンキー』で演じるのは、「イケボのカリスマ」ではなく、冴えない普通のおじさん。知的でユーモアのある性格や声優としての実力を封印し、長かった下積み経験(※サブカルチャー界隈や、声優界では人気はあった)の空気を役柄に滲ませているように見える。
そんな彼だが、実は第4話では、漫画を描いているシーンがあり、そこで書いたセリフを「CV.津田健次郎」のごとく「良い声」で読み上げるなどのサービスがあった。これに、津田ファンは大歓喜。こうした遊び心こそが『ラムネモンキー』の隠された魅力だ。
その津田が、役柄としてアホの八郎を殴った。これまで抑えめで控えめな芝居をしていた分、あの何を考えているか分からない目のまま、暴力に訴えかけた芝居と、そのギャップに驚嘆した。どうも『ラムネモンキー』は、声優・俳優双方の津田の魅力を、大きく引き出そうとしているようだ。マチルダ事件の真相とともに、新たな津田が見られる楽しみが増えたと感じられた回であった。




(C)フジテレビ
衣輪晋一 きぬわ しんいち メディア研究家。インドネシアでボランティア後に帰国。雑誌「TVガイド」「メンズナックル」など、「マイナビニュース」「ORICON NEWS」「週刊女性PRIME」など、カンテレ公式HP、メルマガ「JEN」、書籍「見てしまった人の怖い話」「さすがといわせる東京選抜グルメ2014」「アジアのいかしたTシャツ」(ネタ提供)、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中。 この著者の記事一覧はこちら
