ボンドガール好演で脚光 マーキュリー・クーガー XR-7(1) V8は最強仕様の428コブラジェット
ボンドガールが飛ばしたクーガー XR-7
映画「007」シリーズに登場したアストン マーティンDB5は、自動車業界と映画業界を結ぶ新ビジネスを開拓した。共同プロデューサーだったハリー・サルツマン氏はフォードとも契約し、「007 ゴールドフィンガー」では初代マスタングを活躍させている。
【画像】最強仕様の428コブラジェット マーキュリー・クーガー XR-7 007へ登場するクルマたち 全103枚
マスタングは、1964年4月に発表されたばかり。銀幕に登場するホワイトのコンバーチブルは、欧州へ上陸した最初の1台だった。

マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969〜1970年/欧州仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
1964年の「女王陛下の007」にも、当然のようにアストン マーティンは登場するが、対峙するクルマをサルツマンは探していた。そこで白羽の矢が立ったのが、フォード・ブランドの1つ、マーキュリー。1969年式のクーガー XR-7 コンバーチブルだ。
劇中では、ポルトガル西部の海岸でジェームズ・ボンドがクーガーを追跡。それを運転していたトレイシー夫人を救い出す。その後、メルセデス・ベンツ220Sとのカーチェイスでクーガーは大暴れ。ボンドは夫人へプロポーズする、という展開が待っている。
最強仕様の428コブラジェットV8
マーキュリー・クーガーは、小柄なマスタングと大柄なサンダーバードの間を埋めるクーペ。「女王陛下の007」では、キャンディアップル・レッドに塗装されたXR-7 コンバーチブルが、3台用意された。
エンジンは、7014cc V型8気筒の最強仕様、428コブラジェット。この組み合わせは、合計127台しか提供されていない。美術部門の手でフランスの仮ナンバーが与えられ、トランクリッドにはスキーラックが取り付けられた。

マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969〜1970年/欧州仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
トレイシー夫人を演じた女優、ダイアナ・リグ氏は、ラリードライバーのエリック・グラヴィッツァ氏から運転スキルを習得。練習ではスピンを繰り返したものの、本番では見事に走りきったという。氷上ストックカーレースの場面も。
「クローズアップの運転シーンは、ほぼ実写です。氷上で80km/hで運転しつつ、素晴らしい演技を披露する彼女の精神力に、強い感銘を受けました」。撮影監督のマイケル・リード氏は、後に語っている。
当時は改造するのが当たり前
氷上ストックカーレースに登場した車両を含めて、「女王陛下の007」のクーガー3台が、すべて現存することに驚く。筆者が特に関心を抱くのは、英国のパインウッド・スタジオやポルトガルのシーンで用いられた、シャシー番号549292の1台だ。
撮影後、そのクーガーは売却。それから10年間の消息は不明だが、1980年代に入ると当時20歳だった投資家、ルー・バリッジ氏が購入している。「クーガーは、中古車店で買ったんです」。と彼は説明する。1000ポンドで。

マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969〜1970年/欧州仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
「珍しい、428コブラジェット・エンジンへ惹かれました。書類にパインウッド・スタジオの記載があり、007に使われたことは明らかでした。アベンジャーズにも出ていた、ダイアナさんが運転していた過去を知って、うれしかったですよ」
バリッジは、普段の移動手段としてクーガーに乗った。「リアにウルフレーシングのホイールを付けて、車高を上げました。当時は、改造するのが当たり前でしたよね。夜には、ストリートでドラッグレースにも熱中しました」
エンジン故障で390ユニットへ換装
思い切り楽しんでいたある日、エンジンが故障する。「当時は経験が足りなかった。預けたメカニックは、エンジンブロックへヒビが入っていると説明したんです。390ユニットへ換装されたんですが、恐らく、428コブラジェットが欲しかったんでしょう」
再びエンジントラブル。バリッジはクーガーを手放す。「クルマへ大金をつぎ込んでいたので、少し損した気分でした。正直なところ、余り良い思い出はないんです」

マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969〜1970年/欧州仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
同時期に21歳だったサラ・ハード氏は、そのクーガーの存在を知っていた。ロンドンの北東、イルフォードの駐車場で、頻繁に目撃していたという。「007に登場したクルマとして、注目を集めていました。彼は、売りたいとも話していました」
これへ先に目をつけたのが、サラの彼氏になる、スティーブ・グリーンヒル氏。V8エンジンを修理し、ボディを再塗装したものの、ちゃんと走るようにはならなかったとか。後に2人は結婚し、クーガーはサラのものになった。
007への登場とは関係なく最高のクルマ
彼女が振り返る。「女の子がこんなクルマを運転しているの? って驚かれたことは何度も。土曜日の午後になると、キングスロードで開かれるカーミーティングへクーガーで加わりました。思い切り飛ばして、最高だったわ」
「スティーブが運転していた時、ボンネットから大きな音がして、炎が立ち上がったこともあります。4バレルのツインキャブレターから。典型的なトラブルでした」。サラが妊娠すると、生活を整えるためクーガーは売りに出された。

マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969〜1970年/欧州仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
次のオーナーになったのは、アメ車仲間だったポール・マカリー氏。「修理が必要だと知っていたので、1500ポンドに値切りました。走りは完璧で、本当に面白かった。007へ登場したこととは関係なく、最高のクルマでした」
そう振り返る彼は、グレートブリテン島中部、ベッドフォードシャー州の専用コースでドラッグレースに興じた。「スタートラインで、ブレーキとアクセルのペダルを同時に踏み込んでいる瞬間は、凄い興奮でしたよ。爆音も強烈でしたし」
執筆:マシュー・フィールド(Matthew Field)
この続きは、マーキュリー・クーガー XR-7(2)にて。
