「お母さん、大変だよ!」――拡散された動画は、4歳の妹を“万引き犯”に仕立てたフェイクだった。SNSが生む憎悪は、なぜ子どもまでも標的にするのか? 難民家族を追い詰めるフェイク投稿の実態に迫る。

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 ジャーナリスト・池尾伸一の新刊『仮放免の子どもたち 「日本人ファースト」の標的』(講談社)より一部を抜粋・編集してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)


写真はイメージ ©getty

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クルド人を追い詰める「フェイク投稿」

 差別問題の専門家の間ではヘイトスピーチを放置すると、それに共感する人の裾野が広がり、さらにヘイトが過激化する「憎悪のピラミッド理論」が知られている。社会の中で、少数派の特定のグループへの誹謗中傷が放置されたままだと、同じように誹謗中傷する人たちが増え、やがてそのグループに対しては「自分たちと同じ人間ではないので何をしてもいい」という差別感情がエスカレートし、そのグループに属する人に、暴力を振るう人が出てくる。

 さらに暴力も放置されると、やがて大量虐殺に事態はエスカレートするというものだ。関東大震災後に起きた朝鮮の人々の虐殺も、植民地となった朝鮮の人々への差別と、それを放置し、助長した政府の責任が指摘される。

 クルド人へのヘイトも、クルド人を誹謗中傷するSNSの投稿や路上デモが放置されたことから歯止めなく拡大、子どもに暴力を振るう人間が出てくるまでの事態になっている。

 政府は路上デモやSNS投稿で増幅された人々の不安を背景に「国民に不安が広がっている」として「不法滞在者ゼロプラン」を策定、クルド人を標的に強力に強制送還を推し進め、それがさらにクルド人への誹謗にお墨付きを与える差別の悪循環の加速につながっている。

 しかし、クルド人へのヘイトが燃え上がるための「燃料」となったSNSの投稿の大半は、クルド人を誹謗するために作られた「フェイク(虚偽)」投稿だった――。

「万引き常習犯」フェイク投稿―隠し撮りされた4歳の妹

 その日、埼玉県川口市に住む中学校3年生のセレン(15)は学校から帰り、自宅のアパートで、スマートフォンを開きX(旧ツイッター)をみていた。

 2024年9月24日のことだ。小さな女の子が100円ショップのような場所を行き来している短い動画の画像が目に入った。あれ? 何となく4歳になる自分の妹、アスミンちゃんに似ているなあ、そう思って、画像をタップし、動画を注意して見てみた。間違いなく自分の妹だ、と確信した。

 後ろ姿で顔は映っていないものの、髪形は妹と同じ。ピンクのTシャツに、模様入りのスパッツ。いつも妹が着ている服だ。

 そして動画にはこんな説明がついていた。

〈○○のダイソーではクルド人の子供が平気で万引きしてるのをよく見かけます。店員に声かけられてもニホンゴワカラナイと言えば済むので今後どんどんエスカレートしていく事でしょう。万引きの瞬間は顔が映ってしまっているので割愛します。〉

 セレンは頭に血が上った。

「お母さん、大変だよ。こんな動画が出てるよ!」

 母のフォトマに聞くと、状況はすぐに判明した。前日の9月23日、母とアスミンがスーパーマーケットの中にあるダイソーに買い物に行っていた。母の妹も一緒だった。アスミンは母から少しだけ離れ、文房具コーナーにいた。その時、母がちょっと目を離した隙に、隠し撮りされていたことが分かった。「もちろんアスミンは商品なんか盗んでいないよ」。母は言った。

 アスミンは単に商品をみていただけだった。動画に添えられた文章はまるで子どもが万引き常習者のような書きぶりだが、動画でも少女はただ陳列棚のそばを行ったり来たりしているだけだった。

ダイソー本社に問い合わせると⋯

 のちに同僚の記者が、ダイソー本社に万引きがあったのか取材した際も、広報担当者は「そういった事実は確認されていない」と否定している。店内にはモニターカメラがあり、売り場状況は確認できるのだ。

 しかし、セレンが投稿翌日に気づいた時点で、動画はX上で急速に拡散していた。再生回数は300万回に達していた。

「やっぱりクルド人は子どもも犯罪者だ」「犯罪者は強制送還しろ」。コメントが殺到していた。

 映像は無加工。後ろ姿で顔こそ映っていない。しかし、知っている人や近所の人がみればすぐに女の子がだれなのか分かった。「アスミンちゃんの動画が出ているよ。万引きしてるって」。母親や父親には親戚や知り合いから、次々電話がかかってきた。

「4歳の妹が万引き常習犯に」「警察は何もしてくれない」差別的な日本人の食い物にされたクルド人家族の悲劇「もうクルド人とも名乗れない」〉へ続く

(池尾 伸一/Webオリジナル(外部転載))