福岡市地下鉄七隈線は延伸によって、利便性が向上した(UE-PON2600, CC BY-SA 3.0 , ウィキメディア・コモンズ経由で)

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 1月23日に通常国会が召集される。

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 昨年10月に発足した高市早苗内閣は高支持率を維持しているが、発足時は長年にわたって自民党と協力関係にあった公明党との連立を解消し、それまで野党だった日本維新の会が協力することで国会運営を乗り切った。

 しかし、維新が協力の条件として求めていた議員定数の削減は会期内にメドをつけることができず、実質的に約束は反故にされた。それにも関わらず、吉村洋文氏や藤田文武氏といった維新の執行部からは自民党との関係を見直す声が出ていない。その裏には、自民党との友好関係を維持しなければならない苦しい事情がある。

福岡市地下鉄七隈線は延伸によって、利便性が向上した(UE-PON2600, CC BY-SA 3.0 , ウィキメディア・コモンズ経由で)

 定数削減以上に維新が強力に押し進めているのが副首都構想だ。橋下徹氏や松井一郎氏といった歴代維新のトップは、大阪都構想の実現を一丁目一番地に掲げてきたが、2015年と2020年どちらの住民投票でも否決された。

 2015年には橋下氏が、2023年には松井氏が責任を取る形で政治家を引退。維新の創業者でもある橋下・松井両氏が去ったことで、維新は求心力を失った。

 そうした中、維新は高市内閣に副首都構想の実現を迫った。大阪都構想と副首都構想は似て非なる政策だが、維新が高市自民党に迫った副首都構想には大阪都構想を含む内容だった。そのため、自民党だけではなく立憲民主党などの野党からも「副首都構想のドサクサに紛れて、大阪都構想を実現しようとしている」と批判的な指摘が出ている。

「福岡を副首都にしよう」という機運

 維新が掲げる副首都構想は、東京に集中する首都機能の一部を移転させるものだが、これを維新は東京で大規模災害が発生した際に副首都がその代替機能を果たせると主張してきた。つまり、副首都は東京のバックアップ機能を果たす都市ということになる。

 一方、大阪都構想は大阪府という広域自治体と大阪市という基礎自治体を再編させる構想だ。これは大阪市を廃止して、新たに大阪“都”という強い権限を持つ自治体を生み出すことを意図している。

 現在、副首都を規定する法律はない。しかし、高市首相は所信演説で副首都の実現に言及した。それだけに、副首都構想の現実味は増している。

 だが、仮に政府が副首都を設置することを決めても、必ずしも大阪が副首都になるとは限らない。順当に考えれば、東の東京に対して、西の大阪が副首都になることが自然に思うだろう。それでも維新の意に反して、政財界の関係者間で副首都が議論された頃から「福岡を副首都にしよう」という機運が芽生えていた。

 その機運は近年になってから強まり、福岡県・福岡市・北九州市の3者も副首都の呼び込みを本格化させている。

災害、そして「鉄道」という福岡の優位性

 なぜ福岡が副首都候補地に急浮上しているのか? 福岡市の高島宗一郎市長をはじめ福岡政財界の関係者たちは「そもそも福岡は地震リスクが小さい」「南海トラフを想定した場合、東京と同時に被災することがない」といった理由を挙げている。

 南海トラフを震源とする大規模地震が起きれば、大阪も無傷ではいられない。例えば、大動脈の東海道新幹線が被災したら、大阪にも混乱が生じ、経済活動も停滞する。維新が強調する「東京のバックアップ機能」を果たせない可能性が高いのだ。

 福岡の優位性は、そうした災害のリスクヘッジだけにとどまらない。近年の福岡は鉄道ネットワークの充実に力を入れてきた。それが着実に都市の発展につながっている。

 2010年代までの福岡は、鉄道よりバスを公共交通の主軸に据えていた。福岡を地盤にする西日本鉄道(西鉄)は、鉄道事業者ながら広大なバスのネットワークと運転本数を誇り、日本一のバス会社と形容されていた。

 いまだ福岡はバス王国のイメージが強いものの、近年は鉄道の整備に力を注ぎ、それが福岡の発展を促している。福岡の鉄道整備でエポックメイキングになったのが、2023年に延伸開業した福岡市地下鉄七隈線だった。

 同線は1970年代から整備計画が議論され、2005年に橋本駅―天神南駅間で部分開業を果たしているが、博多駅まで延伸開業したことは地下鉄の利便性を飛躍的に向上させた。

 博多駅は新幹線が発着する福岡の玄関駅だが、その影響力と存在感は福岡県内にとどまらず九州全体に及ぶ。そのため、広範囲にわたって経済効果を生み出すことにつながった。

 なにより博多駅は福岡空港から地下鉄で2駅の至近距離にある。七隈線の延伸開業は東京と福岡の距離を縮めただけではなく、東京と九州の関係を強化する効果を発揮した。

 福岡市には地下鉄が七隈線のほか、空港線と箱崎線の3路線ある。そのうち基幹路線の役割を担っているのは空港線で、同線は博多駅や繁華街に位置する天神駅と福岡空港駅を結んでいる。基幹路線だった空港線に加えて、七隈線も延伸によって天神と博多を結ぶ路線になった。これにより、鉄道の利便性は一気に向上する。

都市開発が下地に

 こうした鉄道ネットワークを整備する呼び水になったのが、国家戦略特区を活用した都市開発にある。国家戦略特区とは、第2次安倍政権が導入した内閣が主導する形で進めた地域限定の規制緩和政策だ。

 先述したように、福岡空港は市内中心部から至近距離にあるが、それゆえに航空法によって建物の高さ制限を受けていた。中心部に高いビルを建てられないというハンデから、それまでの福岡の都市開発は縦に伸ばすのではなく、横に広げるしか術はなかった。横に広がる都市は、郊外化という宿命を負う。それが福岡をバス王国にしていた要因でもある。

 2014年に福岡市の中心部が国家戦略特区に指定されたことで航空法の規制が緩和された。これによって市中心部では天神ビッグバンや博多コネクティッドといった大規模再開発が相次ぎ、市中心部の建物は急速に上へ上へと伸びていくことになる。これが市中心部の発展へとつながり、同時に鉄道ネットワークが充実する下地にもなる。

 福岡は2000年代より急速に経済発展を遂げる中国・韓国・台湾といった東アジアのハブになることを目指してきた。そうした新興国の経済発展も福岡のプラス材料になっている。

箱崎線と西鉄貝塚線の直通運転

 福岡の鉄道整備は、市中心部を発展に導いた七隈線の延伸開業だけで終わらない。現在も粛々と新しい鉄道の整備計画が検討されている。目下、整備が急務とされているのが地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線の直通運転だ。

 箱崎線と西鉄貝塚線は貝塚駅で接続しているが、直通運転をしていない。両線ののりばは改札口を挟んで向かい合い、段差なしの移動で乗り換えできる構造になっている。少しだけ駅構造を改良すれば直通運転は可能で、それには大規模な工事を必要としない。そのため、以前から直通運転を期待する声が出ていた。

 西鉄貝塚線は朝ラッシュ時の混雑率が全国でもトップクラスの路線だが、これは2両編成で運行されているために電車一本あたりの輸送力が小さいことに起因している。

 対して箱崎線は、6両編成で運行されている。貝塚線と箱崎線が直通運転するには少なくとも両者の輸送力を均す必要がある。

 貝塚線にも6両編成の電車を走らせるには、ホームの延伸や信号設備など大掛かりな改良工事を伴う。福岡市は、当面の対策として貝塚駅で4両の増結・切り離しをするといった案を検討している。

「麻生太郎の地元」という“優位性”

 現状、大阪と福岡の鉄道ネットワークを比較すると、その充実度は大阪が圧勝している。本来だったら、大阪と福岡は比べるまでもない。

 しかし、福岡は「陸・海・空」が揃い、特に鉄道と空港のネットワークに関しては大阪をはるかに凌ぐ利便性を誇る。

 副首都構想を自民党に突きつけた維新の議員たちは、「副首都を設置するなら、当然ながら大阪が選ばれるはず」とタカをくくっていたフシがある。それほど他都市と大差をつけていた大阪だが、近年に福岡が鉄道ネットワークを整備・充実させたことで猛追を始めた。また、福岡では新線・延伸計画が活発に議論されていることも好材料となっている。

 なにより福岡は高市内閣生みの親ともいわれる麻生太郎氏の地元でもある。永田町では「高市首相は維新をつなぎとめるために副首都を持ち出しているが、恩人である麻生氏を袖にはできない。それを考慮すると、福岡の逆転も非現実的な話ではない」といった声も出ている。そうした政治的な思惑も加わり、福岡は一気に副首都の有力候補地に浮上した。

 維新は以前から副首都を訴えてきたが、みすみす副首都を福岡に取られるような失態を犯せば存在意義を失ってしまい、党そのものが消滅してしまいかねない。

 副首都に相応しいポテンシャルを有している都市はどこか?といった議論ではなく、政治的な駆け引きで決まりそうな気配が漂い始めたこともあり、維新は高市自民との関係を絶てない状況に追い込まれている。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部