「医療費控除」とは1年間に一定の額の医療費を支払った場合に所得税が安くなる制度だ。税理士の出口秀樹さんは「一般的には年間の医療費が10万円を超えた場合に利用できるが、所得が200万円未満なら10万円以下でも利用できる」という――。

※本稿は、出口秀樹『知れば知るほど得する税金の本』(知的生きかた文庫)の一部を再編集したものです。

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■「年末調整」では控除を受けることはできない

節税を目指すのであれば、支出した証拠である領収書の保管、集計は欠かせません。努力次第で節税できるものに、「医療費控除」があげられます。

医療費控除とは、その人が1年間で負担した医療費のうちの一定額について、所得の金額から差し引くことができる制度です。この制度を利用するために2つのポイントがあります。

一つは確定申告をすること。もう一つは領収書を保管しておくことです。

一つ目のポイントは、会社が行ってくれる年末調整では、控除を受けることはできず、自分で申告をしなければ控除を受けることができないということ。

2つ目のポイントは、自分で医療費の領収書を保管しておく必要があることです。

実際の確定申告では、会社が行ってくれた年末調整で作成した「源泉徴収票」と医療費の領収書をもとに作成した「医療費控除の明細書」が必要です。

また、医療費控除の明細書は、医療保険者からくる「医療費のお知らせ」があれば、明細の記入は省略でき、お知らせに記載されている合計額を記入すれば良いことになります。

また、従来は医療費の領収書を添付して提出していたものが、平成29年分からすべて医療費控除の明細書の添付にかわりました。申告の際に医療を受けた人ごと病院・薬局などの支払い先ごとに集計した明細書の添付が義務化され領収書は添付できなくなったのです。そして、医療費の領収書については、納税者が5年間保管することとなっています。

医療費控除の対象となるのは、病院で支払った診療代、薬代などに支払った金額で、年間10万円またはその年の所得金額の5%のいずれか少ない金額を超える医療費が控除の対象となります。

■視力回復のレーシック施術も医療費控除の対象に

医療費控除の対象となる費用は、図表1の通りです。病院などでの診療代の他、医薬品の購入についても対象となります。

『知れば知るほど得する税金の本』より

また、医薬品については処方されたものはもちろん、市販の風邪薬なども含まれます。ただし、サプリメントなど直接医療と関係ないものについては除かれます。しかし、直接医療と関係ないものでも、医療を受けるための交通費などは医療費控除対象となります。公共の交通手段だとその料金の領収書を受け取ることができませんが、その場合は行った日と目的地に行くまでのルート・金額などをメモして残しておくことで医療費控除の対象とすることができます。

また、タクシーで行った際の費用は基本的に対象とすることはできません。ただし、どうしてもタクシーでなければ病院までの移動ができないなどの特別な事情があれば、対象とすることは可能です。

医療費控除対象となる支出の中で少し変わったところでは、歯の矯正、視力回復のレーシック施術の費用などがあります。

また、分べん費用についても医療費の対象となります。これには、妊娠と診断されてからの定期検診や検査などの費用も含めることができます。

出産のためタクシーで病院に行くことがありますが、これも緊急を要するということで控除対象として認められています。

ただし、分べん費用に関しては、健康保険組合などから出産一時金などをもらうので、その金額については医療費から差し引かなければなりません。

■PCR検査が対象になる場合とならない場合

歯の矯正に関しては、それが医療上必要なものであれば、医療費の対象となりますが、いわゆる審美のためのものは対象外となります。ただし、子供の歯の矯正費用については対象となります。

同様に整形施術など、医療上必要のないものは対象外です。また、インフルエンザの予防接種など予防のための費用、健康診断などの費用については、病気にかかり、それを治療するための費用ではないので、医療費控除の対象からは外されます。

新型コロナウイルス関係の費用としてはPCR検査などがその対象となるかどうか気になるところです。

写真=iStock.com/show999
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コロナ感染の疑いのある方に対して行うPCR検査など、医師等の判断により受けた検査費用のうち自己負担分については、医療費控除の対象となります。

しかし、単に心配だからという理由などの予防的な措置として自分の判断で受けるPCR検査などの検査費用は、医療費控除の対象となりません。

ただし、そのPCR検査の結果、「陽性」であることが判明し、引き続き治療を行った場合には、その検査は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができますので、その検査費用については、医療費控除の対象となります。その時の状況によって医療費の対象になる場合とならない場合があるので注意が必要です。

■保険金などで受け取った金額は差し引く

医療費控除の対象となる金額は、次の式で計算した金額(最高で200万円)です。

〈実際に支払った医療費の合計額−(1)の金額〉−(2)の金額
(1)保険金などで補てんされる金額
(2)10万円と所得金額の5%相当額のいずれか少ない金額

(1)で注意していただきたいのは、支払った医療費から保険金などで受け取った金額を差し引くということです。生命保険などの特約で入院・通院保障や医療保険などで補てんされている金額がある場合は、それを差し引いた金額、つまり自分が負担した金額が控除の対象となります。

ただし、支払った金額より受け取った金額が大きい場合、その超過分は所得金額として課税の対象とはなりませんので、ご安心ください。

また、前項で説明したように出産費用も医療費控除の対象となりますが、その場合、出産育児一時金としてお金を受け取ることがあります。この一時金についても、「補てんされる金額」として支出医療費から差し引かなければなりません。

補てんされる金額を差し引いた金額については医療費控除となりますが、その控除金額は最大で200万円となっています。どんなに医療費を負担しても、200万円までで控除は足切りとなってしまうので、注意が必要です。

■医療費控除は10万円からという神話

一般に、医療費控除といえば、“10万円以上”と思っている人が多いようで、「どうせ1年で10万円以上にならないので、領収書を保管していない」という言葉もよく耳にします。

出口秀樹『知れば知るほど得する税金の本』(知的生きかた文庫)

ただ、この10万円という数字だけで、医療費控除が適用できるかどうかを判断すると、損をする可能性もあるのです。それは“所得金額基準”があるからです。

その人の所得金額が200万円以上であれば、10万円基準で医療費控除の対象となる金額はゼロということになります。しかし、もし、その人の所得金額が200万円未満であれば、医療費控除の対象となる金額は10万円を下回るのです。

その場合は所得金額の5%という基準を使うことになるからです。

たとえば、所得金額が100万円で年間7万円(保険金などで補てんされる金額なし)の医療費を支払っていた人の場合、次のように計算します。

7万円(支出医療費)−5万円(※)=2万円(医療費控除の金額)

※10万円>100万円×5%=5万円

ゆえに5万円となり、年間5万円を超える医療費の負担をしていた場合は、対象となるのです。

平成29年から始まっている「セルフメディケーション税制」については、そもそも限度額が10万円(控除額は88000円)となっています。対象となる金額は年間12000円を超えるものからですので、ますます10万円という金額にこだわる必要はなくなってきます。たとえ10万円未満であっても、領収書の保管はしっかりと行っておきましょう。

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出口 秀樹(でぐち・ひでき)
税理士
米国税理士(EA)。BDO税理士法人札幌事務所代表社員、ドルフィンマネジメント代表。1967年北海道札幌市生まれ。1991年北海道大学文学部卒。小樽商科大学大学院商学研究科修了。1998年5月、出口秀樹税理士事務所を開所。著書に『知って得する領収書の本』『知れば知るほど役立つ会計の本』(知的生きかた文庫)、『改訂版 はじめての会社経営100問100答』(明日香出版社)など。
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(税理士 出口 秀樹)