J2の昇格争いが風雲急を告げている。第30節終了時点で、2位から7位までの6チームが勝ち点差3でひしめき合う混戦模様だった。たった1試合で大きく順位が変動する状況になっている。

 第31節。9月7日、ニッパツ三ツ沢球技場では、リーグ戦でここ12試合負けなし(9勝3分け)の大躍進で2位まで順位を上げた横浜FCが、同じく連勝で7位に浮上したヴァンフォーレ甲府を迎え撃っている。1位、2位がJ1自動昇格で、3〜6位に昇格プレーオフ出場権が与えられるJ2。J1とJ2ではさまざまな点で天と地の差があるだけに、どちらにとっても”存亡をかけた戦い”と言えた。

 序盤、試合の主導権を握ったのは、”挑戦者”である甲府のほうだった。落ち着いて後ろからボールをつなげ、前線の3人に縦パスを入れながら、そこを拠点に攻撃を繰り出す。じわじわと押し込みながら、両サイドから幾度か攻め上がった。

 しかし、横浜FCは防御線を敷いて待ち構えていた。

 8分だった。ディフェンスラインの前に入れられた縦パスに対し、横浜FCはボランチの松井大輔が反応。これをつつきだし、同じボランチの田代真一が前へ供給する。それをレアンドロ・ドミンゲスが受け、1人を外した後、左サイドの松尾佑介へ。松尾はワントラップで加速をつけて前に出ると、対峙したディフェンスを緩急差で抜き去り、そのクロスをファーサイドの中山克広が押し込んだ。


ヴァンフォーレ甲府戦で決勝ゴールを決めた松尾佑介(横浜FC

「自分たちがゲームをコントロールしていたが、警戒していたセカンドボールのところで失点してしまった。いいゲームをしていた逆を突かれたというか、若い選手のスピードを抑えきれなかった」(甲府・伊藤彰監督)

 先制点をアシストした松尾は突出した存在だった。スピードがあるだけでなく、スピードを”使える”。相手の逆を取っているため、速度が倍加しているし、両足をうまく使え、技術精度も高い。それがゴールに向かったときの迫力になっているのだ。

 その後、横浜FCは同点にされたが、後半の立ち上がり、やはり松尾が左サイドでドリブルし、人を引き付け、スペースを生み出す。左からのクロスに対し、レアンドロがボレーで合わせ、そのこぼれ球を中山がヘディングで押し込んだ。

 横浜FCは再びPKで追いつかれるが、72分、CKのファーからの折り返しをボレーで合わせた松尾が決勝点を決めた。

「ビデオで研究し、あの(松尾の)スピードは警戒していたんですが。2人がかりでもやられてしまったので、どうしようもなかったですね……」

 甲府の選手は、ため息まじりに洩らしていた。

 この夜の主役は松尾だった。バックラインやGKからのロングパスを、巧みにコントロールし、起点として攻撃の厚みも与えていた。まだ仙台大学の学生で、22歳の強化指定選手。第20節のファジアーノ岡山戦で初出場して以来、チームはまだ負けていない。

 5月まで、横浜FCは負けが先行していた。しかし、下平隆宏監督が就任して以来、チームの戦い方は安定している。三浦知良、中村俊輔、松井大輔、レアンドロなどベテラン選手が注目されるが、一方で松尾だけでなく、斉藤光毅、中山のような若手が台頭してきた。「チームの雰囲気がいい」と選手たちが言うように、刺激を与えあっている。

 結局、横浜はシーソーゲームを3−2で勝ち切った。これで単独2位をキープ。同じ日、首位を独走していた柏レイソルが敗れたことで、背中が見えてきた。

「あれを止めないと自分の存在価値を示せない。アラーノが入ってきた瞬間、これは来るな、と準備していました」

 今年で40歳になる横浜FCのGK南雄太は言った。終盤、決定的なシュートをはじき出し、チームを救っている。

「うちは両翼にあれだけ速い選手(松尾、中山)がいるので、相手は嫌でしょうね。松尾はとにかく速い。しっかり守っていれば、必ず点は取ってくれると信じていますよ」

 その信頼感こそが、チームを好転させているのだろう。

 一方、敗れた甲府も、依然として1試合でプレーオフ圏内に滑り込める状況で、反撃の余地は十分に残されている。ただし、安穏ともしていられない。9月7日現在、暫定で8〜11位のツエーゲン金沢、徳島ヴォルティス、V・ファーレン長崎、ファジアーノ岡山の4チーム(いずれも勝ち点46)との勝ち点差は3。プレーオフ出場権を巡っては、下位から巻き返すチームもある気配だ。

 混沌とするJ2。昇格をかけたドラマは佳境に入ろうとしている。