東京・丸の内のビル群

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■なぜ「千代田区」に本社があるのか?

日本の大手生保の本社は、どこにあるかご存知でしょうか。

第一生命は東京都千代田区有楽町、明治安田生命は千代田区丸の内、日本生命も登記上は大阪が本社ですが実質的に今は千代田区丸の内にあります。どの社も、誰もが認める都心の超一等地です。

なぜ、千代田区に集中しているのか。

最大の理由は、金融庁です。言うまでもありませんが、保険会社や銀行は、免許事業。監督官庁は金融庁です。生保各社は、新しい保険商品をつくるごとに同じく千代田区の霞ヶ関にある同庁に出向き、商品の内容を担当者に説明し、チェックを受けることになります。

やりとりは、もちろん電話やメールですむこともありますが、面会が必要な場合もあります。複雑な商品だったりしたら1回や2回ではすみません。質疑応答など、必要に応じて何度も繰り返します。

もし、本社が地方にあったら、そのたびに生保担当者が大量の資料を持参して上京しなければなりません。交通費も労力も、かなりのものになるでしょう。ですから、アクセスが極めていい同じ千代田区内に本社を構えるのです。千代田区に次ぐのは、隣接する港区や中央区、新宿区などです。

ちなみに同庁がチェックするのは、例えば、保険商品の保険料の算出方法が公平性などを考慮して、合理的かつ妥当なものとなっているかどうかということや約款の内容が消費者の不利になっていないかどうかなどです。一方の生保側は、商品の「製造原価」(純保険料)がいくらかをつまびらかにし、約款の内容の妥当性を説明します。

通常、保険商品の認可にかかる審査期間は正式な申請から90日。保険業界では、「90日ルール」と呼ばれています。申請前に、事前に相談する場合もあるので実際には、自社と金融庁との行き来はもっと長くなるケースもあります。

■なぜアメリカの生保本社は遠隔地なのか?

生保に限らず日本の大企業が超一等地に本社を置く理由は、もう1つあるのですが、その前に、アメリカの保険会社の本社はどこにあるかについてお話しましょう。

東海岸コネチカット州都・ハートフォード、中西部アイオア州都・デモイン。この2つの都市に共通していること。それは、ニューヨークなど大都市にも保険会社の本社は多いのですが、この2州都には数十の保険会社の本社が集中していることです。いわば「保険の都」なのです。アメリカは合衆国ではなく実体は合州国。保険業は国法ではなく州法で規制されているのです。

実は、両州とも、州の政策で保険会社の法人税を数%安くしています。州政府はそのことで保険会社を招致して、経済の基盤にしているというわけです。

ハートフォードには、1800年代から保険会社ができ始め、州政府の政策の影響などもあり、その数が増えていきました。

デモインには、プリンシパル・フィナンシャル・グループや、アメリカ大手保険グループ、マーシュ・アンド・マクレナンなど大手の本社があります。

ただ、ハートフォードもデモインも州都ですが、それほど大きな街ではありません。例えば、デモインには高層ビルもありますが、肥沃な土壌に恵まれた重要な農業の中心地です。私も両方の街を訪問したことがありますが、どことなくローカルな印象が残っています。

デモインで連泊したホテルのレストランのメニューが1日目はでかいビーフステーキにポテト。2日目は、肉が豚肉に変わっただけで、まったく同じポテトがついていました。良くも悪くもアメリカ式ですが、ニューヨークのような大都会の洗練された感じはありません。

日本は金融庁、アメリカは法人税。「その場所」に本社を置く理由は、国は違えども、しっかりと存在するということでしょうか。

■なぜ本社が千代田区大手町・丸の内・有楽町にあるか?

ところで、日本の大手生保には、「監督官庁」以外の理由もあります。

前出の第一生命、明治安田生命、日本生命などの本社がある大手町・丸の内・有楽町は、国際的なビジネスセンターと言っていいでしょう。

保険だけではなく、金融・商社・メーカーなど世界のリーディングカンパニーが密集しています。その集積度は世界一ではないでしょうか。

このエリアに高層ビルなどの建物が100棟以上あり、就業人口は約23万人。 上場企業本社数は92社で、その上場企業の売上高は約135兆1180億円と言われています。日本の総売上高の約1割を占めるそうです(以上、一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区 まちづくり協議会資料より)。

フォーチュンTOP500には、「大手町・丸の内・有楽町」エリアの19社がエントリーしています(東京その他エリア26社、ニューヨーク18社)

要するに、大手企業の本社があるエリアには、自社の系列やグループ企業を含む一般の大手企業の本社も徒歩圏内にたくさんあり、効率よくセールスなどができます。BtoBのビジネスでは、そうした顧客のもとへすぐに駆けつけることができるから、超一等地を選ぶのです。

日本、とりわけ都内の集積効果は、恐るべきものがあります。

ニューヨーク・シカゴ・ロサンゼルスの3都市間の直線距離は5087kmで、人口の合計は4500万人。北京・上海・広州の直線距離は2283kmで、人口6100万人。それに対して、東京・名古屋・大阪の直線距離はたった386kmにもかかわらず、人口6500万人なのです(出典:The Time Now)。

日本は、大人口を擁する巨大都市が極めて近い位置関係にあります。地政学的に有利な環境であることが、日本経済の発展を昔も今も支えています。

その超集積の街のシンボルが、大手企業の本社がある大手町・丸の内・有楽町エリア。集積の効率を上げるにはこの上ない立地であることも、超一等地にわが国の大手企業が本社を置く理由なのでしょう。

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ライフネット生命保険 会長兼CEO
出口治明
1948年、三重県生まれ。72年京都大学法学部卒業、日本生命入社。92年ロンドン事務所長、95年国際業務部長、98年公務部長。2006年生命保険準備会社ネットライフ企画株式会社を設立、同社社長に就任。08年生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険社長に。2013年6月より現職。

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(ライフネット生命会長兼CEO 出口治明=談 プレジデントオンライン編集部=構成)