■外国人のほうが真面目に働く

「もうコンビニに日本人はいらないよ、人によっては考えるけどさ」

都心を中心に複数のコンビニを経営する60代男性オーナーの言葉に私は耳を疑った。別件の取材で地主など富裕層のコロナ禍に興味を持った私が、とあるオーナーズクラブで紹介され、移動の車中でいいならと応じてくれた。それにしてもコンビニバイトなんて万年人手不足のはず、この未曾有のコロナ禍、それ以前の古い情報のアップデートは常に必要だと身にしみる。少し前まで、日本人が来てくれないから外国人を雇っていたはずなのに、どういうことか。

「だって外国人は最低時給でも文句言わないし、どの国の子も真面目によく働いてくれる。日本人は怠け者が多いし文句ばかりだ」

写真=iStock.com/TAGSTOCK1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

言い草にカチンときた私はとっさに問いただした「あの、日本の方ですよね」と。オーナーが外国人の場合は別の私情もあるだろう、しかし彼はれっきとした日本人だった。

「もちろん日本人だよ、三代どころか江戸の昔からこの辺に住んでる。いや誤解されちゃ困るんだけど、全部が全部って言ってるわけじゃないんだよ、でもさ、コンビニのバイトに来る日本人って、この辺じゃろくな奴がいないんだよ、ずっと家に籠もってたような口も満足にきけない日本人なんかいらないし、身元の固い主婦の人とか学生さんとか来てもらいたいけどまあ来ない、年食ったフリーター雇うくらいなら外国人のほうがずっと優秀だよ」

べらんめえ交じりにベラベラとよくしゃべるオーナー。年食ったフリーターの何が問題なのか。口下手なのも人それぞれ事情がある。他人にとやかく言われるようなことではない。

■中年フリーターより留学生が欲しい

「フリーターって言っても最近は30代とか40代とかだよ、昔は若い子が来てたけど、いまの若い子でフリーターなんかやんないよね。氷河期でそのまんまフリーターとか、夢追ってそのままとか、そんなのが多いけど、やっぱ若い子が来るなら若い子欲しいんだよね、でも日本人の若い子なんて来ないから、留学生」

全員ではないが彼のようにバブルを謳歌した世代で成功した人、裕福なままに時を経た人の中には氷河期世代に無理解な人が一定数いるのが現実だ。もっとも彼らにしたって世代の違う赤の他人なんかどうでもいいのが本音だし、残念ながら当たり前の世間だろう。同世代として悔しいが、現実はそんなものだ。

■日本人でバイトする奴は外国語も喋れない

「それに比べて留学生はいいよ、みんな若いし擦れてないもん」

もん、とかわいく言われても困るが、要は安い時給で言うこと聞いてくれて、労働条件など面倒くさいことは言わない都合のいい存在、ということか。年食った日本人の氷河期おじさんより若い外国人、バイトすらそうだ。

「それもあるけど、外国語ができるのも大きいんだよね、日本人でコンビニのバイトするような連中は語学できないし、でも留学生は中国人なら中国語できるし、英語もできる。日本語だってうちに来る日本人バイトよりマシじゃないかって思うくらいできる。まあ決められた接客用語使えりゃ、あとはいらないから、大事なのは外国語だね」

このコロナ禍にあっても、東京都の住民基本台帳上の外国人の数は55万8989人(2020年7月時点、東京都人口統計課調べ)である。そのおよそ55万人の外国人のうち、中国が22万人でダントツ、ついで韓国の9万人、ベトナム、フィリピンなどが共に3万人前後で続く。ネパール、台湾、アメリカがそれぞれ2万人前後、インド、ミャンマーが1万人前後である。

これだけ見れば、中国語と韓国語が東京にあふれている理由がわかる。中韓合わせて31万人、これは住民基本台帳上の数字なので実際はもっと多いはずだ。インバウンド目当てばかりでなく、都心のコンビニでは日常において中国語や韓国語を話せる店員が必要とされている。実際に都心のコンビニ店員は外国人だらけだ。

■中国人や韓国人は英語もできる

「彼らは英語ができるのも大きいんだよ、うちで働く中国人も韓国人もみんな英語ができる。ベトナム人もね。日本人のコンビニバイトにゃまずいないね」

まあそうだろう、英語の堪能な日本人がコンビニでバイトなんてよほど食い詰めてなければありえない、いや食い詰めても他の仕事につくだろうし、失業したから短期であっても仕事で英語が使えるほどならもっと割の良いバイトは見つかるはずだ。そしてアジア圏の留学生は堪能とまでは言えないまでも、日常英語くらいなら難なくこなす子が多い。

「そういうこと、だから安くて、優秀で、従順な外国人留学生のアルバイトがいくらでも来るから、一部の社員除けばもう日本人はいらないんだよね」

そこまで言い切るか、経団連の言い草そのままだ。ラフながら高級ブランドの小綺麗な服にラバーバンドの高級ダイバーズウォッチ、若作りにも見えるがさすがオーナーだけあって金回りのよさが伺える。コンビニオーナーというと自分も店に出て疲れ果てたおじさんというイメージだが、都心のオーナーは必ずしもそうではない。コンビニ経営も格差社会、とくに古くからの地主で複数の店舗を経営しているようなオーナーは羽振りがいい。ただそういったオーナーはコンビニ経営は事業の一部でしかなく、ビルや駐車場など不動産を中心に多角化している人がほとんどだ。こういう富裕層にとっては疫禍すら養分となる。

■コロナ禍で日本人の応募が爆増も…

でも若くて優秀な日本人が来ないから外国人でスタッフを揃えるならそれはオーナーの方針、どうぞご自由にとしか言えないが、コロナで一変したという。

「それがコロナの影響かね、バイト募集してませんかって日本人の問い合わせがすごいんだよ。毎日来るよ」

それまでオーナー氏いわく、「まともな日本人には見向きもされないバイト」だったはずが、このコロナで仕事を失ったまともな日本人がコンビニバイトにも流入しているという。確かにコロナの影響で5月の完全失業者は198万人と200万人近くにのぼる(総務省、2020年6月30日発表)。また同年4月に600万人にも及んだ休業者のうち、7%が5月に失職した。実は翌月の6月の失業率は微減と改善しているのだが、これは自営業者が増加したため、仕事もないし自分でやるか、の消極的開業が多いのではないかとみる。年中募集中だった小売や飲食も自粛の影響とさらなる休業、自粛要請で以前ほどの求人は見なくなった。頼みの綱はコンビニというわけだが、そんな一昔前の雇用環境ではないという。

「もう外国人のバイトで埋まってるからね、どれくらい金が欲しいかスタッフが聞くとフルタイムで入って生活できるくらい欲しいってんだ。シフトそんなに入れられないからね、昔の感覚で来ちゃうんだろうね」

つまり、日本人が月に必要な生活費と考えれば、月20万は欲しい、それほどでなくても15万は欲しいだろう。ましてや都心と考えればそれくらいないと家賃、食費、光熱費、各種税金と考えれば生活できない。一昔前はコンビニの夜勤でガッツリ稼ぐフリーターなどもいたが外国人に取って代わられた上にコロナ禍の時代となり、かつての認識でコンビニならと応募してもはねられる可能性もあるということか。結局のところ、本音は最低賃金で文句も言わずに働く多国語のできる若者を都心で求めると必然的に外国人、とくに留学生ということになるのだろう。ここでも経団連の言い草そのまま、虫のいい話だ。

■コンビニが特定技能になれば日本人はいらない

「もちろん忙しい時に短時間とかはウェルカムだけどね、それだと意味がないって入ってくれないんだよ。時給も最低賃金じゃ嫌がるし」

これは以前から耳にしていたが、最近アルバイトは忙しい時、社員が少ない時以外いらないというところも増えた。本当に虫のいい話だが、かつてのように暇な時間も込みで丸一日入れる牧歌的なバイトは減っている。あっても辞めないので、席は空かないか、あっても年中地獄のように忙しく人間関係も最悪なブラックバイトしかない。それすらコロナで減っている。

「唯一ネックだったのが(外国人留学生の労働)時間制限なんだけど、それも特定技能になってくれれば留学生どころか普通に外国人使えるようになる。そしたらほんと、日本人でコンビニバイトに来るような連中はいらないね」

外国人留学生が資格外活動の許可を得て働ける時間には「1週間28時間以内」という制限がある。ただし学校が認めるなら、夏休みなどの長期の休みに限り「1日8時間以内かつ週40時間以内」の労働が認められている(職種にもよる)。大手コンビニチェーンは遵守してるが、コンビニに限らず中小企業や個人店舗などは守っていないところもあり、実際は掛け持ちでそれ以上に働く外国人留学生も多い。

しかしオーナーの言う通り、「特定技能」つまり「介護」「農業」「製造」「建設」などの専門職に「コンビニ」が加われば留学生に限らず大量の外国人を技能実習制度を使ってコンビニで働かせることができる。これは2017年ごろから日本フランチャイズチェーン協会を中心に働きかけがあり、2020年7月にも「自民党政務調査会外国人労働者など特別委員会」(片山さつき委員長)が政府に提言している。結局コロナの影響もあり「適切に検討する」とすることで先送りとなったが、一般国民はコロナ禍のバイトすら外国人に奪われようとしている。

■日本人を守らなければ無駄な分断を生む

私は排外主義者ではないし、本稿のオーナー氏は一例でしかない。またあくまで都心の話で地方には当てはまらないだろう。例えば私の故郷の野田(千葉県)あたりのコンビニは今だに日本人の主婦や学生、フリーターを中心とした昔ながらのバイト先である。多数の地方、田舎のコンビニはそうだろう。しかしこの都心部における外国人コンビニ店員の爆増は、決して都心だけの話にとどまらず、将来的にはコロナ禍も相まってセーフティーネット的な単純非正規労働における日本全国の食い詰めた日本人と外国人との奪い合いに発展するに違いない。

現に人材派遣各社は「外国籍人材定着支援サービス」や「外国人材受入支援プラットフォーム」などでコロナ禍にあっても新たな奴隷貿易の準備を着々と進めている。オーナーの不遜な自信はそんな政官財の方針もあるのだろう。おかしな話だ。コロナ禍で日本人失業者や生活困窮者はさらに増えているのに、このように安上がりというだけで外国人の雇用拡大に走る自由民主党の一部と、無条件に外国人労働者を日本人に搾取される弱者と決めつける一部リベラルには疑問を抱かざるを得ない。

こういった安易な外国人雇用と悪平等こそが差別と分断を生む。これから新型コロナウイルス感染拡大の第2波、第3波の状況次第では大失業時代が到来するかもしれない。再度の緊急事態宣言など発令され日には多くの失業者であふれかえる。現に正社員すらあちこちで切られ始めている。多くの国民がその不安を多くの国民がその不安を抱える中、コンビニ一つ取っても外国人労働者優遇にひた走る、ここは日本だ。

まず日本人のことを考えるのは当たり前の話なのに、コロナ禍すら経団連と新経連、族議員は「さらなる外国人労働力の安定供給」「外国人労働者の入国と定住の促進」と、言っていることはこのオーナー氏と変わらない。経団連は7月14日、新経連は8月17日にコロナ禍の外国人労働者に限る入国制限措置の緩和を提言した。日本人はそっちのけ、こと雇用に関しては外国人をとやかく言う以前に日本人の敵が日本人という体たらく。

あらためて問う。この国はいったい誰のための国なのか。

----------
日野 百草(ひの・ひゃくそう)
ノンフィクション作家/ルポライター
本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。近刊『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)寄草、近著『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。
----------

(ノンフィクション作家/ルポライター 日野 百草)