内戦にコスト高が追い打ち、3200キロ離れたイラン戦争で深まるミャンマー経済の窮状

(CNN)田植えの季節が近づく中、マウン・ヌ・セインさんは農業機械を動かす燃料と、稲を育てるための肥料を必要としている。しかし、セインさんにとって不可欠な物資を積んだ船は、3200キロ離れた海上で足止めされている。世界有数の重要水路の一つをイランが封鎖したためだ。
今、セインさんは計算を迫られている。燃料費と農作業コストが米を売って得られる収入を上回ってしまった場合、果たして生き残れるのだろうか?
「多くの農民があらゆる面で苦境に立たされ、土地を放棄している」と、72歳のセインさんはミャンマー西部の自宅からCNNに語った。
2021年の軍事クーデターをきっかけに勃発したミャンマーの内戦は、5年間で激化。数百万人の避難民を生み出し、国内は軍による支配地域と非支配地域とに分断した。経済と医療制度も崩壊に見舞われている。
セインさんのような農民たちは、既に米価の低迷に苦しんでいる。内戦や沿岸州に対する軍の封鎖を受け、燃料費や食料費の高騰にも悩まされている。しかしここへ来て、中東での紛争とホルムズ海峡の封鎖が窮状に一段の拍車を掛ける。ラカイン州にある地域社会の他の住民たちは、今や極限状態に追い込まれているとセインさんは訴えた。
「所有する土地の一部で農業を続けている人もいる。食べていかなくてはならないからだ」「もし我々が農業を完全に放棄してしまえば、地域社会全体が崩壊するだろう。米は我が国の主食なのだから」(セインさん)
ミャンマーは、燃料の9割と肥料のほぼ全てを中国や中東周辺諸国からの輸入に依存している。農業という経済の柱を支えるためにはこれらの物資が不可欠だ。
しかし、米国とイスラエルによるイランとの戦争により、こうした重要物資の供給は途絶えている。燃料不足は製品の輸送コストの値上がりを意味する。供給が減少するにつれてエネルギー、食料、医薬品、その他の生活必需品の価格も上昇している。
「中東での戦争の影響は、この国の人々に甚大な打撃を与えている。ただでさえ内戦に苦しむ中、状況は格段に悪化している」。セイン氏はそう訴えた。
戦争が「首を絞める」国連の統計によると、海上輸送される肥料の3分の1がホルムズ海峡を通過する。肥料がなければ作物の収穫量は減少するだろう。灌漑(かんがい)設備の稼働や収穫作業、市場への出荷に不可欠な輸送コスト並びに燃料価格の高騰も深刻だ。これらの要因が重なることで、農民たちは来シーズンの作付け費用を賄えなくなる恐れがある。
米は多くのミャンマー国民にとって主食であり、生産量の大部分は国内消費向けだ。しかし昨年は8億6100万ドル(現在のレートで約1360億円)の収益を生み出すなど、国にとっては米の輸出も重要な収入源および外貨獲得の手段となっている。
世界食糧計画(WFP)のアジア太平洋地域担当責任者を務めるサミール・ワンマリ氏は、収穫量の減少について「これは農家だけでなく、国内の食料供給全体にとって極めて深刻な問題だ」と強調。「農繁期が近づいており、肥料の需要はピークに達している。米の生産が行われ、水が必要とされる時期を迎える中、ミャンマー国民、とりわけラカイン州の人々にとって、これほど最悪なタイミングはない」と述べた。
セインさんは、コスト高のため、昨年から耕作面積を半分に減らさざるを得なかったと明かす。
「以前は田畑を耕すのに24ドルしか燃料代がかからなかったが、それが240ドルになり、さらに476ドルにまで跳ね上がった。もはや農業を続けるのは我々の力では無理だ」と、セインさん。「売った米代では燃料代すら賄えない。作業員の人件費など到底払えるはずもない」
結果的にセインさんは、7人家族の生計を立てるのに苦労している。この危機が改善しなければ借金をしたり、財産を質に入れたりせざるを得なくなるという。
「今回の戦争は、我々の首を一段と強く絞めてくる。できることといえば、1日1食の食事をさらに半分に減らしてやり過ごすくらいしかない」
ミャンマー米連盟のイェ・ミン・アウン会長はCNNに対し、燃料、肥料、輸送費の高騰が、米農家や精米業者、輸出業者などにさらなる圧力をかけていると述べた。
WFPは、今年半ばまでに紛争が終結しなければ、世界中でさらに4500万人が深刻な食糧不安に陥ると警告している。ミャンマーではすでに1250万人が飢えに苦しむ。その多くは僻地(へきち)に住んでいるか、内戦によって避難を余儀なくされた人々だ。
自身が不安定な状況にありながら、セインさんは自分より恵まれていない人々もいると語る。農場の外では、路上で食べ物を求めて物乞いをする避難民の姿が見えるという。
内戦の影響をほぼ免れているミャンマーの主要都市に住む人々でさえ、生活苦を感じている。WFPによると、イラン戦争の開始以来、米、塩、豆類などの基本的な主食の価格は約22%上昇した。
「燃料がほとんど手に入らない地域では、場所によって平均で30〜50%の価格高騰が見られる」と、WFPのワンマリ氏は述べた。
ミャンマーの最大都市ヤンゴンに住む2人の息子の母親、キン・キンさん(仮名)は、日々の生活費が1年前と比べて2倍になったと語った。
安全上の理由から仮名でCNNの電話取材に応じたキン・キンさんは、「毎月の学費やその他の物価高騰により、貯蓄もままならない」「料理で使うのは野菜だけ。それ以上の食材には手が出ない」と訴えた。
海運危機で糸や布地の価格が急騰したため、自身の仕立て業も打撃を受けていると、キンさんは言い添えた。
