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軽自動車のアーキテクチャーを世界で展開

ホンダ『Super-ONE』(以下スーパーワン)は、軽乗用車である『N-ONE e:』をベースに開発されたBEVのスポーツコンパクトだ。その存在は昨夏のグッドウッドで行われたフェスティバル・オブ・スピードでのデモランで公となり、その後はインドネシア国際モーターショーをはじめ、ジャパンモビリティショー2025などの展示で認知を広げてきた。

【画像】ついに市販化!ホンダのBEVスポーツコンパクト『スーパーワン』 全65枚

と、ここで、スーパーワンのプロモーションがなぜ海外でも行われているか疑問に思われる方がいるかもしれない。実はスーパーワンは日本以外の市場、具体的には英国、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、インドネシア、シンガポール、ブルネイといった左側通行、右ハンドルの地域で販売が予定されている。生産は鈴鹿製作所ゆえ、全量が輸出での対応だ。


軽乗用車『N-ONE e:』をベースに開発された『スーパーワン』は、サイズ拡大で乗用車登録になる。    中島仁菜

理由は純粋な需要に対する期待もあれば、CAFE(企業平均燃費基準)対策の側面もあるものの、ホンダにとって意味ある挑戦となるのが、果たして軽自動車のアーキテクチャーを世界で展開できるのかという点だ。

ここに可能性が見いだせれば、国内専用だった開発や生産のリソースが分散できることになる。コストやパッケージの面で卓越しているこのソリューションを活かせないかについては当然各社が模索しているが、海外市場に問うという決断はなかなか思い切ったものだ。

軽さを利したファントゥドライブ

そんな背景からも、スーパーワンが目指すのは単に便利で見栄えがいい小さいクルマというだけではない。床面積的にバッテリーの搭載量が限られることを逆手に取って、軽さを利したファントゥドライブを前面に押し出そうとしている。

ちなみにスーパーワンの重量は1090kgと、ベースモデルのN-ONE e:に対して60kg増に抑えられている。例えばBYDドルフィンが1520kg〜、ヒョンデ・インスターが1300kg〜とあらば、その軽さは際立ったものになる。いわゆるOEMが手掛ける登録車のBEVとしては、最軽量級ではないだろうか。


スーパーワンの重量は1090kgと、N-ONE e:に対して60kg増に抑えられる。    中島仁菜

但し搭載するバッテリーは29.6kWhとN-ONE e:と同じだ。対して航続可能距離は21km落ちに留めて274kmとしているが、片道100km以上の遠乗りには経路充電がマストになるだろう。受電能力は50kWだが、バッテリー容量を鑑みれば必要十分といえる。いずれにせよ、乗りこなすにあたっては足るを知る心持ちが求められるクルマだ。

現時点ではプロトタイプという扱いになるが、スーパーワンの全長は3580mm、全幅は1575mm。敢えて初代シティになぞらえれば、全長はターボ2より長いが、全幅はターボとほとんど同じといったプロファイルになる。

トレッドはN-ONE e:より前後が50mm広く、タイヤは前後185/55R15のアドバン・フレバを装着していた。トレッド出しはスペーサーを噛ませるようなにわか仕事ではなく、フロントはナックルやロアアームを作り直し、剛性や質量を合わせるためにドライブシャフトの左右径を変えるなど、専用開発を加えている。リアのトーションビームも形状は変わらずとも、板厚を上げるなど剛性や耐久性の対策も施された。

ちなみにバネやダンパーなども専用チューニングだが、アームを作り直すことで長さや取付角をN-ONE と同じにしているため、アフターマーケットのサスシステムもほぼ無加工で装着が可能とのことだ。

N-ONE e:と想像以上に異なるライドフィール

ブレーキはフロントがフィットの14インチシステムをベースにしており、リアはドラムながら油圧シリンダーを大径化して圧着力を高めているという。

プロトタイプの事前取材ということで、試乗はクローズドコースを5周という限られた時間となった。そのため、平時の乗り心地などわかりかねることもあるが、そのライドフィールはN-ONE e:とは想像以上に異なるものだった。


そのライドフィールはN-ONE e:とは想像以上に異なるものだった。    中島仁菜

まず足まわりの剛性やタイヤの縦バネ、そしてユニフォミティからくる転がりの精度感は、スポーティ云々以前のいいもの感をスーパーワンにもたらしている。恐らくは、普段乗りでも多少の凹凸や段差はバネ下が無駄ブレすることなくスキッと減衰するだろう。維持費云々を抜きにすれば、それだけでもスーパーワンの選択理由にはなり得ると思う。

とはいえ、スーパーワンの身上はGTではなくシティラナバウト……と、些か死語の感もあるが、身近な環境でも活き活きと振る舞える走りにこそある。そこで効くのが持ち前の軽量&ワイドトレッドに、BEVならではの低重心を加えた類例のない素養だ。

ホイールベース・トレッド比でいえば攻めることの出来るディメンジョンだろうが、操舵応答性自体は著しくクイックな印象はない。中立からの切り始めにことさらピーキーなところもなく、さりとてダルな感もなく……と、丁度いいくらいのところに収まっている。

舵を深く切り込んだ際の追従性は異質

むしろその曲がり上手なところを感じるのは、ちょっと無理気味なペースでスラロームやタイトコーナーに飛び込んだ時だ。ハイグリップタイヤの加勢もあるが、舵を深く切り込んだ際の追従性はBEVとしては異質。FFながらも、ちょっとやそっとでは重量でアンダー側にもっていかれる気配は現れない。

もちろん最終的には外側にじっとりと膨らんでいくが、その域になると後軸側がゆっくりと滑り出すことで姿勢をイン側に向けようとしてくれる。普通のFF車でこういう味付けをすれば挙動不安定の恐れもあるが、スーパーワンはここでも軽さと重心とディメンジョンを活かしたのだろう。かつてのシティターボはタックインにも悩まされたが、スーパーワンはきっちりシャシーファスターに落ち着いていた。


ステアリングのボタンでブーストモードに入れると70kW=95ps程度まで高まる。    中島仁菜

スーパーワンは駆動モーターもN-ONE e:と基本的に同じ、イニシャルの出力も47kWと変わらずだが、ステアリングのボタンでブーストモードに入れると70kW=95ps程度までパワーを高めてくれる。このモードはさすがに体感できるほど力感に差があるギミックとなっていた。

もちろん、いつ何時でも速さを価値とするならば別のクルマという選択肢になるだろう。でも一切合切を1台に託すのではなく、多少の不便を割り切れる大人であれば、上質さと遊び心を両立するミニマルなマイカーとしてこのクルマを愛せるのではないかと思う。