―長谷川七瀬(30歳/独身/彼氏ナシ)

「来年には絶対結婚する!」

そう宣言した女が企てたのは、ニューノーマル時代の新しい婚活のカタチ。

必要なものは「過去の男たちの記憶」、以上。

◆これまでのあらすじ

リスト4番目の男・蓮と再会していい感じかと思っていた矢先、蓮から「2人で温泉に行かないか」と誘われて…?

▶前回:「君のこと、もっと教えて?」アラサーの医者が女をジャッジする、衝撃の方法




「…今度の休み、よければ2人で近場の温泉にでも行かない?」

そう言って微笑む蓮につられて、七瀬はニコリとしながら首をかしげた。

― 次のデートに誘ってくれたことは、もちろん嬉しい。でも付き合う前に温泉…?

違和感を覚えながら、蓮に問いかける。

「温泉って、例えばどこのイメージ?」
「うーん、箱根に1泊で行きたくない?七瀬ちゃん、土日両方空いてる週末、今月ありそう?」

スマホでカレンダーを見ながら、楽しそうに日程の候補を提案してくる。

しかし、七瀬の耳には全くその声が入ってこない。

― 1泊旅行のお誘い…。

交際前の旅行が、良い結果になるとは思えない。

でも、もしかしたらー。

ちょっと遠出をして夜景の綺麗なところで、改まって告白してくれるつもりなのかもしれない。

― 蓮さんって、ロマンチストなタイプなのかしら…?

しかし七瀬は改めて蓮をまじまじと見て、首を小さく横に振った。

自分にとって都合のいいほうに解釈しては駄目だ、現実は甘くない。

それを最近の婚活で、思い知ったではないか。


泊まりのデートを提案してきた男に、七瀬が意を決して返した言葉は?


「温泉は行きたいけど、まだ付き合ってない人と泊まりはちょっと…」

少し悩んだが、この提案にはやはり乗るべきではない。

― もしかしたら、付き合う前提のお誘いだよ、とか言ってくれる…?

そんな期待を込めながら、蓮の表情の変化を観察する。

「そっか…。わかった」

先ほどまで楽しそうにしていた表情が一気に曇り、蓮は気まずそうに顎を触った。




― …え?本当にただ、1泊したいだけだったわけ…?

期待はずれの反応に、拍子抜けしたその時。

「じゃあさ、弾丸になるけど、日帰りで箱根はどう?」

蓮は七瀬を見て、そう問いかけた。



次の週末、七瀬は蓮の車で箱根へ向かっていた。




人の性格は運転に出るとよく聞くが、康平と違って、蓮の運転は穏やかだった。

「俺、今日は完璧なデートプラン考えてきたから、任せてね」

蓮はいつもより、テンションが高そうに見える。

― 完璧なデートプランって…。やっぱり今日私、告白されるのかしら…?

七瀬は静かに相づちを打ちながら、思わずにやけてしまいそうな幸福感をかみしめる。

道中、七瀬の好きな音楽を流しながら、お互いの過去の恋愛話で盛り上がった。

「俺は元カノとは2年前に別れてね…」
「じゃあ蓮さんは、その彼女が最後?」

話によれば蓮は2年前に、婚約していた彼女の浮気が原因で別れたらしい。

― 蓮さんと婚約してるのに浮気って、どんな女よ…。

最近の恋愛には慎重になってしまうと言っていたし、初デートで質問攻めされたことも辻褄が合う気がした。

― 私は絶対、蓮さんを裏切るようなことはしないんだから…!

七瀬が考えを巡らせながらそう誓っていると、蓮が車を止めてこちらを見る。

「七瀬ちゃん、着いたよ!」


蓮のとっておきのデートプラン。最初に着いた場所に、七瀬が驚いたワケ


話にすっかり夢中になって気付かなかったが、目の前には芦ノ湖が広がっていた。

晴れ男だという蓮のおかげで天気も良く、明るい太陽の下で青い湖がキラキラと光を放っている。




「わあ…!すっごくきれい」
「ね、自粛期間が長くて、こんな自然を見るのも久しぶりでしょ?」

「ランチはあのお店ね」と言いながら、軽い足取りで前を歩く蓮についていく。

― ああ、なんて最高なデートなの…!

蓮の言うとおり、思い返せば今年に入って遠出をするのは初めてだ。

きっと忙しい仕事の合間を縫って、いろいろとプランを練ってくれたのだろう。

― それだけ大切に思ってくれてるって、考えていいのかしら…?

都内のお洒落で高級なレストランでデートをするのももちろん好きだが、こういうアウトドアな週末を楽しめる関係は最高だ。

― いつかきっと今日のこのデートを思い出す日が来るのね……。

ランチも美味しくいただき、近くの神社に寄って参拝し、互いのスマホで写真を撮り合う。

「なんか私たち、カップルみたい」
「ね、俺こんなデートっぽいデート何年ぶりだろう」




七瀬が思わず本音を漏らすと、蓮もニコリと笑いながら嬉しい反応をしてくれた。

― きっと今日が終わる頃には、蓮さんは私の彼氏…!?

年内に彼氏を作るって目標、ギリギリにはなっちゃったけど無事達成できるのねー。

「ディナーは、ここにしよっか」

日が沈み暗くなり始めた頃、蓮の考えてきたプランの最終行程だという、ホテルの中のレストランへ。

― 夜景が綺麗で、素敵な雰囲気。私、きっとここで告白される…。

七瀬は座席に案内されながら、期待に胸を膨らませた。




記念撮影をするかもしれないから、と事前に化粧室でリップも綺麗に塗り直したし、準備万端だ。

しかしー。

次々と食事が運ばれてくるにつれて、蓮の表情がどんどん曇っていく。

そしてデザートが運ばれてきた頃には、蓮は黙り込んでしまった。

「…え、蓮さん、大丈夫ですか…?」

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最終回。婚活に終止符!と舞い上がる七瀬の目の前で、蓮が無口になったそのワケは?