バレーボール日本代表の絶対エースである石川祐希が、来季をイタリア1部リーグ(セリエA)のアリアンツ・パワーバレー・ミラノでプレーすることを発表した。ミラノの昨季の順位は5位。同7位だったパドヴァから、さらなる成長を目指しての移籍となった。


昨年のW杯でも活躍した、日本代表のエース・石川祐希 photo by Sakamoto Kiyoshi/AFLO

 石川に対して、ミラノのロベルト・ピアッツァ監督は「石川選手は素晴らしい選手であり、これまで着実にステップアップを遂げてきた。彼がこれまで所属してきたクラブの移り変わりは、彼にオファーを出す上でとても重要な要素だった」と獲得の理由を明かした。

 初めてセリエAでプレーしたのは、中央大学1年時の2014年冬。多くのリーグ優勝を果たしてきた強豪のモデナと3カ月間の契約を交わした。シーズン途中から合流したこともあって出場機会は限られたが、”世界選抜”とも言うべきスーパースターたちから多くの刺激を受けた。

 その後も、世界最高峰のセリエAでプレーすることへの意欲は衰えず、ラティーナでの2シーズンも経て、2018年の大学卒業とともにプロ選手としてシエナに入団した。それまでは、大学、イタリア、日本代表とハードスケジュールで試合をこなしていたことから、体が悲鳴を上げることもあったが、シエナでは全試合スタメン出場を果たし、攻守にわたって活躍した。

 昨季もパドヴァでも、イタリア100試合目となるゲームでMVPを獲得するなど、シーズンを通して高いパフォーマンスを発揮。コンディション作りに余念はなく、「体のケア、栄養面も専門家の指導を受けていますし、セルフケアも欠かさずに行なっています」と、ここ2年の充実ぶりを明かした。

 もちろん向上したのはコンディションだけではない。これまでの、イタリアでの5シーズンで成長した点について次のように自己分析した。

「トップの選手たちと過ごす中で、メンタル面が成長したと思います。プレーでは、高いブロックのかわし方や、ブロックアウトの技術は間違いなく上がったと実感しています。昨シーズンに関してはサービスエースの数も多くなるなど、サーブの数字もよくなりました。戦術的なサーブをチームに求められることが多いのですが、それに応えられるくらいスキルが上がっていると思います。力を入れる時、リラックスする時のメリハリを意識しています」

 主力として活躍する石川に対して、チームが求めるプレーもより高度なものになっていったはずだ。それに対応するには監督やチームメイトとの意思疎通が不可欠になるが、現在の石川は「コート内での指示や、相手チームの対策に関することも、問題なくイタリア語でコミュニケーションが取れている」という。


オンライン会見でミラノ移籍について語った石川(所属事務所提供)

 初めてイタリアでプレーしたモデナでは、チームの日本人スタッフを通してやりとりをすることも多かった。しかし、「3シーズン目あたりから」やりとりがスムーズにできるようになり、今では「コート外でのコミュニケーションも大事だと考えているので、もっと話せるようにしていきたいですね」と、よりチームメイトとの信頼関係を深める意識も高くなっている。

 ミラノでは、モデナでもチームメイトだったマテオ・ピアーノから学ぶことも多いだろう。石川も「彼とまた一緒にやれるのが楽しみ」と話す29歳のピアーノは、208cmのミドルブロッカーとして長らくイタリア代表で活躍してきた。石川がモデナに留学した翌年のワールドカップでは、対戦の後に「ユウキは、モデナにいた頃からすごく成長している」と驚いていたが、そこからさらに成長を遂げた石川は、彼にとって互いを高め合う存在になっているに違いない。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた、イタリアでのプレーにこだわった石川。不安もある中で決断を下した理由は、「世界のトッププレーヤーになりたい」という揺るぎない目標があったからに他ならない。ミラノのピアッツア監督から「チームプレーヤー」として期待されていることに対しても、「攻守の要となって、もっとステップアップしていきたいです」と力強く述べた。

 新天地が決まった石川は、長い自粛期間を終えて、ようやくボール練習が始められたところだという。体育館を借り、直上トスや2人組でのパスなど、少人数でできることから感覚を取り戻している最中だ。

 開催が延期された東京五輪に向けて、「結果を出すための1年」とした日本のエースは、6シーズン目を迎えるイタリアでの戦いでさらなる進化を目指す。