イートン校:1440年にヘンリー6世によって設立される。男子全寮制のパブリックスクールでウィリアム王子、ヘンリー王子の母校。19人のイギリス首相を輩出した名門中の名門。日本の海陽中等教育学校は創立時に同校を参考としており、生徒の短期留学を行っている。

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世界のトップエリートは、子供時代にどのような本を読んでいたのでしょうか? 今回は海陽学園の協力で、イギリスの超名門パブリックスクール、イートン校のブックリストを入手することができました。元外交官で作家の佐藤優氏が講評します。

これらのブックリストは、完全に将来、人の上に立つエリートに対象を絞って選ばれています。

その理由としては、アンソロジーが入っていないから。アンソロジーとは、日本の国語の教科書のように作品の一部を抜粋して編集した「選集」のこと。これは便利な加工食材で、あとは家で揚げるだけ。効率重視の大衆教育に用いられます。

それに対しリストの本は、すべてオリジナルです。肉なら肉、野菜なら野菜という素材を、そのまま生徒に渡している。だから、生徒はこれらの本を自分で料理しなくちゃいけない。塩、こしょう、スパイスを使って、味付けをする訓練を早くからさせている。エリートになる君たちには教科書だけでは足りないと言っているのです。

国際的な視野で、古典から現代作品まで幅広く読ませようとしています。なおかつ、人文系重視です。昨今は理系教育が重視されていますが、トップエリートを育成するには、文系教育重視だとよくわかります。

国際的な視野で、古典から現代作品まで幅広く読ませようとしています。なおかつ、人文系重視です。昨今は理系教育が重視されていますが、トップエリートを育成するには、文系教育重視だとよくわかります。

具体的に見ていきましょう。まず、イギリス人の常識として「シャーロック・ホームズ」「007」シリーズなどが入っている。

レマルクの『西部戦線異状なし』は、第1次世界大戦の総力戦の恐ろしさを教えるためにあります。イギリスは第2次大戦では空襲を経験していますが、第1次世界大戦では戦場になっていません。イメージが希薄なため、この本が必要なのです。

ハックスリーの『すばらしい新世界』、オーウェルの『一九八四年』、スウィフトの『ガリバー旅行記』などが入っているのは、ユートピア主義に対する警告です。イギリスには清教徒革命のトラウマがある。エリートというのは、ともすると理想に走って、物事を一挙に進めようとしてしまう。それでは失敗するということを教えています。

オバマの自伝は大統領が代わったら差し替えられるでしょう。いま、この瞬間に読むべき本として挙げられています。ロシアについてはホラー小説『ナイト・ウォッチ』や、実在したソ連時代の連続殺人鬼の話をモデルにした『チャイルド44』が入っている。どちらも映画化されていて、子供が入りやすい作品を選んでいます。ロシアのことは知らないといけないと考えているのが伝わってきます。

世界的にベストセラーとなった『ダ・ヴィンチ・コード』や、ラジオ番組を小説化したSFコメディー『銀河ヒッチハイク・ガイド』、ほかにも読みやすい青春小説などが多数入っています。これは大衆と話ができるリーダーに育てるため。日本の大正教養主義とは違います。日本の旧制高校の生徒は、菊池寛や吉川英治の話はしなかった。これらのリストからは、大衆に支えられないと民主主義社会のリーダーは務まらないと考えているのがわかります。

過去に禁書であったり、物議を醸した本は、ただ与えても子供は消化できません。宗教だったら、何に対するアンチなのかを教えなくてはいけない。『悪魔の詩』はイランのシーア派、『種の起源』はキリスト教原理主義、『ダ・ヴィンチ・コード』はカトリック。そういうアンチがあるところで、聖書とコーランも読んでみましょうと提案しています。

『わが闘争』や『共産党宣言』は、人々がなぜこのような思想に傾斜していったのか、考えながら読ませます。これらの本は悪についての勉強でもあります。将来、子供が大企業に勤めて、役員まで上り詰めたとき、社長から不正な会計処理をしろと言われたら、どう動くのか。悪に耐性がないと、判断を誤ります。

内容を自分で料理し、消化できるようにするには、書くこともセットでやらせましょう。人は理解していないことは書けないし、書けないことは本当には読めていないのです。

私がオススメするのは、「印象に残ったところを1カ所でいいから、書き写しなさい」と課題を与えること。引用です。最大でも1000字以内に内容は絞り込ませます。そして、引用した文に対して、思ったことを書かせる。もう1つは、要約です。1冊読んだら、書いてある内容をまとめさせます。これらができるようになったら、「敷衍(ふえん)」にも挑戦させましょう。敷衍とは、要約の逆で、詳しく説明すること。簡単なフレーズを引っ張ってきて、自分の言葉で説明させます。

親が指導するのが難しければ、本読みの家庭教師を頼むのも手です。多少高くても学生ではなく、大学の助教など、アカデミズムで仕事をしている人を選びましょう。読む力がついた小学高学年〜中学2年くらいまでにこの訓練をすることは、エリートへの登竜門になるはずです。

※ブックリストは、現在発売中の小社刊『プレジデントFamily 2015年秋号』をご覧ください。

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佐藤 優 作家、元外務省主任分析官
同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。外務省時代は優れた情報収集力と人脈を生かして、ロシアをはじめ世界のエリートと渡り合った。著書に『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞受賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮――ノンフィクション賞受賞)ほか、多数。

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(プレジデントFamily編集部=構成 海陽学園(イートン校)=写真提供 解説する人:佐藤優(作家、元外務省主任分析官))