関連画像

写真拡大

元妻に対する逮捕・監禁と不同意性交致傷の罪に問われた30代男性の裁判員裁判の判決が6月4日、広島地裁であった。國分進裁判長は、求刑通り拘禁刑8年の判決を言い渡した。被告人の男は無罪を主張していた。

配偶者間や元配偶者間でも性犯罪は成立するが、実際に立件されるケースは多くない。今回の事件では、被害者の証言以外にも、複数の客観的証拠があったことが有罪認定につながったとみられる。(ライター・小川たまか)

●呼び出された元妻、「嫌な予感」から伝言

事件が起きたのは、2025年7月23日の深夜だ。

この日、被告人は「子どもの養育について緊急で話がある」と元妻を自宅に呼び出した。二人は前年に離婚していたが、子どもの養育の都合から近所に住み、離婚後もたびたび顔を合わせていたという。

元妻が被告人の家に到着したのは午後11時ごろ。深夜の呼び出しだったことに加え、「嫌な予感」がしていたことから、子どもたちには午前0時までに帰宅しなかった場合は近くに住む親族に連絡するよう伝えていた。

しかし、午前0時を過ぎても帰らない母を心配した子どもたちが親族に連絡し、親族は明け方の4時過ぎに警察へ通報した。

午前5時ごろ、警察官が被告人の家に駆けつけた。

被告人は玄関先で「話し合っているだけ」などと説明したが、その後ろで元妻が首を振ったり、「たすけて」と口の動きでうったえたりした。

警察官が元妻を別の場所へ移動させて事情を聴いたところ、「タオルで首を絞められた」と被害を申告した。その日の夜、被告人は逮捕された。

●「自殺か他殺か選べ」「抵抗したら殺す」

では、警察が駆けつけるまでの間、被告人の家で何が起きていたのか。

起訴状などによると、元妻は午前0時ごろ帰宅しようとした。しかし被告人から腕をつかまれて引き止められたため、「密室で腕をつかむのはダメ」「あなたと私は他人だ」などと言って拒んだ。

元妻が玄関へ向かったところ、背後から首にタオルを巻かれて引き倒され、馬乗りになった被告人にそのまま首を絞められた。

さらに「自殺か他殺か選べ」「抵抗したら殺す」などと脅されたあと、口にタオルでさるぐつわをされ、「逃げれんように裸になれ」と言われ、服を脱ぐことを余儀なくされたという。

その後も革状の手錠や首輪をつけられ、再び「自殺か他殺か選べ」と言われるなどの暴行・脅迫行為があり、元妻は同意する意思を形成、表明、全うすることが困難な状態で性交等を強いられた。

元妻の首には、タオルで絞められたり首輪をつけられたりした際にできたとみられる擦過傷があり、事件翌日に全治8日と診断を受けている。

●スマホの録音が重要な証拠に

被告人は、性交等をおこなったことや、1度だけ「自殺か他殺か選べ」と発言したこと、革状の手錠や首輪を使ったことは認めた。

一方で、タオルで首を絞めたことや、「逃げれんよう裸になれ」と発言したことは否認し、「同意のもとのSMプレイだった」として無罪を主張した。

この事件で重要な物的証拠となったのが、被告人自身のスマートフォンに残されていた録音データだった。

被告人によると、元妻との話し合いでは「言った、言わない」の争いを避けるため、お互いの了承のもとで録音していたといい、この日も話し合い開始直後から録音していたという。

スマートフォンはリビングに置かれていたため、玄関や寝室などでのやり取りは聞き取れない部分もあった。しかし、録音には「自殺か他殺か選べ」「抵抗したら殺す」といった声が拾われていた。

被告人は「自殺か他殺か選べ」という発言について、自身に自殺願望があり、「自分が自殺するか他殺されるかを選べという意味だった」と説明した。

また、「抵抗したら殺す」についても、「元妻が口をモゴモゴさせていた」ため、口の中をケガしているのかと思い、確認しようとして発した言葉であり、性行為につながる脅迫ではなかったと主張した。

しかし、判決はこうした主張をいずれも退けた。

●元夫婦でも性犯罪は成立するが・・・

今回の事件では、録音データのほか、元妻の首の擦過傷について法医学者が「証言と矛盾しない」とする鑑定結果を示していた。さらに現場に警察官が臨場し、元妻から被害申告を受けている。

性犯罪は密室でおこなわれることが多く、客観的な証拠が残りにくいとされる。そのため、今回の有罪認定の背景には、被害者の証言だけでなく、それを裏付ける複数の証拠が存在したことが大きかったとみられる。

配偶者やパートナー(元配偶者や元パートナー含む)による性犯罪は、2017年の刑法改正以前から成立するとされていた。しかし、被害を申告しづらい現実などから、支援者らは明文化を求めていた。

その後、2023年の刑法改正で、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が配偶者間やパートナー間でも成立することが条文上明記された。

ただし、元配偶者間の事件では「夫婦だったのだから同意があったのではないか」「被告人は拒否されていると認識できたのか」といった争点が生じやすく、立件や有罪認定のハードルは依然として高い。

今回の裁判でも、弁護人は「これまで性交があった元夫婦が、このときだけ同意がなかったということがあり得るのか」「(それを)被告人が認識できるのか」といった点を裁判員に問いかけていた。

今回の判決は、元夫婦という関係であっても、同意のない性行為は明確に処罰の対象となることを改めて示した事例といえそうだ。