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ガソリンエンジンを2基積んだ唯一の乗用車

日本的に表現するなら、「大は小を兼ねる」。シトロエンが、2CV サハラを発表した時に用いた表現だ。当時のフランスが領地とした、北アフリカに暮らす人のため、農地以上に困難な環境での移動を想定したクルマだった。

【画像】オフローダーと呼べる走破性 2CV サハラ 半世紀前の個性的シトロエン 最新アミも 全136枚

しかし、四輪駆動化を目指した開発の方向性は、正しくなかったのかもしれない。同社史上、最も難解で奇抜な名作、いや迷作が誕生している。


シトロエン2CV サハラ/4x4(1960〜1967年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

長い自動車史で恐らく唯一、ガソリンエンジンを2基積んだ乗用車となったのが、2CV サハラ。その強みは、砂漠など過酷な状況下での耐久性といえ、片方のエンジンが故障しても、残りの1基で走ることが可能だった。

センタートンネル横の小さなレバーで、四輪駆動から前輪駆動へ切り替えられる。フロントエンジンだけを利用して走れば、消費するガソリンを減らせた。また、ボンネットを開き専用工具でフロントのクラッチを切り離せば、後輪駆動でも走れた。

2つのキーで前後のエンジンを個別に始動

フロア中央から突き出ているのは、前後の4速MTと結ばれたシフトレバー。通常の2CVでは、ダッシュボード下部から傘の柄のようにレバーが突き出ていることを、ご存知かもしれない。ノブはボール状で、メーター横にHパターンが記されている。

四輪駆動で発進するには、2つのイグニッションキーを回し、前後の水平対向2気筒エンジンを個別に始動する必要がある。遮音性は低く、バルクヘッド越しに空冷ユニット特有のノイズが車内を満たし、極めて賑やかだ。


シトロエン2CV サハラ/4x4(1960〜1967年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

前後のエンジンをシンクロさせる機構は、基本的にナシ。アイドリング時は、回転数が僅かに異なり、不協和音が少し耳障りといっていい。

想像以上に硬いシフトレバーを倒し1速を選び、通常の2CVと同じレバーでハンドブレーキを解除。重たい油圧式のクラッチペダルを緩めると、2CV サハラは1基目のエンジンで進もうとするが、クラッチは当然だが前後で別にある。

オフローダーと呼べる悪路の走破性

更にもう少し、数mmほど緩めると、残りのクラッチもつながる。ところが、アクセルペダルの踏み込み量が足りないと、一方のエンジンがストール。写真撮影のための細かな位置調整は、正直なところ難しい。

今回の車両を管理するドイツ国立自動車博物館の担当者は、エンスト後は1度クルマを止めて、始動し直すのが正解だと話す。MT車だから、片方のエンジンの勢いで押しがけできそうだが。


シトロエン2CV サハラ/4x4(1960〜1967年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

とはいえ、速度が乗ればさほど扱いにくくはない。エンジンは通常の2CVと変わらず、1基当たり13.5psを発揮しているはずで、合計27psと活発。1970年代に602ccの2CV 6が登場するまで、最もパワフルな仕様だった。

四輪駆動だから、急勾配も問題なし。ソレックス・キャブレターは改良され、ボディが大きく傾いてもガソリンは途絶えない。ストロークの長いサスペンションで、オフローダーと呼べる悪路の走破性を秘めている。

路面を掴む細いタイヤで45%の斜面を登れる

一方で、エンジンが1基多いことで車重は240kg重く、735kg。通常の2CVの5割増しといえ、加速は依然としておっとり。最高速度は99km/hと、100km/hを僅かに切る。大人4名を乗せて45%の斜面を登れると、当時のシトロエンは主張したが。

ツインエンジン版の残存数は、現在は100台以下と考えられており、最近めっきり見かけなくなった2CVの中でも超希少。これは博物館コンディションだから、オフロードでの試走は控えたものの、路面を問わずトルクは確実に太い。


シトロエン2CV サハラ/4x4(1960〜1967年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

急な坂へ向かうと、幅が150と細いタイヤがしっかり路面を掴み、そろそろ登っていく。このタイヤは、シトロエンDS 19から流用されたもので、通常の2CVより太い。指定の空気圧は9.5psiと低く、砂地でのトラクションが意識されている。

前後へトルクを割り振るセンターデフは備わらないが、軽快さは通常の2CVへ劣る。ステアリングは明らかに重く、追加されたエンジンがリアタイヤを路面へ押し付ける。

この続きは、シトロエン2CV サハラ(2)にて。