高輪の新名所「危なすぎる階段」

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 JR東日本が社運をかけ、3月27日に鳴り物入りで“まちびらき”が行われたばかりの「TAKANAWA GATEWAY CITY(以下、高輪ゲートウェイシティ)」。東京の新たな観光名所として定着しつつある町で、騒動が起こった。シンボリックな大階段が目の錯覚で平らに見えてしまい、境目が分かりにくく、落下事故が相次いでいると報じられたのである。

【気をつけて!】街中あちこちに…雨で濡れてツルツルになったタイル

 SNS上に大階段の写真が投稿されると、「怖すぎる」という声が上がった。2人がケガをしたという報道もあったが、実際に現地を訪れてみると確かに「これは危ない……」と感じる。現在はチェーンで柵が設けられているが、こうした“危険な階段”をはじめ、わかりにくい、使いにくいデザインが採用されてしまった施設は他にもあるという。

高輪の新名所「危なすぎる階段」

 商業施設、公共施設、オフィスビルなど、あらゆる施設でバリアフリーやユニバーサルデザインが重視されるのが当たり前になった。設計者は以前にも増して、入念かつ慎重に設計を進めているはずである。にもかかわらず、利用者を困惑させるデザインはなぜなくならないのだろうか。【取材・文=宮原多可志】

パソコンの画面とリアルは違う

 商業施設の設計などを手掛けたことがある建築家は、「設計者であれば誰もが、魅力的で、使いやすい施設になるようにデザインしているはずだ」と話す。もちろん、高輪ゲートウェイシティの大階段の設計者も同様の思いで設計を行っただろうし、「人が集まる空間になってほしいと考えたはずだ」と、擁護する。

 その一方で、現代の建築業界特有の問題点も指摘する。「パソコンの画面で設計をするのが当たり前になったことで、実際に施工すると、そのデザインがどう見えるのかという想像力が働かなくなっているように思える。その結果、危険な階段が誕生してしまうのでは」と推測し、このように話す。

「実際、パソコンの画面上で見る色と、実際に施工したときに見える色は違うのです。特に屋外では、天候、時間帯など、様々な条件で見え方が違ってくる。雨が降って濡れると、素材の色合いも変わったりします。多くの人が利用する公共的な空間であれば、あらゆる条件下でも使いやすいデザインを考えなければなりません。

 ところが、今の建築家やデザイナーはコンピュータ上のイメージを過信しすぎているせいか、それが完成形だと思ってしまう。建築の設計はパソコン上でシミュレーションするだけでは不十分です。階段に使う石材であれば、実物を見て素材の色や質感などを確かめないと、今回のようなトラブルが起こりやすいと思います」

デジタル化が進み過ぎた弊害か?

 建築設計の現場では、パソコン上で製図を行うことができるCADをはじめ、デジタル技術が盛んに導入されている。構造計算の手法も発展し、建築材料の改良も進んだことで、従来では考えられないようなデザインが実現できるようになった。

 しかし、建築物を利用するのは、いつの時代も“人”であることは忘れてはならない。そのためには、素材を手に取って確かめるなど、敢えてアナログな手法を徹底することが重要なようである。前出の建築家が言う。

「駅や公共施設で多いのが、雨で濡れるとツルツルになって、滑りやすくなるタイルです。実際、タイルがツルツルになるせいで、転倒した経験をお持ちの方はいらっしゃるのではないでしょうか。本来、多くの人が行き交う場所なのだから、そういったデメリットの大きい材料は使うべきではないんですよ。

 けれども、あまり深いことを考えず、“他の施設でも使われているから”と、難しいことを考えずに使ってしまう設計者が後を絶ちません。繰り返すようですが、こうした問題は設計者が材料について理解し、施工後のことについて想像を働かせれば防げることなのです」

 雨の場合を想定することも重要だが、日陰になったり、快晴になったときもイメージする必要がある。高輪ゲートウェイシティの大階段は快晴になるほど色合いが同化し、境目がわかりにくくなってしまう例だが、パソコン上のシミュレーションではなかなかわかりにくいようだ。

施設自体が使いにくく、わかりにくい

 ところで、近年の再開発で整備された商業施設を巡っていて感じる人もいるかもしれないが、動線が複雑でわかりにくいことが多いのである。近年の商業施設は、ショッピングモールなどを筆頭に、訪れた人が施設内を回遊して楽しめるようにと、敢えて曲がりくねった通路を用いるのが流行になっている。

 しかし、都心部に整備された施設は変形した土地を再開発したものが多いこともあって、動線がシンプルにならず、内部が迷路のようになってしまいがちである。施設内を回遊して楽しめるのは、「ドン・キホーテ」や「ヴィレッジヴァンガード」くらいであろう。

 そして、昨今の商業施設は入口が複数あるため余計にわかりにくく、地図を頼っても迷ってしまうという指摘もある。誰でも使いやすいユニバーサルデザインが主張されているが、だんだんそこから遠ざかっている気がしてならない。再開発で建設される施設が人気を集めるためには、訪れやすく、館内の設備が使いやすく、迷いにくい施設にすることが重要だと思われる。

デイリー新潮編集部