イギリス人の父、日本人の母を持つモデルが「世界一幸せな国」フィンランドを目指した理由

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毎年発表される「世界幸福度報告書」で、2025年もフィンランドが8年連続で1位に選ばれました。「世界一幸せな国」として知られるこの国で、人々はどんな教育を受け、どんな暮らしをしているのでしょうか。

その答えを探るため、フィンランドを訪れたのが、モデルとして活躍しながら上智大学で「サステナビリティ」と「教育」を研究する静華ジャズミンさんです。大学の授業プログラムの一環として現地を訪れ、マイナス20度にもなる北部の地で、人と自然、教育のあり方に触れました。

イギリス人の父と日本人の母のもとに生まれ、多文化の中で育ったジャズミンさん。現在は、ファッションやカルチャー、教育について二カ国語で発信する一方、中学生向けの自然ワークショップの企画や絵本制作など、次世代へ経験をつなぐ活動にも取り組んでいます。そんな彼女がフィンランドで出会ったのは、「教育」の本質を問い直すような体験でした。「世界一幸せな国」と呼ばれる場所で、ジャズミンさんは何を見て、何を感じたのか。そして、日本との違いをどう捉えたのか。その体験を綴ります。以下、ジャズミンさん自身による寄稿の前編では、ジャズミンさんがフィンランドで学びたいと思うまでをお伝えします。

多様性を肌で感じた幼少期

東京で生まれ、イギリス人の父と日本人の母のもと、4人兄妹の二番目として育ちました。上に兄が1人、下に妹が2人います。家庭内では英語と日本語が自然に飛び交い、幼いころから複数の文化に囲まれて過ごしてきました。

小学2年生のとき、親の仕事の都合でシンガポールへ移住しました。そこで中学2年生まで通ったインターナショナルスクールには、60カ国以上の国や地域から生徒が集まっていました。しかし、渡航前の私は英語をほとんど話すことができず、不安を抱えたまま新しい環境に飛び込みました。授業はもちろん日常の会話もすべて英語。最初のころ、先生との会話の中で、英語だと思っていた「段ボール」という言葉を使ったとき、びっくりしたように「段ボール?」と聞き返されたことを、今でもよく覚えています。まさにゼロから言語を学ぶ日々でした。

そんな中で強く印象に残っているのが、ランチタイムの光景です。日本の給食に慣れていた私にとって、それはまるで別世界でした。東南アジアの葉っぱに包まれた見慣れないお弁当スパイスの香り、ジップ付きの袋に入ったピーナッツバターのサンドイッチ。さらに、イスラム教徒の教えに基づくハラルの食事や、ベジタリアンのメニューが当たり前のように並び、それぞれが自然に共存していました。その光景の中で私は、多様性という言葉の意味と、「正解はひとつではない」ということを、実感をもって学んだのです。

中学卒業を前に、大都会シンガポールから一転、長野県・八ヶ岳の南麓に家族と一緒に移り住みました。大自然と共生する田舎での生活は、これまでの都会暮らしとは正反対の世界でした。

高校は、英語を学び続けたいという思いから、単身東京へ。英語で会話する学校に通うことで、自分の将来の仕事の可能性を広げたい、たくさんの人と話せるようになりたいという気持ちがありました。シンガポールで世界各国の友人たちと交流した経験が、私にとっての大きな原体験になっていました。東京では、知り合いの方の家にホームステイをしながら生活を始めました。そのころ、スカウトを受けWWDの表紙でモデルデビュー。モデルとしてのキャリアは、自分から目指したものではなく、「出会い」によって始まったものでした。

大学の学びをブランドで実践

現在は、モデル活動を続けながら、上智大学に在学しています。履修しているのは、「Sophia Program for Sustainable Futures(SPSF)」という持続可能な未来をつくるリーダーを育てるプログラム。このプログラムが開設された2020年に、私は入学しました。国同士のコミュニケーションや関係性について学ぶ「国際関係論」を軸に、「サステナビリティ」や「これからの教育のあり方」について研究しています。

このプログラムに出会ったのは、長野に戻って受験勉強をしていた頃です。当時、家の周りの森を眺めながら、「今年は雪が少ないな」「カメムシが出るのが早いな」と、自然の変化を肌で感じていました。こうした日常のささいな変化に疑問を持ち、「もっと深く学びたい」と考えるようになったことが、私の原点です。

私の大学生活は、コロナ禍とともに始まりました。授業はすべてオンライン。片耳で講義を聞きながら、もう片方の耳ではオーディションの順番を待つという、慌ただしい日々でした。そんな生活の中で、私は常にひとつの問いを抱いていました。それは、「大学で学ぶサステナビリティ」を「仕事であるファッション」とどう繋げられるか、ということです。

大学2年生になるころには、こうした学びを実際に活かしたいという思いが強くなっていました。コロナ禍で学びを直接活かす機会が少ない中、自分でアウトプットの場を見つけたいと思っていたのです。

ちょうどそのころ、友達が持っていたバッグを通して出会ったのが「KNT365」というブランドでした。リサイクルされたペットボトル素材を使い、日本の自社工場で生産しているエコバッグのブランドです。思い切ってInstagramから連絡し、コラボレーションを提案しました。返事が来るかどうかもわかりませんでしたが、無事に返事があり、そこからコラボレーションが始まりました。私はデザインに関わり、撮影のチームディレクションなども担当。実際に2回のコラボバッグを制作し、新宿伊勢丹などでも販売されました。この取り組みは、学校で学んでいた「持続可能な未来」をひとつの形にできた大切な経験です。

「経験」は学ぶ姿勢次第で変わる

「KNT365」とのコラボレーションをきっかけに、私はデザインを基礎から学びたいと思い、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ大学を受験しました。せっかく芸術を学ぶなら、世界的に有名な大学で学びたいと考えたのです。上智大学は2年間休学し、渡英しました。

ロンドンで学ぶ正解のない「アートの世界」と、上智大学で学んだ理論的な「国際関係論の世界」や「サステナビリティ」と「教育」。学ぶ内容も、集まる人も、先生の考え方も全く異なる世界を行き来する中で、私は教育とは誰かに与えられるものではなく、自分自身で選び取るものだと気づきました。たとえば、デザインの経験を通じてもっと学びたいと思ったとき、興味をそのままにせず、大学で学ぶことを選んだように、学ぶ姿勢次第で経験の意味は大きく変わるのだと思います。

ロンドンから帰国し、復学後に受けた「未来の教育」という授業も私に大きな影響を与えてくれました。国連のレポートをもとに、これまでの教育とこれからの教育の変化を学び、「2050年までの教育」について議論する授業です。宿題もまさに「未来の教育」の一環でAIを活用します。まず、レポートのひとつのチャプターをChatGPTに読み込ませてポッドキャスト化し、それを聞きながら印象に残ったことをメモにまとめます。そのメモを再びChatGPTに入れて、1枚の画像にしてもらいます。そして、その画像をもとに授業で自分の考えを発表し、議論を行います。同じ資料を使っていても、できあがる画像は人それぞれ全く異なり、自分が何を大切にしているのかが見えてきました。

学ぶことは自分自身を豊かにすること

AIや環境問題が加速する中で、私たちは何を学ぶべきなのか。この授業は、これまでの私の経験を見つめ直す時間でもありました。この授業を通じて、シンガポールで学んだ多様性や、長野での自然と隣り合わせの生活での経験も振り返りました。たとえば火を作るとき、最初にダンボールと紙をたくさん入れると一時的に火は大きくなりますが、すぐ消えてしまいます。長く続く火を作るには、最初にダンボールと紙、その後に枝、そして大きな薪を重ねていく必要があります。生活の中で学んだこうした小さな経験が、生きるための教育や学びの理解につながるのだと実感しました。「自然って大事だよね」だけではなく、自然とどう共存していくか、自分の目で見て体で感じることが大事だと思ったのです。

自分の経験が授業で言葉になっていくのが楽しく、積極的にディスカッションにも参加するようになりました。モデル現場で、メイク中にクリエイティブな大人たちと語り合う時間も学びのひとつです。自分のスタイルや価値観をしっかり持つ彼らと接することで、文化やファッションはすべてつながっていることを実感しました。それまでの私は大学を出て大手企業で働くことが正解だと思っていました。しかし、好きなことを仕事にする大人たちと触れ合ううちに、授業で学ぶことは将来のためだけでなく、自分自身を豊かにするためにあると感じるようになりました。

また、「人間と自然のコミュニティ」という授業を受けたとき、長野での出来事を思い出しました。日本に帰国してすぐの冬、実家の水道管が凍ってしまい、一週間も水が使えなくなったことがありました。私の家族は本当に困っていたのですが、それを見た近所の方が「うちにきなさい」と温かく迎え入れ、一週間も一緒に生活させてくれたのです。自然の中では、自分たちの力だけでは解決できないことが起こります。だからこそ、人と人の助け合いが暮らしを支えてくれるのだと身をもって学びました。

こうした学びや実体験が重なり、フィンランドで国連のカンファレンスがあると聞いたとき、「私の経験を活かすために、絶対に参加したい!」と強く思いました。

◇後編【「世界一幸せな国」フィンランドの教育の秘密…体験してわかった日本との違い】では、ジャズミンさんがマイナス20度のフィンランドで何を感じ、日本との「学び」の違いをどう捉えたのか。その体験を綴ります。

【後編】「世界一幸せな国」フィンランドの教育の秘密…体験してわかった日本との違い