夫が退職金「1000万円」で住宅ローンを“一括返済”したいと言っています。貯金も「1000万円」ありますが、手元資金を減らしてしまって老後は本当に大丈夫でしょうか…?
老後の平均的な家計は毎月赤字となる傾向
まず確認したいのは、老後の家計収支の実態です。
総務省統計局「家計調査報告[家計収支編]2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、1ヶ月の実収入約25万円に対し、消費支出と税・社会保険料を含めた月の支出はそれを上回り、毎月4万円程度の赤字となる水準とされています。
つまり、年金収入だけでは生活費を賄いきれず、不足分を貯蓄から取り崩す構造が一般的といえます。このため、退職時に保有している資産が老後生活の継続性に直結します。
老後生活費は「最低限」と「ゆとり」で大きく異なる
次に、老後に必要とされる生活費の水準です。
公益財団法人生命保険文化センターの調査によれば、夫婦2人の老後生活費については、最低限の生活費で月23万9000円、ゆとりある生活を送る場合は月39万1000円といった水準が示されています。
この差は、旅行や趣味、交際費などの支出を含むかどうかによるものであり、どの水準を前提にするかによって必要な資金額は大きく変わります。
したがって、「老後は問題ないか」を判断するには、単に貯蓄額を見るのではなく、どの生活水準を想定するかを含めて考える必要があります。
一括返済のメリットは「固定支出の削減」
ここで、住宅ローンを一括返済するメリットを確認します。
住宅ローンを完済すれば、毎月の返済がなくなるため、固定支出を減らすことができます。また、将来支払う予定だった利息を削減できる点も大きなメリットです。さらに、住居費の見通しが立ちやすくなるため、心理的な安心感につながる側面もあります。
特に、老後に入ってからのローン返済は家計を圧迫しやすいため、退職時点で返済を終えるという考え方自体には一定の合理性があります。
一方で「手元資金の減少」が最大のリスク
ただし、一括返済には明確な注意点もあります。
最も大きなポイントは、手元資金が減少することです。今回のケースでは、退職金1000万円を返済に充てると、残る貯蓄は1000万円となります。
前述のように老後の家計収支は毎月赤字となる可能性があるため、仮に月4万円の取り崩しが続くとすると、年間約48万円、単純計算では20年程度で資金が減少していくことになります。
さらに、医療費や介護費といった突発的な支出が発生した場合には、想定より早く資金が減る可能性もあります。このため、流動性の確保、つまり「すぐ使えるお金をどれだけ残すか」が重要になります。
判断は「返済後にいくら残るか」で分かれる
今回のケースを当てはめると、判断の分岐点は「返済後にいくら残るか」であると考えられます。
退職後の生活費を賄うために十分な資金が残るのであれば、一括返済による固定支出削減は有効と考えられます。一方で、返済後の資産が生活費や突発的支出に対して余裕のない水準になる場合には、全額返済ではなく一部繰上げ返済にとどめるといった選択も現実的です。
また、住宅ローンの金利が低い場合には、資金を手元に残しておくことの価値が相対的に高くなるケースもあります。
まとめ
住宅ローンの一括返済は、利息負担の軽減や固定支出の削減というメリットがある一方で、手元資金を大きく減らす点が最大の注意点となります。
老後の家計は統計上も赤字となるケースが多く、貯蓄の取り崩しを前提とするため、「いくら返すか」ではなく「いくら残るか」が判断の軸となります。
したがって、退職金を使った一括返済を検討する際には、老後の生活費水準と取り崩し期間を踏まえたうえで、資金の余裕を確保できるかどうかを基準に判断することが重要といえるでしょう。
出典
総務省統計局 家計調査報告[家計収支編]2025年(令和7年)平均結果の概要 II 総世帯及び単身世帯の家計収支 <参考4> 65歳以上の無職世帯の家計収支(二人以上の世帯・単身世帯) 図1 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支 -2025年-(18ページ)
公益財団法人生命保険文化センター 2025(令和7)年度生活保障に関する調査 第III章 老後保障 2.老後生活に対する意識 (2)老後の最低日常生活費(112ページ)、(5)ゆとりある老後生活費(120ページ)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
