過剰在庫なのになぜ高い? JAと農水省の“我慢比べ”と専門家が紐解く「4000円割れ」の時期
「在庫過剰」でも安くならないワケ
コメの価格は一体いつ下がるのだろうか。
農林水産省の発表によると、2月16〜22日にスーパーで販売されたコメ5キロの平均価格は4118円。2週連続で値下がりしたとはいえ、昨年の9月以降4000円台の高値が続いている。逆に、1月半ばごろから下がり始めていた銘柄米の平均価格は、前週より12円高い4221円だ。
’25年産の収穫量は746万8000トンで、前年より67万6000トン多かった。しかも’25年産米の需要見通しは697万〜711万トンとされており、供給が36万〜50万トン上回る。過剰状態にもかかわらず、コメの価格はなぜ下がらないのか。
コメ事情に詳しい宮城大学の大泉一貫名誉教授は「2つの理由がある」と見る。
「理由の一つに、各地のJAが農家に前払いする『概算金』が高かったことがあげられます。概算金は通常の年で60キロ1万2000円ぐらいです。ところが、’25年産米の概算金は3万円から3万5000万円に引き上げられました。仕入れ値が高いため、JA全農などの集荷団体は卸業者に販売する際の『相対取引価格』を簡単には下げられないわけです。
今、最もコメの在庫を抱えているのは集荷業者です。JAは資金が潤沢で在庫を持ち続けることができます。だから強気の姿勢で、今はまだ損をしてでも安値で卸す考えはないんでしょう。
しかし、資金を工面して高い買い取り価格で農家からコメを集めたJA以外の集荷業者は、いつまでも在庫を抱えていられません。そろそろ損切りせざるを得なくなってきている。そのため、卸業者がJA以外の集荷業者から仕入れる動きが出てきています」(大泉一貫名誉教授、以下同)
コメの相対価格は昨年10月に玄米60キロ当たり過去最高の3万7058円だったが、今年1月には3万5465円に下がっている。
「相対価格が最高値から1600円下がったということは、下げ圧力が確かに働いてはいます。
ただ、相対価格の下がり幅が大きくないと、小売価格に反映しません。実際、小売価格は5キロ4300円から100円か200円ほどしか安くなっていない。集荷業者も卸業者も様子見をしているからで、それがコメの価格がなかなか下がらない2つ目の理由です」
値下げの鍵は「備蓄米」に
その「様子見」に関係してくるのが、’26年産米の政府による「備蓄米の買い入れ」だと大泉名誉教授は指摘する。
農水省は一昨年来のコメ不足で停止していた政府備蓄米の買い入れを’26年産から再開する方針で、「従来通り年明け1月以降、数回程度の一般競争入札により、21万トンの買い入れを予定」している。
「通常は1月から入札が始まり、だいたい端境期まで続きます。それが、現時点でまだ実施されていません。衆議院選挙と重なったためらしいですが、農水省に入札時期を尋ねたら『検討中でわからない』と返ってきました。
それで今、JAをはじめとする集荷業者や卸業者は、農水省が備蓄米の入札予定価格をいくらと出すか注目しています。どうしてか。入札予定価格が事実上、概算金の基準になる可能性が高いからです。概算金はだいたい、入札予定価格より2000円から3000円高くなる感じでしょうか。
たとえば、備蓄米の入札予定価格が2万円だとすれば、概算金は60キロ2万2000円〜2万3000円。その場合、小売価格は5キロ3000円から3500円ぐらいになります。ただし、政府備蓄米の入札価格はこれまで、1万5000円を超えたことがないんです。
だから集荷業者も卸業者も、政府備蓄米の入札予定価格がいくらになるか、様子見せざるを得ない。一方の農水省は、’25年産米の価格を見通して入札予定価格を決める必要があるのに、高値が続いているためなかなか安い価格で決められないでいる。今、農水省もJAも我慢比べをしている状況ではないかと私は推測しています」
農水省はすでに、昨年放出した備蓄米約59万トンを今後の需給状況などを見定めた上で買い戻すことも公表している。
「政府が備蓄米の買い戻しを実施すれば、集荷業者や卸業者は価格を下げる必要がなくなります。価格の高止まりはまだまだ続くことになるでしょうね」
コメの価格が高止まりするも値下がりするも、農水省次第ということか。鈴木憲和農水大臣は「コメの価格はマーケットで決まるべきもの。コミットしない」と繰り返し主張しているが。
「コメの場合は他の農産物と違って市場がありません。コメの価格を決めているのはJA全農と農水省と言っていい。
ここでもし、入札予定価格は1万5000円と先行してアナウンスされれば、’25年産米の価格は下がり始めるでしょう。ところが、業界関係者の間で2万円か2万5000円という話が出ているものだから、業者はこぞってもう少し待つ気になっているんじゃないでしょうか」
入札予定価格は1万5000円か、それとも2万円か。大泉名誉教授はどう予測しているのだろうか。
「農水省は2万円の入札予定価格を出してくるであろうと私は見ています。決算期の3月末から4月の初めには、小売価格が5キロ4000円を切るんじゃないでしょうか。4月以降は、7月にかけて限りなく3500円台に向かって下がっていくだろうと思います」
どうやら’25年産米の価格は、端境期を迎えても3500円以下に下がることはなさそうだ。では、’26年産米の価格はどうなるのか。
「農水省が示す’26年産米の生産量は711万トンですが、40道府県が設定した『生産の目安』の合計は1月16日時点で725万と、需給見通しを14万トン上回ります。つまり、’26年産米も過剰になることが予測できるわけです。
入札予定価格は2万円ぐらいで、概算金は平均で2万2000円か2万3000円。私は新潟コシヒカリの概算金は2万6000円ぐらいになるのではないかと踏んでいます。そうすると、小売価格は5キロ4000円を割る。他の銘柄米はもっと安くなりますから、3000円台の前半ぐらいに落ち着く気がします」
輸入米「95倍」! 国産米の危機
財務省が1月に公表した貿易統計によると、’25年に海外から民間輸入されたコメは9万6834トン。なんと’24年の95倍だという。1キロ当たり341円の関税を払っても海外産米に割安感があることが、輸入拡大の要因だ。
「国産米が3500円を超えると、輸入米のほうが安くなります。背に腹は代えられない外食事業者は、海外産に頼るという選択をするでしょうね。
これは日本の稲作にとって自殺行為ですよ。しかし、輸入米の拡大を危惧するコメ農家は、果たしてどれほどいるでしょうか」
農水省は先月27日、全国の精米業者が’25年7月から今年1月までに精米した玄米の量が、前年同期より6%少ない186万9000トンだったと発表した。さらに「精米数量は販売数量に直結し、店頭での販売が鈍っていることを示す」と説明。消費者の国産米離れが進んでいることは確かなようだ。
「前政権が『増産にカジを切る』と転換したコメ政策を、高市(早苗)政権は『需要に応じた生産』と元に戻しました。政府が来年から増産すると決め、コメの価格を下げる方針を示さない限り、国産米のシェアはどんどん減っていくでしょう。
高市首相は食料安全保障の強化に向けて、農業の構造転換を進めると言っています。そうであれば、一番はコメですよ。
コメを輸出できるぐらい作っておいて、いざという時に国民がコメだけでも食べられる状況にしておくことが、食料安保のいろは。日本の安全保障は防衛力の強化より、まずはコメの増産からです」
果たして、価格を気にせずコメを購入できる日は夏までに訪れるだろうか……。
▼大泉一貫(おおいずみ・かずぬき) 農業経済学者、宮城大学名誉教授。1949年、宮城県生まれ。東京大学大学院農業系研究科修士課程修了。宮城大学教授、同副学長などを歴任。著書に『日本農業の底力』(洋泉社)『希望の日本農業論』(NHK出版)『フードバリューチェーンが変える日本農業』(日本経済新聞出版)など。
取材・文:斉藤さゆり
