パーソナライズの先に落とし穴も Glossy & Modern Retail編集長と再考する、 AI 時代のブランド接点

記事のポイント AIによる過度なパーソナライズは利便性を高める一方で、新しいブランドや商品との偶発的な出会いを奪うリスクもはらんでいると指摘した。 AIが生成したペルソナを活用することで、ターゲティング精度と意思決定速度が向上し、マーケティング施策の設計が大幅に効率化されている。 検索行動の変化により、SEOに代わってGEOが重要性を増し、対策が不十分なブランドは財務面での影響を受けかねない局面に入った。
時代の移り変わりや消費者の動向にことさら敏感なファッションやビューティーの世界、そして顧客と直に接する小売業界は、今まさにAIがもたらした変化の最前線に立っている。あらゆる領域を急速に変えつつあるAIは、商品やサービスと新たな出会いにも大きな影響を与えているようだ。12月2日に開催された「DIGIDAY BRAND LEADERS 2025」にビデオ出演した米Glossy & Modern Retail編集長ジル・マノフは、「AIが変えるブランド接点」をクローズアップ。ほかの業界にも参考となる、ファッション、ビューティー、小売業者におけるAI時代の最新ブランド戦略を3つの視点から紹介した。◆ ◆ ◆
過度なパーソナライズがもたらすリスク
最初に取り上げたのは、「AIによる過度なパーソナライズがもたらすリスク」について。アルゴリズムの精度が上がっていくにつれ、個人の好みにどんどん偏りが生じ、好きなものばかりを目にするようになる。それはユーザーにとって心地の良い体験である一方で、新しいアイデアやこれまで知らなかった魅力的な商品やサービスに出会う機会の損失にもつながってしまう。「お気に入りのブランドを見たい」という欲求と、「まだ知らないブランドからインスピレーションを得たい」という思い。これらを同時に叶えようとするのが、eコマース界をけん引するジュリー・ボーンスタイン氏が2025年6月に立ち上げたファッションショッピングプラットフォーム「デイドリーム(Daydream)」だ。「専属のAIショッピングエージェント」とも呼ばれるデイドリームを実際に試したところ、パーソナライズの点でやや不十分な印象を受けたものの、この仕組み自体に大きな可能性を感じたという。すでに多くのブランドが売上の20%にあたる手数料を支払うことにも納得し、提携を開始。ChatGPTなどでブランドを自然に露出させることが難しい現状を踏まえると、こうした専用プラットフォームの価値は今後さらに高まっていくという。ターゲティングに、AIで生み出したペルソナを活用
次に注目するのは、「AIが変えるターゲティング」。従来のマーケティングでも、商品に関心を持つ顧客層に的を絞り、効果的にリソースや投資を集中させるためにペルソナを定義してきた。そんな「その商品に出会うべき顧客」を、AIによってより明確にしたのが、ビューティーブランド「ビークマン・エイティーン・オーツー(Beekman 1802)」だ。同ブランドは外部企業の協力を受け、購買データを詳細に分析。そこから、お得に買い物を楽しみたいタイプ「バジェット・ベティ(Budget Betty)」と、多少価格が高くても高品質な商品を好み、一度に多くを購入することもあるタイプ「ラグジュアリー・リンダ(Luxury Linda)」を生み出した。その結果、ターゲットがよく利用する販売チャネルに発信先を絞ることや、効果的なメッセージを打ち出すことに成功しているという。バジェット・ベティ、ラグジュアリー・リンダとのやりとりを通して購買動機やどんな要素が行動を促すのかも深く知ることができるので、「今すぐ購入」という簡潔なCTAがよいのか、ほかのメッセージが必要なのかも、わずかな時間で決まる。同ブランドCDO(最高デジタル責任者)デイビッド・ベイカー氏は「以前は数週間かかっていたクリエイティブのブレインストーミングが、今では1時間以内で完了するようになった」と話しているそうだ。SEOからGEO(生成エンジン最適化)の時代へ
そして最後は、「GEO(生成エンジン最適化)が、新たな SEO(検索エンジン最適化) になりつつある」こと。EC向けのマーケティング自動化ツールを提供するオムニセンド(Omni Send)が2025年8月に発表した調査では、米国消費者の約60%が「すでにオンラインショッピングで、生成AIツールを利用したことがある」と答えている。ブランドや小売業者は、GoogleやYahooなどの検索結果で上位に表示されるよう研究を重ねてSEOノウハウを磨いてきた。しかし今後、最適化する先はChatGPTやPerplexityのようなAIプラットフォームに変わっていく。AIエージェントがチェックアウト機能を備えはじめ、ShopifyやEtsyに出展するブランドではすでにGEO導入が進んでいる。こうした流れを踏まえると、その影響は無視できず、対策が不十分なブランドは今後、財務面での影響を受ける可能性がある。AI検索の最適化:4つの事例
現時点でGEOのベストプラクティスはまだ確立されていないが、AI検索で自社商品を見つけてもらうには、ブランド側が価格やカテゴリ情報なども含めた十分な商品データを提供しておく必要があるだろう。そんなAI検索の最適化にいち早く取り組んでいるのが、次の4社だ。大手総合小売チェーン「ターゲット(Target)」
ユーザーとの継続的なブランド接点を確保するため、「価格」「製品」「プロモーション」「在庫状況」「販売ポリシー」といった5つの主要情報を優先項目に設定。「4人分のグルテンフリーでヘルシーな夕食、20ドル以下、アトランタで受け取れる」と検索すると、AIが該当地域にある店舗の在庫あり商品を、表示する仕組みを構築している。フルーツブーケを配送するブランド「エディブル・ブランズ(Edible Brands)」
ユーザーの疑問に答えるQ&A形式の長文コンテンツを、誰でも読みやすい構成にすることを意識。加えてAI エージェントやLLMがコンテンツを正確に読み取り、商品の価値をより深く理解できるよう、メタデータの構造化にも力を入れている。クリーンビューティー専門の小売業者「クレド・ビューティー(Credo Beauty)」
「オリーブ肌向けのファンデーション」のような人気検索ワードを詳細に分析。それに基づいたサイト内コンテンツの最適化に注力している。男性向けグルーミングブランド「エブリ・マン・ジャック(Every Man Jack)」
レディット(Reddit)のような匿名コミュニティ型プラットフォーム上で実際に使われている自然な会話を、LLMが学習・参照する傾向を発見。そのコミュニティで対話を促す活動を強化し、段階的にブランド認知を高めているほか、消費者の目には見えないLLM専用コンテンツを自社サイト上に設置する実験も行っている。変化の最前線に立ち続けるために、ブランドが取るべき戦略は数多く存在する。マノフ編集長は「紹介した事例が少しでも学びになればうれしい」と述べ、ビデオメッセージを終えた。こうした事例を通じて、AI時代におけるブランド接点の再設計を促し、ビデオメッセージを締めくくった。文/山本千尋、撮影/山口雄太郎Image:ChatGPT
