※この記事は2022年01月02日にBLOGOSで公開されたものです

元経産省官僚の宇佐美典也さんに「私が○○を××な理由」を、参考になる書籍を紹介しながら綴ってもらう連載。第23回のテーマは、2022年の日本社会の展望について。舵取りの難しい一年になる一方で、重要な年であるということの裏返しだと宇佐美さんは指摘します。

私が2022年は日本にとって重要な一年になると思う理由

さて2022年になりました。明けましておめでとうございます。

とはいえ新年早々この記事が出ていることからもわかるように、執筆している今この瞬間はバリバリ2021年の年末なわけですが、まぁ兎にも角にも年は明けました。明けましておめでとうございます。

2022年は重要な年 コロナ禍から正常モードへ

ということで年明けらしく、今回は2022年を占うような記事を書いてみることにした。とはいえ私個人の知識では限界があるわけで、今回はみずほリサーチ&テクノロジーズの調査の粋を結集した「経済がわかる論点50 2022」を眺めながら考えることにした。このシリーズはコンパクトに世界経済、日本経済の動きがまとまっているので強くオススメしたい。色々問題もあるが、なんだかんだ言ってもやっぱりみずほグループの調査力はすごい。

ということで私が同書を眺めながら取り上げることにした2022年の政治テーマは以下の4つである。

【コロナ対策と国内消費喚起策のバランスをどう取るか?】
【少子高齢化と移民受け入れのバランスをどう考えるか?】
【コロナ後の財政再建をどう考えるか?】
【米中対立が加速する中、サプライチェーンをどう再構築していくか?】

2022年はコロナ禍という異常事態から、正常モードに転換するための道筋を徐々に模索していかなければならない。そういう意味では難しい年ではあるが、裏返せば重要な意味を持つ年となるであろうことも間違いない。以下それぞれ見ていく。

【① コロナ対策と国内消費の喚起策のバランスをどう取るか?】

日本の足元のGDP成長率を見ると、2019年は▲0.5%、2020年は▲4.5%という具合でマイナス成長が続いたが、同書では2021年には3.8%、2022年は3.7%と経済の回復が予測されている。そういう意味では2021年はコロナでダメージを受けた経済がある程度回復した年であったのだが、その回復の仕方は「K字回復」と呼ばれ、業界間の差がはっきり出たものだった。

これは日銀短観などを見ても明らかで、電機、産業機械、ITなどの業界で極めて好調な見通しが持たれている一方、対個人サービス、宿泊・飲食サービスの先行き見通しは相変わらず暗い。2021年に続き2022年も高い経済成長を望むなら、この両産業間の格差を埋めて「K字回復」から「V字回復」に転換していく必要がある。

そうなると、いわゆるGoTo関係政策など飲食/観光産業の再始動を後押しすることが非常に重要になってくるのだが、一方でオミクロン株の登場もありワクチン2回接種での集団免疫獲得は夢と消え第六波が来るのはほぼ間違いなく、飲食/観光産業の支援と感染対策をどう両立させるか、が問われることになる。

おそらくはある程度の感染の広がりを許容し、ワクチン接種証明アプリと連動させる形でブースター(3回目)接種を終えた人のみが対象となるような形でGoTo関連施策などが展開され医療資源の逼迫状況を見ながらマイナーチェンジを繰り返すことになると思われるのだが、これはかなり難しい舵取りになるのは間違いなく、岸田政権のコミュニケーション力、マネジメント力が試されることになるだろう。

【② 少子化、人手不足と移民受け入れのバランスをどう考えるか?】

続いていわゆる移民問題についてである。

日本は2010年ごろから人口減少社会に突入しているわけだが、この間外国人人口は200万人強から290万人弱へと増加し、労働人口の減少のスピードを緩和してきた。他方で外国人技能実習制度の悪用に代表される我が国の外国人の受け入れ体制の問題や、移民の増加に伴う社会的反発も徐々に増しており、そこにコロナによる検疫体制の強化も重なり我が国の移民政策は曲がり角を迎えている。

ただ現実問題、建設業や製造業や福祉関連業界では人手不足が常態化して有効求人倍率が高止まりしており、このままでは現場が回らなくなるので外国人労働者に頼らざるを得なくなってきているのも間違いない。先日も「規制緩和で1人で4人介護可能に」というニュースがやや炎上したが、この背景には全く解消に目処が立たないいわゆるエッセンシャルワーカーの人手不足の問題がある。

必然的に岸田政権は、エッセンシャルワーカーの労働環境の改善と、業界の生産性向上を進めつつ、他方で外国人労働者の受け入れも進めて人手不足にあらゆる手を尽くして対処していかなければならないのだが、一方でこうした移民の増加が政治問題化するのは世の常である。コロナ禍という逆風の中で、世間の納得のいく移民政策のフレームを示せるかどうか岸田政権及び各党の主張に注目したい。

【③ コロナ後の財政再建をどう考えるか?】

昨年財務省の矢野康治事務次官の論文が物議を醸したが、コロナ対策で財政が拡張する中で「財政再建」という言葉が忘れ去られつつある。実際いわゆる「骨太の方針」では、従来「2025年度」とされていた「プライマリーバランスの黒字化目標」の目標年度については、2021年度中に見直すとされている。

ここでそもそも論に戻るが、日本は日銀の方針で金利が0%近傍に押さえ込まれており、短期的には財政赤字が続いても大きな問題が起きない。ただこのまま金利が0%近傍に押さえ込まれ続けると、銀行、特に国内融資中心の地方銀行の経営が圧迫され、経営モデル自体が壊れてしまう恐れがある。金融が壊れれば当然経済にも波及する。近年本業赤字の銀行が増え続けこうした懸念が現実味を増していたわけだが、足元では幸か不幸か地銀は政府の保証もありコロナ対応の緊急融資で息を吹き返している。

ただいずれにしろ日銀がどこかの段階で利上げしなければ国内の金融環境は徐々に壊れていくわけで、政府としても日銀が利上げできる環境を整えるには財政再建しなければいけないということになる。岸田政権がこのためにどのような財政再建目標を掲げ、実行していくのか、また各政党が財政問題―地銀問題にどのようなスタンスを取るのか、注目されるところである。

【④ 米中対立が加速する中、サプライチェーンをどう再構築していくか?】

最後に外交問題である。

バイデン政権はトランプ政権以上に中国に対して厳しいスタンスを採っており、特に前政権との違いは積極的に各国を巻きこんで中国に対して圧力をかけようとする姿勢である。北京五輪に対する「外交ボイコット」の議論は記憶に新しいところだが、最も懸念されるのはいわゆる「サプライチェーン問題」である。

バイデン政権は各国に対しサプライチェーン全般における人権保護、脱炭素化を求める方針を取っている。これはEUも同様である。後者に関しては昨年来の世界全体のエネルギー需給の逼迫及びそれに付随する問題を背景にやや失速しそうな様相を呈しているが、それでも長期的に「サプライチェーンの人権保護、脱炭素化」という政策の軸は揺らがないし、欧米企業のサプライチェーンに組み込まれている日本企業にも当然対応が求められることになる。

そうなると、特に人権問題において、真っ先に問題になりかねないのが中国との関係なわけだが、現実問題として日本企業が「脱中国」のサプライチェーンを構築することは相当難しい。

みずほリサーチ&テクノロジーズの調べでは、2019年段階において貿易品目全4184品目のうち、1389品目で中国のシェアが50%を超えており、さらにそのうち268品目では中国のシェアは90%に上る。したがって仮に日本がサプライチェーンにおいて「脱中国」を目指すにしても、相当長い時間をかけて計画的に代替生産地を確保しつつ進める必要がある。その間中国は当然黙っているわけではなく、例えば希少資源の貿易制限などの、数々の対抗措置を仕掛けてくることになるので、そうした圧力に対して牽制する実行的な対抗手段を持たねばならないことになる。

そう考えると日本がほぼ独占的なシェアを持つ高付加価値品目を中国に輸出し、日中が相互に依存しあうような関係を構築する必要が出てくるわけで、裏を返すとそれは中国国内における先端産業の育成をある程度認めざるを得ないということになる。

岸田政権としてはアメリカに、日本から中国への高付加価値品目(半導体材料、装置など)の輸出をある程度認めてもらいつつも、技術流出は避けるよう慎重な管理をする体制を作る必要があり、それが経済安全保障政策の肝ということになる。ながらく技術管理の体制整備が脆弱であった日本において、このような難しい舵取りができるかどうか、かなり疑問ではあるが、それでも米中対立の中でやらなければいけない立場に日本は追い込まれている。

参院選に向け骨太な議論ができるか

このように2022年は、冒頭にも述べた通りコロナ禍という異常事態からの過渡期であるうえに、少子高齢化の中での移民政策という日本社会にとっての難問の解の方向性を探り、なおかつ米中対立の中で日本としてのポジションを確立しなければいけない、という難しい年である。

そして国内の大きな政治イベントとしては7月に参院選が待ち受ける。それまでにこうした難しい課題について骨太な議論がなされ、解決の方向性について各党が充実した論戦を展開することを望む次第である。

【今月の推薦図書】

経済がわかる 論点50 2022
みずほリサーチ&テクノロジーズ (著)