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かつて、「日付以外は全て誤報」と言われるほど、その飛ばしっぷりとユーモアに定評があったスポーツ新聞「東京スポーツ」を発行する「東京スポーツ新聞社」が、経営難に陥り、社内でリストラの嵐が吹き荒れている。

週刊文春によると、従業員350人のうち、100人程度を削減する予定で、4月に説明会が開かれ、5月中旬まで45歳から59歳までの160人を対象に、希望退職の募集がおこなわれている。

弁護士ドットコムニュースの取材に応じた東スポの現役記者Aさん(50代)によると、希望退職の説明会で、「後に退職することになれば、退職金が少なくなることは確実」との説明をうけると同時に、個別面談も設定され、従業員たちは「ガタついている椅子の椅子取りゲームが行われていて、みんな雨に濡れた子犬」のような状態だという。

●「よほど能力が高くないと残れない」と面談で言われた

今回の希望退職制度では、「通常の退職金+1年分」の給料が提示され、退職に応じると、会社が契約した転職あっせん業者による模擬面接などのサポートが受けられる。説明会では、転職あっせん業者から、「年収は下がる」としたうえで、一般的に、中高年で1年間も転職活動を続ければ、PRや専門紙など、別の企業への転職はほぼできているとの説明があったという。

希望退職の説明会とは別に、上長や人事担当者による面談の場ももうけられ、「よほど能力が高くないと残れない。能力が低いと他の部署に異動になる」「今応じないと、今後はいきなり整理解雇になることもあるかもしれない」といった趣旨の発言があったという。

しかし、Aさんの周りでは、家のローンの返済などを抱える人もいて、希望退職に応じることを躊躇しているケースも多いそうだ。Aさん自身も、転身後に気力がもつかどうかという面から、揺れており、「応じる意思を表明すれば、それで終わるんだけど」と思いつつも、希望退職には応じていない。

希望退職に応じる人が少ない場合、退職勧奨や整理解雇に進んでいく可能性もある。退職勧奨については一般的に、それ自体は違法ではないが、何度も執拗に行ったり、心理的な圧力をかけたりした場合、違法となる可能性がある。

また、整理解雇については、「人員削減の必要性」「解雇回避努力」「人員選定の合理性」「手続きの相当性」が求められ、そう簡単に実行できるものではなく、法的な面からも注意が必要だ。

●20代で1000万円を超えていた年収、今は・・・

ではなぜ、それほどまでに業績が悪化してしまったのか。週刊文春の記事で、もともとは90年代に入社2年目で年収1200万円をもらっていたと書かれていたように、かなり高い待遇だった。Aさんも、20代のころには、ボーナスが年に4回もあり、年収は1000万円を超えていたが、現在はその半分程度まで落ち込んでいるそうだ。

「いま、スポーツ新聞を電車で読んでいる人はほとんどいないでしょう。みんなスマホばかりです。5年、10年前からわかっていたことなのに、会社は紙の新聞を売ることばかりを考えてきた」とAさんは語る。

その後、東スポも「デジタルシフト」に取り組んできた。しかし、東スポが売りにしてきたのは「際どい表現」であり、ウェブでは際どい表現がヤフーやグーグルなどのプラットフォーマーに嫌われてしまうため、売りが売りでなくなってしまう。他のスポーツ紙との差別化は難しくなっていった。

今回の文春の記事について、「がんばれ東スポ」といった励ましの声もネットでは出ているが、「そんな気力もない状況」(Aさん)で、苦境に立たされている。

●従業員の3分の1がいなくなっても、紙面づくりには支障がない?

しかし、それだけ苦しくても、Aさんの感触では、東スポが100人もリストラをして、全従業員の3分の1がいなくなったとしても、「紙面を埋めて、新聞を発行すること自体には支障がないんじゃないか」という。

「東スポは人が余っていると言われてきた。過去にもらいすぎていた世代がたくさんいる」(Aさん)。しかも、希望退職制度も段階的に実施していたのではなく、今回が初めてだという。

結局、時代の変化に合わせて、組織のあり方を段階的に変えて、次を担う部門や人材を育てる、といったことをせずに、今までの延長線上で、中高年の人材を抱え続けて、苦しくなったら一気に吐き出そうとしている、ということなのかもしれない。

せっかく、「ユーモアあふれる新聞」を作り続けてきた人たちが、その面白さを内外で発揮できなくなるとすれば、あまりにも、もったいない。